今年4月に発表されたファースト・アルバム『Mars Ice House』における、毒気のあるファンタジーをエモーショナルにスピットするラップと現代のバブルガム・ポップとも形容し得る極彩色のトラップ・ビートによって、一躍注目を浴びたヒップホップ・ユニット、ゆるふわギャング。その一翼を担う女性MC、SophieeがNENE名義でのソロ・アルバム『NENE』を早くも完成させた。

NENE NENE Mary Joy(2017)

 「自分としてはハイペースのつもりはなくて、もっといける、みたいな。曲は常に作っているし、作っていたいし、今回のアルバムも気付いたら出来てた感じですね」。

 ゆるふわのパートナーであるMCのRyugo Ishida、ビートメイカーのAutomaticと、SALUやSEEDA、NORIKIYOらを手掛けるEstra  a.k.a. OHLDから成るプロデューサー・チームの全面バックアップのもと、本作にはゆるふわとは異なる彼女のパーソナルな世界が広がっている。

 「私は小さな頃から親や近所の人に〈NENE〉って呼ばれていて、その話をみんなにしたら、〈それいいじゃん〉ってことになって。ちょうど、今回のソロ・アルバムは楽しい感じで今のリアルを歌っているゆるふわと違って、自分のことをわかってほしくて、内面と向き合って作っていたこともあるし、それを名前でも表したくて、今回、名義を〈NENE〉にしたんです。私は東京生まれで、ずっと東京で暮らしてきたけど、Ryuくん(Ryugo Ishida)と出会って、彼の地元の茨城だったり、ライヴでいろんな土地に行ったりすることで、東京にいる自分を見つめ直すことができたというか。確かに東京は便利だし、何でもあってすごい街だけど、〈狭いな〉とも思うようになって。だから、今回の作品は〈音楽で休める場所〉をイメージしたところもあります」。

 彼女が日本語ラップを聴くきっかけとなった憧れのラッパー、5lackのフロウが心地良い“風”やほか2曲に参加するRyugo IshidaとSALUをフィーチャーしたメロウかつディープな“朝に得る”をはじめとした楽曲は、下敷きにしたトラップ・ビート特有の張り詰めたテンションや渦巻く低音のハメよりも、メロウにしてクリアな抜けの良い聴き心地やネイチャー指向の開放感を際立たせているところに彼女らしい個性が強く感じられる。

 「自分としてはトラップを意識してないんですけど、〈新しいものを作りたい〉という気持ちは常にありますし、〈自分〉を表現するうえで今回のチルなテイストが合っていることに制作過程で気付いて。1週間くらいレコーディング合宿していた軽井沢のスタジオでは、自然豊かな、静かなところを散策して自分を解放することで、すごくいい感じで曲が出来たり、いろんな発見がありましたね」。

 そして最大の発見は、自身の過去をフリースタイルで歌い綴った“Shinagawa Freestyle”や彼女のスタンスを打ち出した“Damn Phone”“群れたくない”といったナンバーを通じ、彼女がその言葉と音のなかに自分自身の姿を捉えたところにある。

 「昔から私は周りに流されることなく、〈自分は自分〉って感じだったし、このアルバムを作っている最中に、私は頑固なんだなって改めて思いました(笑)。それと同時に、人との出会いや自分の気持ちを大事にできるようになった自分の成長にも気付かされましたね。Ryuくんとの出会いから始まって、ゆるふわが出来て、何もかもが変わっていって、このアルバムが今の自分なんですけど、ソロ・アルバムを作り終えても曲作りが止まらないんですよ。私はもっと自由に、そして、自分は自分でいたいので、今後も音楽を作り続けるのみですね」。

 


NENE

Ryugo Ishida(MC)、Automatic(プロデューサー)と2016年に結成したユニット、ゆるふわギャングの女性MC、Sophieeによるソロ・プロジェクト。ディプロにツイートされた“Fuckin' Car”をはじめとする数々のMVで認知を広め、ゆるふわギャングとしては2017年4月に初アルバム『Mars Ice House』を、同作からのリカットで9月に7インチ・シングル“Dippin' Shake”を発表している。そのほか、SALUの2017年作『INDIGO』における“夜に失くす”への客演や、〈SPACE LOVE SHOWER〉〈Ultra Japan〉といった大型フェスへ出演するなどして、活動の場を拡大。このたび、NENE名義としてのファースト・アルバム『NENE』(Mary Joy)をリリースしたばかり。