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〈ベラ・ユニオンを象徴する10枚のアルバム〉後編

――ファーザー・ジョン・ミスティことJ・ティルマンのアルバムは、この名義でのファースト・アルバム『Fear Fun』(2012年)を選ばれました。

「彼のことは、フリート・フォクシーズに入る前のソロ時代から知っている。バンドに入ってからはあまり時間がなくなり、その3年間は彼にとって〈素晴らしい経験〉と言えるものではなかったかもしれないけど、いろいろなことを考える良いきっかけにはなったと思う。また音楽を作りたいと思えるようになったし、彼のあの創造性というか、キャラクターというか、彼が持っているあの独特の何かは、あの時期に培われたものだと思うしね。

で、このアルバムが出来上がった。これが彼のファースト・アルバムだと思った人も多く、〈フリート・フォクシーズのドラマーが出すソロ・レコードなんて、そんなに良くないんじゃない?〉などと考える人もなかにはいたけれど、ライヴ・パフォーマンスなどを通じて自分の音楽を広めた結果、じわじわと聴かれるようになっていったんだ」

ファーザー・ジョン・ミスティ『Fear Fun』収録曲“Nancy From Now On”
 

――ジョン・グラントは、2013年のセカンド・ソロ『Pale Green Ghosts』ですね。

「ジョンの話はもうしたよね(笑)。このアルバムは、それまでの彼のサウンドとは全然違っている。彼は2012年にアイスランドに行って、プロデューサーのビッギ・ヴェイラ(ガス・ガス)と一緒にこのアルバムを作った。その時にアイスランドがすっかり気に入ってしまって、今も向こうに住んでいるよ(笑)。エレクトロ・サウンドやストリングスの使い方がとても秀逸で、ジョンを次のレヴェルまで持ち上げた重要作と言えるね」

ジョン・グラント『Pale Green Ghosts』収録曲“Pale Green Ghosts”
 

――ビーチ・ハウスの4作目のアルバム『Bloom』(2012年)は僕も大好きです。

「さっきも話したように、ビーチ・ハウスはファースト・アルバムから少しずつベターになっていった。そして、このアルバムで本格的に勢いがついたんだ。レーベルのなかで、最も素晴らしいレコードの一枚だと思うよ」

ビーチ・ハウス『Bloom』収録曲“Lazuli”
 

――ローラ・ヴェイアーズ(Laura Veirs)の通算7作目のアルバム『July Flame』(2010年)を選んだ理由は?

「ときに、彼女のような存在は、人々に忘れられてしまうときがある。素晴らしいシンガー・ソングライターなのに〈トレンディー〉じゃないという理由だけで、十分な注目が得られないことがあるんだ。ローラ・ヴェイアーズは、僕らにしては珍しく、デモを聴いただけで契約を決めたアーティストだった。その後彼女は一度メジャーに移って、2枚のアルバムを出したけど、それがあまり上手くいかず、また僕らにコンタクトを取ってきたんだ。もちろん嬉しかった。彼女の素晴らしさはわかっていたからね。

普通なら、一度出たアーティストをまた向かい入れたいとは思わないけど、彼女は例外だった。レーベルを出たのは彼女の意思ではなかったし、ローラはずっとベラ・ユニオンに戻りたいと思っていたからね。そんなわけで、彼女が戻ってきてくれた後にリリースしたこのアルバムを選ぶことにしたんだよ」

ローラ・ヴェイアーズ『July Flame』収録曲“July Flame”
 

――ダーティ・スリーの『Whatever You Love, You Are』(2000年)は、ベラ・ユニオン移籍後第二弾、彼らにとって通算5作目のアルバムです。

「このレコードを制作している現場を見ていたんだけど、ロンドンの近くにあったセプテンバー・サウンド(September Sound/ロビン・ガスリーが所有していたスタジオ。以前の持ち主はピート・タウンゼント)で、僕らがよく知っているエンジニアのリンカーン・フォングと一緒に作った作品。サウンド・プロダクションが素晴らしく、彼らの最高の時間を捉えているアルバムなんだ」

※コクトー・ツインズやジーザス&メリー・チェインらの作品への参加でも知られている

ダーティ・スリー『Whatever You Love, You Are』収録曲“I Offered It Up To The Stars & The Night Sky”
 

――エクスプロ―ジョンズ・イン・ザ・スカイはサード・アルバム『The Earth Is Not A Cold Dead Place』(2003年)を選ばれました。

「なぜなら、僕と妻は本作に収録された“Your Hand In Mine”が流れるなかで結婚したんだ。僕らのウェディング・ソングなんだよ。それが理由だね(笑)」

エクスプロ―ジョンズ・イン・ザ・スカイ『The Earth Is Not A Cold Dead Place』収録曲“Your Hand In Mine”のライヴ映像
 

――最後は今年リリースの作品。フレーミング・リップスの14作目となったアルバム『Oczy Mlody』です。

「リップスの音楽を聴くことを、途中で断念した人もきっと多いと思うんだ(笑)。なんて言ったって、彼らの音楽は変わっているからね、好き嫌いはあると思う。でも、今年リリースしたこのアルバムは、一度リップスから遠ざかったファンをもまた巻き込めるくらい、素晴らしい作品だと思うよ」

フレーミング・リップス『Oczy Mlody』収録曲“The Castle”
 

――以上、10枚を選出いただきました。さて、最後にレーベルの今後をお訊きしたいです。どんなヴィジョンをお持ちですか?

「僕は正直、あまりプランを立てすぎないように気をつけてるんだ。と言うのも、プランがどうのというより、その日をいかに過ごすかを考えるほうなんだよね。いちばん近い目標のことだけを考える。来年はリリースも多いし、フェスの出演やツアーも多いから、きっとかなり忙しいと思う。わかっているのは、実はそれだけなんだ。ごめんね!」