エンリコの真骨頂! 90年代屈指の2枚が再発

 20年以上の時を超えて、イタリア、いや、欧州ジャズ最高の2枚が音質の進化を身につけたUHQCDで甦った。西山瞳が〈最も影響を受けたピアニスト〉に挙げるエンリコ、その真骨頂が全ての面でこの2枚に結実した。Haden=Higginsとの『First Song』、さらに日本制作された『The Night Gone By』を加えて中期最高傑作になる。

 70年代から本格的な活躍を始めたエンリコにとって、80年9月15日のビル・エヴァンスの旅立ちが自分の時代の到来を予感させた。ミシェル・ペトルチアーニとエンリコに引き継がれた80年代ジャズピアノの王道に於いて、早熟のミシェルに対してエンリコは本稿の2作によってついに盟主へ名乗りを上げる。今回数十回聴き直しだが、リマスタリングの妙によって2枚が別の次元の作品に変わった印象を持った。確かにイタリアの音なのだが、エヴァンスの時代のあの熱気がここにはある。

ENRICO PIERANUNZI No Man's Land King International(2017)

 『No Man's Land』ではエンリコは主旋律から第二メロディと言っていい即興旋律を引き出し、さらにその即興旋律から第二の即興旋律を展開していく。4分あまりの“The Man I Love”でも次々と生み出されるメロディは聴く者を次第に術中にかけ、心の深い所へと沁み込んでいく。ハードバップの時代が持つ圧倒的な磁力とは異なる精妙な磁力が、聴く者を捉えて離さない。エヴァンスとの対比が分かり易い“If I Should Loose You”でも、エンリコはエヴァンスより進化したアプローチでベースと一体化して即興演奏を耀かせている。

 

ENRICO PIERANUNZI Seaward King International(2017)

 チェカレリ参加の『Seaward』で最も感心するのは“This Is For You/But Not For Me”のメロディの採り上げ方だろう。冒頭からハイテンション溢れる即興が展開され聴く者を痺れさせたまま、フリーなアプローチで進行する、〈左派エンリコ〉の真骨頂が輝く! この一曲でこの盤は抜きん出る! そして、中間部の小休止から転換、“But Not For Me”のメロディが〈ソラリゼイション気味〉に見事に挿入されていく。この間息はつけない。90年代屈指の2枚だ。オーディオファンも必聴。