INTERVIEW

BRIAN SHINSEKAI『Entrée』 ニューウェイヴィーなシンセ・ポップ・サウンドへ転身したロマンティストが描く壮大な愛の物語

BRIAN SHINSEKAI『Entrée』 ニューウェイヴィーなシンセ・ポップ・サウンドへ転身したロマンティストが描く壮大な愛の物語

ニューウェイヴィーなシンセ・ポップ・サウンドへと転身したロマンティストが描く壮大な愛の物語。胸膨らむ昂揚感の果てに訪れる結末は……

自身の表現と時代性

 イーノ、ウィルソン、フェリー……敬愛するアーティストのファースト・ネームを自身の名に冠したシンガー・ソングライター、ブライアン新世界。彼が名義をBRIAN SHINSEKAIへ改め、初アルバム『Entrée』でメジャー・デビューを果たした。10代限定のフェス〈閃光ライオット〉のファイナリストとなり、2011年には『Low』オマージュのジャケでデヴィッド・ボウイ愛を示した『LOW-HIGH-BOOTS』を発表。グラマラスかつハード・ロッキンなサウンドを鳴らしていた彼が2018年に提示した音は、なんとニューウェイヴィーなシンセ・ポップだった。この激変ぶりはいったい?

 「〈トリックスター的なものを表現する〉という根底はそんなに変わってないんですけど、〈それは今の時代にやるべき音楽なのか〉を以前は意識しないで作っていたというか。例えばボウイなら、あのグラム・ロックがアートなカルチャーとして見えたのは、サイケの時代を経てロックンロール回帰があって、〈今ならグラム・ロックがきそうだ〉って時流を読んだからなんじゃないかと。僕は、ボウイのそうした方法論に感動しているんだということに気付いたんです。ボウイだけじゃなく、僕の好きなアーティストはみんなそう。自分がいちばん表現したいものを、その時代に合わせた最先端の音楽で切り取って、自分なりのアートとして提示する。そこに対して今、自分ならどうアプローチするだろう?と考えたとき、自然に行き着いたのが『Entrée』なんです」。

BRIAN SHINSEKAI Entrée ビクター(2018)

 その制作にあたり、音楽的なロジックはカルヴィン・ハリス『Funk Wav Bounces Vol.1』をきっかけに見い出したという。

 「デビュー当時のカルヴィン・ハリスはMGMTの密室ヴァージョンというか、コンピューターおたくみたいな感じのロックをやってるなという印象だったんですけど、EDMの流れに乗ってガーンといって、シーンの寵児みたいになって。それが『Funk Wav Bounces Vol.1』では生音のソウルフルな方向でコアな音楽ファンも唸らせつつ、ライトなリスナーもノれる音楽を作っていて、あのバランス感は­2017年だからこそ行き着いたものだと思ったんです。僕の根底にソウル・ミュージック自体はないんですけど、80sのシンセ・ポップ~ニューロマ、ニューウェイヴから派生したブルーアイド・ソウル的なものがあるので、それを元にカルヴィン・ハリスのロジックをBRIAN SHINSEKAIにあてはめてみようと」。

 bounceの連載では〈ボウイとパニック!アット・ザ・ディスコを媒介にパディ・マクアルーンを2017年のサウンドに結び付けた〉と解説してくれた“首飾りとアースガルド”をオープナーとする今回の新作。一言に〈シンセ・ポップ〉と言ってもさまざまな時代の音を現在へ引き寄せることで彩り豊かな音楽性を獲得しているが、「サウンドはあくまでも三角形のなかの一点で、サウンドとヴィジュアル、ヴァーバルのバランスが大切」と語るだけあって、全12曲の歌詞もまた独特。〈虹の橋〉を通じて西洋の神話と現代のラヴストーリーがランダムなタイムラインで交錯する構成に加え、セクシーかつラグジュアリー、良い意味でのキザさもあるリリックは、キャッチコピー的な言葉の連鎖でひとつのイメージを形成した往年のシティー・ポップを彷彿とさせる。

 「直接的な表現ではなく、コピーライター的な感性を歌詞に落とし込む書き方は、80年代のシティー・ポップに近いかもしれないですね。それと日本の歌謡曲的なテイストや、さらに遡って丸山明宏さんやあがた森魚さんに感じる日本の叙情的な部分、神話的な部分も含むトラディショナルな歌詞も好きで。それを日本人のオリエンタルな感性で表現した歌詞と今のサウンドをミックスしたら、納得いく作品が作れるだろうと思いました。
 神話と現代を繋ぐ構成については、国も、時代背景も違う6つの物語を一人の主人公で、一貫したテーマで完結させている『クラウド・アトラス』っていう映画をちょうど観たりしていたんですけど、これは時代背景がバラバラだからこそ、スッと腑に落ちる物語になってるんじゃないかなと思って。例えば、自分の中には東欧の感覚や東アジアのエスニックな感覚、あと女性的な部分もどこかしらあるし、そのパーソナルな部分を全部出そうとした結果、宇宙的だったり、北欧的だったりする歌詞が出来たりしているので、ひとつの時代に絞ることは僕にとって不自然だったのかも」。

 

〈愛する心〉の起源

 「エヴァーグリーンなラヴソングが好きで、そういうものを作ることで喜びを感じる」というBRIAN SHINSEKAIが今作のテーマとしたのは〈愛〉、ひいては〈死生観〉。聖書や神話を下敷きにしたパートでは観念的に、現代の風景が投影されたパートではより日常的なものとして、君と僕の愛の物語が綴られている。その発端を担うのは、フィリー風のシンセ・ストリングスも官能的なディスコ・チューン“TRUE/GLUE”と、フルカワユタカによるギター・カッティングがメトロポリタンな情景を立ち上げる“東京ラビリンス”だ。

 「90年代のジョージ・マイケルの曲を久しぶりに聴いたらすごく新鮮で、ソウルとヒップホップ的なビートと、白人の伸びやかなヴォーカルの組み合わせがタキシードとリンクして聴こえた瞬間があったんです。“TRUE/GLUE”はそれを自分なりにやってみようと。歌詞は、セクシーなのが好きなのかもしれないです(笑)。でも、あまりに直接的な表現は苦手で。といっても遠回しではなく、ロマンティックに直接的に、そういう表現が良いなと思ってます。
 “東京ラビリンス”はボウイの“Modern Love”、ナイル・ロジャースの印象的なカッティングを2017年、2018年のシティー・ポップへ組み込みたかったっていう。そこに歌謡曲のテイストを合わせました。最近のシティー・ポップは無機質で、アメリカナイズドされたクールなメロディーのものが多いと思うんですけど、僕の根幹にあるのは日本のニューミュージックなので、オリジナリティーというところでメロディーはサビがしっかりとあるドラマティックなものにしてます。歌詞は、神話的なファンタジーだけではなくリアリズムも持たせたくて、〈東京〉がテーマの歌を入れようという考えがはじめからありました。ここで言う〈東京〉は、たまに観る高層ビルの夜景とかのイメージ。〈非日常の東京〉です」。

 続く“FAITH”は本作のひとつのクライマックス。EDMのフォーマットを我流で鳴らした華やかなダンス・チューンだ。

 「“FAITH”はサビ前にシンセのメロディーがくるっていうEDMの構成を80s、90sのサウンドで落とし込んだ、アルバムの中でも気に入ってる曲です。歌詞のテーマは全体のキーワードでもある〈ビフレスト(=虹の橋)〉。人間の出会いと別れには生き死にが関わってくることが必ずあると思うんですけど、そのときに湧き上がる感情は、過去から、そして恐らくアンドロイドの時代がきたとしても未来永劫変わらないだろうと思うんです。そこに対して、なぜそういう感情──〈愛する心〉が起こるのかを深く考えていくと、結局は〈FAITH(=信仰)〉という言葉がしっくりくるというか。“首飾りとアースガルド”ではそこをキャッチコピー的に書いてるんですけど、ここではその核を歌ってる。なぜ“首飾りとアースガルド”のようなストーリーになったのかをここで表したいなって」。

 

陽に転じていたい

 そこからメロディーと歌詞に上田現からの影響が表れているという“ゴヴィンダ”と“バルバラ”――インドを旅した際に感じたピュアネスと、聖バルバラの物語をモチーフに〈君〉の人物像を示した2曲を挿み、物語は後半へ。スタイル・カウンシルのあの曲を連想するシンセ・フレーズも印象的な“ルーシー・キャント・ダンス”は、メロディアスに行き来する地声とファルセットが切なさを募らせる一曲だ。

 「僕が好きなダンス・ミュージックって、強者が踊り散らすためにやっているというよりは、弱者――マイノリティー側の人が非現実的な世界へ飛べるもの、そこで勇気付けられるようなもので。弱者目線で作っているからこそ逆にキラキラしたサウンドのシンセ・ポップやダンス・ミュージックに感動してきたので、この曲には悩み尽くした主人公がそれでもちゃんと朝焼けを見て踊れるような、そういうポップソングを作りたいという入り口がありました。〈虹をかける〉というワードがありますが、歌詞は意図的に現代劇として書いてます。アガペーとして、〈与える愛〉を現代の恋愛に落とし込みたいと思って」。

 さらには「バキバキでない、AOR風のソフィスティケイテッドされた80sサウンド」をめざしたという“CICADA”、2000年代以降のシンセ・ポップにヒントを得た“クリミアのリンゴ売り”“Loving the Alien”を通過して辿り着くのは、コズミックなスケール感を持つインスト“2045”と、そこから連作の如く雪崩れ込む“トゥナイト”。合唱コーラスが盛大に響き渡るレイヴ・チューンがエンディングを引き受けている。

 「BRIAN SHINSEKAIになってからは〈今〉を届けるアーティストでありたいと思っているんですけど、でも自分は過去の音楽からもたくさん影響を受けてきたし、未来へ向かっても歩んでいかなきゃいけない。それを同時に音楽で表現するにはどうしたらいいだろう?って。そこで露骨に古典を、自分がいちばん好きなクラシック、ドヴォルザークの〈新世界より〉を引用し、それに対してアンドロイド時代――身近にシンギュラリティ(人工知能の発達によって人間の文明が変化する、2045年には人工知能が人間を超えるだろうという仮説)って言われている、自分が想像でき得る未来について思いを馳せながら、同時に2017年の最新のテクノロジーのサウンドを作ることで、〈今〉と〈過去〉と〈未来〉を同時にアウトプットしたっていう。それで〈Theme of SHINSEKAI〉っていう副題も付けたんです。
 最後の“トゥナイト”は、自分の中で答えが出ていないのに無理やり決着付けてしまうようなエンディングは迎えたくないなと思ったので、99.9%しか出ていない自分の中の答えをそのまま曲にした感じです。例えば井上陽水さんの“傘がない”っていう楽曲はAメロで社会情勢を歌っていながら、行き着くのは目の前の、〈傘がなくて君に逢いたい〉っていうことで。結局どんなにマクロな視点で考えていっても、行き着くところは目の前の数センチだったりするので、そういう意味では“トゥナイト”という言葉で終わらないとアルバムが帰結しない。サウンドに関しては、簡単に音楽をディグできるようになった今、DJの作るものってものすごく音楽的な造詣が深いと思うんですけど、シンセで作るとなると、やっぱり80年代の音楽がベースにある人も多かったり。アヴィーチーとかにもどこかペット・ショップ・ボーイズ的な部分を感じることもあって、この曲はそのペット・ショップ・ボーイズあたりのサウンド、雰囲気を現代の技術環境で、なおかつ日本の歌謡曲も、クラシック音楽も大好きな僕が今の時代なりに落とし込んだらどうなるか、そのバランスで作った曲ですね」。

 ロマンティックな華やぎを増すほどに胸を締め付けるような音楽体験をもたらす『Entrée』。だが、聴後に残るのはなんとも清々しい昂揚感だ。

 「キラキラしたものほど実は儚い内面性を帯びていると思うんですけど、自分はやっぱり、聴き終わったときに陽に転じていられる作品を作りたかった。『Entrée』も、そういうポジティヴな生命力を感じてもらえるものに仕上がったと思ってます」。

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