Don't Stop Til You Get Enough
多くの経験を重ねながら独自の音楽志向を磨き、歌への思いを培ってきた西恵利香。豪華な作家陣を迎えてついに完成した初のフル・アルバムは、揺るぎない個性に新たな魅惑も加えた表情豊かな一枚に仕上がっているぞ!

 たまに沸き起こるアイドル/アーティスト論みたいな話とはまるで関係のない次元で、この『soirée』に用意されているのはそういう区分をそもそも要さない音楽ではあるけれど、もし経歴や肩書きだけを基準とするような人がいたら、その物差し自体をひとまずリセットすることを前提にしてほしい。西恵利香はアイドル・グループのAeLL.で2011年にデビューし、その在籍時からErika.名義でソロ・デビューも果たしていた、魅力的な歌声の持ち主である。グループの無期限活動休止後はソロ活動に専念し、2015年の名品『LISTEN UP』などコンスタントにミニ・アルバムを届けてきた。

 そんな彼女がここまで注目を集めてきた要因は、同時代的なシティー・ポップ/AOR再興のムードやディスコ/ファンク/ブギーの浸透といったここ数年のトレンディーな流れにうまくリンクしたことにある。もちろん、そうしたサウンドはブームとは無関係に連綿と紡がれてきた普遍的なスタイルでもあるわけで、もともと歌唱力に定評のあった彼女が、大人っぽいニュアンスの活きる楽曲群と幸運な出会いを果たしてきたということだろう。かねてから自主企画イヴェント〈Make my day!〉にCICADAやG.RINA、SHE IS SUMMERらを招くなど、本人もそうしたアプローチへ自覚的に取り組んできていた。

西恵利香 soirée para de casa(2017)

 だからして今回移籍したレーベルがそのCICADAやUKO、AFRO PARKERを擁するpara de casaというのも納得だ。配信シングルを経て到着した『soirée』はキャリア初のフル・アルバム。the oto factory製の808系エレクトロ・ファンク“LAST SUMMER DRESS”、BAOBAB MC(HIROKI TOYODA)によるビターな“AFFOGATO”といった先行曲も期待を煽る出来映えだったが、西自身の嗜好に則って集められたという収録曲群は、ここまで磨いてきたスタイルを下地にしながら彼女の歌世界を入念にグレードアップさせている。G.RINAらしい手捌きのアーバン・ブギー“街へいこう”、ひろせひろせ(フレンズ)作の切ないディスコ・ポップ“誰よりも素敵な”、Yokemura(YMCK)作のオーセンティックで美しいバラード“綺麗な嘘”、ニュー・ジャック的な軽やかさで迫るCICADA組の“sugar me”……と多様な顔ぶれによる素晴らしい成果が並ぶなか、異形のフューチャー・ベースっぽい黒魔の“はるか数駅”のような新機軸も奏功しており、なかでも鮮烈なのはスクリッティ・ポリッティを連想させるDÉ DÉ MOUSEの未来派ファンク“Lonely Night”(作詞は西が担当)だろう。

 〈夜会〉という表題に相応しく、全編に漂うのは都会の夜のフロアのような洒脱にして親密な雰囲気。従来の爽やかで伸びやかな印象とはまた違う表情が魅力的に照らし出されていて、ここから始まる新たな何かに大きな期待を寄せたくなる。上々の一作。