ポストパンク的なAcidclank、パンクとインディー双方から愛されるAnd Summer Club

――2人とも長く関西のシーンを見られていると思うんですけど、いま注目しているバンドはいますか?

植野「岸田さんは何かあるんですか? 岸田さんが好きなバンドってあんまりいなくないですか(笑)?」

岸田「そうなんですよね。僕はあんまり……もう別に興味ない」

一同「ハハハ(笑)」

岸田「そのなかでも……」

植野「お! いるんですか」

岸田「大阪のAcidclankっていうバンドはめっちゃ好き」

植野「ああ、彼らはいいですね。Post Modern Teamとも合いそう」

岸田「Acidclankも英語なんですよ。英語で、洋楽っぽくて、80年代のUKポストパンクみたいな、メチャクチャ格好良いバンドなんですよ」

植野「リズムのループ感とかにはダンス・ミュージック的なニュアンスもあってね」

Acidclankの2017年のシングル“Lionel”
 

――なるほどね。いまの関西にポストパンク的なバンドはたくさんいるんですか?

岸田「Acidclankだけですね」

――だけなんや(笑)。

岸田「そういうシーンはないですね。ちょっと格好良い言い方になっちゃいますけど、いまの関西のインディーはロンドン・パンクというよりNYパンクなんですよ。ロンドンの初期パンクはスリーコードでどのバンドも似ていたと思うんですけど、NYはラモーンズ、テレヴィジョン、ブロンディー……括りはあっても、バンド個々で音楽性が全然違うじゃないですか? それに結構近い感じですね」

Acidclankのインタヴュー
関西の新鋭Acidclank、〈ひたすら繰り返して気持ちよくさせる〉緻密なサウンドスケープと並々ならぬ宅録愛を語る

――なるほどね。他にはいますか?

岸田「And Summer Clubってバンドは結構好きです。今の西海岸のUSインディーに影響を受けているバンドなんですけど、彼らのおもしろいところは、シーンに関係なく活動できていて、パンクばっかりのイヴェントにも出るし、京都のMETROとかでやっているインディー・ポップのイヴェントにも出ている。で、曲そのものは、And Summer Clubも英語で歌っているんですけど、結構ポップでメロディアスなんです。でも演奏はパンクでガレージっぽくて」

And Summer Clubの2017年のEP『Hyper Boredom』収録曲“Hyper Boredom”
 

岸田「あと大阪のCoughsっていうバンドが、この前Niw!からアルバム(『Best Wishes to You!』)を出したんですけど。彼らは60年代のバーズとかアメリカのポップな雰囲気で……」

――それは珍しいね。いまそういうのをやろうっていう人はなかなかウケへんよね。ハモってるの?

岸田「そうですね。ヴォーカルが2人いるんですよ。2人とも声質がちょっと対照的で違っている」

Coughsの2017年作『Best Wishes to You!』収録曲“Hey Girl!”

 

オアシス×ビートルズ×andymoriなThe Songbards、〈10年代の渋谷系?〉Set Free

――植野さんは?

植野「今年、バレーボウイズと台風クラブがやっぱり関西ではすごかったかなあ」

――HOLIDAY!ですごく売れた?

植野「はい。そうですね。HOLIDAY!としてもそうだし……」

――一般的にも名前を聞くもんね。台風クラブはこの間スカートとも対バンしたよね。あと、〈いま目ぇ付けてんねん〉っていうのがあったら言って。

植野「The Songbardsっていうバンドが神戸にいて、オアシスとビートルズとandymoriを聴いて育ったみたいなバンドで、まさにそんな感じの4人組のシンプルなギター・ロック・サウンド(笑)。andymori以降の世代的な歌モノのロック・バンドっていうんですかね」

The Songbardsの2017年のEP『The Songbards First E.P.』収録曲“雨に唄えば”
先日、初の全国流通盤『Cages in the Room』を2018年1月31日(水)にリリースすることを発表
 

――それはいまっぽい感じなの?

植野「いまっぽいですね。なんかいまのバンドってandymoriがキーワードとして出ることが多いですね」

――へー。インディーズのギター・ロック・バンドのなかでだとそれがキーワードなんだ。

植野「20歳すぎくらいの子らはやっぱりそうですね」

――あとは?

植野「あと、メチャメチャ無名なので最近好きなのが、京都の精華大にSet Freeっていう2人組がいて」

岸田「あっ、なんか聞いたことある」

植野「フリッパーズ・ギターとスピッツが好きって言っててホンマにそんな感じ(笑)。渋谷系みたいな」

――渋谷系なんや。

植野「ただ、メチャメチャ曲が良い」

Set Freeの2017年の楽曲“インスタントソング”
 

――そういうバンドはどうやって知るの? SoundCloudとか?

植野「最近は、向こうから連絡があることが多いんですよね」

――そっか。〈置いてくれ〉って言ってくるのね。

植野「そうですね」

――じゃあ、ライヴはまだできへんけど、音源作りましたっていう人も多い?

植野「多いですね。ただ、まったくライヴ活動をしていないみたいなバンドはちょっとキツイですね、取り扱う基準として」

――ライヴを観て〈めっちゃ良いからCDを買った〉となれば、絶対〈次もライヴ観たい〉ってなるしね。集まってくる音源ではどこが一番多いですか?

植野「やっぱり東京のバンドからの問い合わせは多いですね」

――大阪よりも?

植野「多いですね。言われてみれば、大阪の場合はライヴハウスでの出会いが多いから、わざわざ連絡してこないよなってのがあるにせよ」

――自分でライヴハウスとかで発見したものと送られてくるものでは、いいものはどっちが多い?

植野「難しいな……でも送られてきたもののほうが少ないと思います」

――へえ。やっぱり自分で聴いて見つけてってのがいちばん。

植野「そうですね」

――でも、それがたぶんお客さんからの信頼になってくるよね。どこのレコ屋でも、COCONUTS DISK吉祥寺店だったら矢島(和義)さんとかFLAKEだったら和田(貴博)さんとか、その人が推すから聴いてみようって名物のバイヤーがいるしね。ただただ売れそうやからって推していると、見透かされるというか。

岸田「僕を経由してHOLIDAY!に委託お願いしますとか頼まれることもあるんですよ。ただ、僕自身に明確な基準はないんですけど、〈これはHOLIDAY!には合わないんちゃうかな〉ってものもあるんです。で、そういうのを渡すと植野さんも〈ちょっと違う〉って」

――でも一応渡すんや(笑)。

岸田「渡します(笑)。(そういうバンドは)なんすかね、ちょっと優等生すぎる、普通というか。うまいんやけど個人的にはHOLIDAY!で取り扱っているのは、いい意味でいなたさがあるバンドのような気がします。完成されすぎているバンドは別にHOLIDAY!じゃなくてもいいんじゃないかな」

――最後に、それぞれ今後どういった活動をしていきたいかを教えてください。

岸田「より自分の音楽を磨いて、1人でどこまでの物を作ることができるか、ソロ・プロジェクトとしてとことん自己満足を追求していきたいです。あとやっぱりPMTの売りはポップでキャッチーなところだと思うので、普段日本のインディーや洋楽なんかを聴かない層の人たちにも聴いてもらえるようになりたいです」

植野「流行りに流されず、カッコいいバンドを引き続き広めていきたいですね。居場所であり、なにかワクワクするような発信基地になりたいです。レーベルとしては、バンドの拘りをそのまま自由に作品にしてもらえるようなレーベルに。来年もリリースを予定しています!」