INTERVIEW

音楽を存在証明にしないこと―People In The Boxが柳樂光隆に語った創作の秘密

People In The Box『Kodomo Rengou』

山口大吾(ドラムス)、波多野裕文(ヴォーカル/ギター)
 

昨年、ceroの荒内佑とceroのサポートを務めるCRCK/LCKSの小田朋美と話していた時に、会話の流れのなかで小田が〈私、以前からPeople In The Box(以下、ピープル)が好きなんですよ。荒内くんも聴いた方がいいよ〉と言ったことがあった。別の時に吉田ヨウヘイと話していると、〈僕の周りにピープルを好きなミュージシャンがかなりいるんですよ〉という言葉が出たことがあった。変な言い方だが、いままでピープルの名前が出てこないような人たちと話をしている時に、彼らの名前が出てくることが何度もあった。その時は、へえ、ピープルを気にしている人が多いんだなとぼんやり思っていた。

2016年にはヴォーカリスト/ギタリストの波多野裕文のソロ・アルバム『僕が毎日を過ごした場所』が、2017年にはチャットモンチーの橋本絵莉子とのデュオで『波多野裕文橋本絵莉子』がリリースされた。ピープルというロック・バンドのイメージから少し離れた歌もののプロジェクトの素晴らしさが波多野の魅力をより広く伝えたことも、ピープルへ興味を持つ人が増えた理由なのかもしれない。

ミニ・アルバム『Talky Organs』(2015年)とベスト・アルバム『Things Discovered』(2017年)を経て、ピープルは3年半ぶりのフル・アルバム『Kodomo Rengou』をリリースした。変拍子をバキバキにキメながらグルーヴしつつ、思いもよらない展開が次々に現れる楽曲をさらっと演奏しながらも、それがフレンドリーな歌ものとして成立している彼らの音楽性は変わらない。ただ、この新作は、これまでのピープルとは何かが変わっているのが確実に感じられる。

そういえば、昨年末にあった吉田ヨウヘイgroupの『ar』リリース・イヴェントに出演した際は、波多野の声が出なかったアクシデントをヴォーカル抜きのパフォーマンスで乗り切っていた。歌がなくても成立する楽曲と演奏の質の高さには驚愕したが、その時に見せた印象と同じ次元の演奏がアルバムのなかでも鳴っていたのに気付いた。これまでになく音楽がフィジカルで、演奏が噛み合う精度や噛み合っている時の空気感がそこには的確に収められている気がした。そんなピープルの新作『Kodomo Rengou』の秘密を、波多野とドラムスの山口大吾に訊いた。

People In The Box Kodomo Rengou CROWN STONES(2018)

 

〈曲が出来たから発売する〉のであって、〈発売するから作る〉というのは本末転倒

――『Kodomo Rengou』はどのくらいの期間をかけて作ったんですか?

波多野裕文「アルバムとしては3年半ぶりです。ただ、その間にミニ・アルバムと、新録と新曲が入ったベスト・アルバムがありました。実際に制作にかけたのは1年半くらいかな」

山口大吾「最初にドラム・パターンをメンバーに投げた時を考えたら1年半くらいになるね」

波多野「ベストに入れる新曲を作っていた時に片鱗みたいな曲はもう作っていたので、発端を考えると1年半くらいですね」

――その間、ライヴは結構な本数をやっていますよね。

波多野「定期的にはやっていますね。制作のサイクルで、盤(アルバム)を作ってからそれをライヴでやるっていう順番になっていたので、今回は原点に戻るというか、新曲をある程度ツアーのなかで試しながら作っていくってことをやりたいなって思いました。それを考えると、そのなかでビルド・アップされてきたところもありますね」

『Kodomo Rengou』収録曲“かみさま”のミュージック・ビデオ、撮影・編集は波多野による
 

――そういう〈ライヴからレコーディングへ〉というプロセスになった理由はありますか?

山口「波多野くんが〈CDを出すペースが早すぎる〉って言っていたんです。ベストを出す前までは年に1枚とか、そういうペースでやっていたんですよね。メジャーでやっているので、求められるっていうのもあって。〈いついつに出しましょう〉っていうのが最初に決まって、そこに向けて制作をしていくっていうスタイルがずーっと続いていて。でも、そういうのもお客さんは求めてないよって話は雑談レヴェルで出ていて」

波多野「〈曲が出来たから発売する〉のであって、〈発売するから作る〉っていうのは本末転倒なことをやっているんじゃないかって。僕らの場合はいかなるときでもクリエイティヴに作れると思っているので、それを問題だと思っていなかったんですけど、よく考えて〈健全に〉というか、正しい順序でやってみるかって思って」

――そもそもピープルって曲が難しいですよね。ドラム・パターンとかも複雑で、それをバンドでグルーヴさせるには、曲を練り上げてから録った方が順序的には楽そうではあるんですけど。

波多野「そこはあまり考えていなかったですね。でも、ライヴでやるごとに曲が良くなっていくんですよ、どうしても。なので、これまでの作品ではそれが盤に入っていないっていう悔しさはありましたね。今回は逆の手順でやったので、ある程度やりなれた状態でレコーディングするっていうシンプルな発想です。

ピープルは難しいことをやろうとしているというよりも、〈曲をこういう風にしたい〉っていうのをひとりひとりがお互いの変化を見ながら詰めていくと、難しいって言われるような曲にはなることもあるんです。でも、自分で解析してみると、ピープルの曲の構造って全部〈ヴァース/コーラス〉なんですよ――〈Aメロがあって、サビがあって〉っていうオーソドックスな構成になっていて。自分たちでは変化球的なことをしようっていうよりも、案外、考えに基づいて作り上げていくっていう感じですね」

山口「確かにピープルの曲は覚えやすいよね」

波多野「そういう意味で言うと、サビを経た次のAメロが最初のAメロと同じってことは絶対にない。それは単純に、音楽って時間芸術なので。例えば、日曜日が終わって、次の月曜日が1週間前と同じ気持ちでいられるかというと、そんなことはなくて。月曜日は前日の日曜日に体験した楽しさを引きずっているわけですよね。

だから、曲の構造としてはすごく単純なんだけど、そういう細かい時間経過での変化とかは考えて作っています。アレンジは部分、部分で詰めたりするけど、最後にいじるのは尺だったりするんですよ――〈曲の尺をあともう1周ほしい〉とか、〈ここ、2拍分要らないかも〉とか」

山口「歌う予定のところで伸びたり、縮んだりとか。いじるのは歌というか、歌詞だよね。そこは僕とか健太(福井健太/ベース)は見えないところなんですよ。ある程度イメージを膨らましてやるしかないんですけど、波多野くんのなかでは何となくこういうものを歌おうというのは漠然としてあるので、〈ここのサイズをちょっと伸ばす〉とか、そういうのはありますね」

波多野「歌いたい〈分量感〉みたいなものがあるんです。アレンジしていくなかで詞の内容も変わったりはするんですけど、変わっていきはしつつも、僕がどうしてもそっちに誘導したい時は尺をいじったりします」

――その〈分量感〉って、歌詞の内容だけじゃなくて、曲が持つ世界観みたいなものも含めてですか?

波多野「僕の場合は、歌詞が最初にあるってことは絶対になくて。メンバー3人で作る音楽に対して、〈物語〉とまでは言わないですけど、〈何がそこで行われているか〉というのがあるんです。

よく映画に例えるんですけど、映画の主人公の行動が歌詞みたいなものなんです。みんなで曲作りをすることは、その映画の場面設定と構成や落としどころを先に作っておくことなんです。じゃあ、そのなかで主人公はどう立ち居振る舞うんだろうか?――その立ち居振る舞いが歌や歌詞なんです。そのなかで、〈ここで主人公が躍る時間がもうちょっとほしいな〉って思ったら尺を増やしてもらったり、〈ここで主人公が回りくどいことを言いそうだな〉と思ったら削ってもらったり。

作られた世界観を再現するっていうよりは、メンバーで音楽を作っていくなかで出来たものが世界観で、それを言葉に起こしていくっていう感じのイメージですね。僕は音楽がないと歌詞が全然書けないんです」

 

本能的な気持ち良さに行くんです

――音楽ありきなんですね。では、作曲はどうですか? 以前、波多野くんはインタヴューで〈最初にグルーヴを作ってもらってそこから始める〉と言っていたことがありましたよね。曲はグルーヴから始まると。

波多野「そうですね」

山口「正確に言うと、最初にメンバーに投げる時はグルーヴは意識していなくて。どちらかと言うと、〈こういう歌い方のものがありますよ〉って感じでドラムのパターンを投げるんです。そのパターンをそのまま使うこともあるんだけど、一部分だけ抜きとって別のパターンで曲を作ったりとか、そういうのも全然ありなんです。〈パズルを少し組みました、後は自由にしていいよ〉くらいの感じです」

――じゃあ、素材を出すって感じですね。それってどういう感じの素材なんですか。

山口「大体2小節とか4小節のパターンですね。でも、曲のイメージがある時は、そのイメージ通りの小節数で作ります」

波多野「いろいろな作り方があるんです。いままではドラムのパターンだけを投げてもらって、それを僕が、サンプリングとまではいかないですけど、一部を使って全体を組み上げていたんです。でも、今回は展開と別の楽器も入っている素材をもらったりもしました」

山口「僕はギターは弾けないから、ギターで弾いてほしいフレーズはエレピみたいな感じに加工して作ったりとか、ソフト・シンセでシンセ・ベースを作ったりとか。あくまでもデモなので、伝わればいいかなくらいのものではあるんですけど」

――山口さんが曲の〈種〉みたいなアイデアを出すことが多いってことですか?

波多野「一番最初はほとんど山口くんじゃないかな?」

山口「最初はパズルのピースでしかない部分もあるから、〈ピースならいくらでも出すよ〉って。〈明日までに5個出せ〉って言われたら、2時間あれば出来るんですよ。2拍目にここの素材を持ってきて、ちょっと小節数オーヴァーしちゃったからここを引き算して、みたいな感じで。だから、パズルなんです」

波多野「それをもらって、僕が勝手に解釈して、それを全体のなかの一部として考えるイメージですね。素材をどう調理するかみたいな」

――そのリズム・パターンみたいなものから、メロディーとかも出てくるってこと?

波多野「出てきますね、メロディーもコードも」

山口「最近はコードを弾いた時に出てくるリズム・パターンが多いですね。次のデモをもう作っているんだけど、コードをパーンってピアノで鳴らした時に〈このリズム・パターンが入るかも〉みたいな感じでバンバン出てくるんですよ」

波多野「粘土遊びに近いんですよね。最初の段階で全体像が決まっているとかは絶対になくて。それだと自分たちも楽しくないし、もっと訳の分からないものが作りたいので。山口くんが持ってくる素材ってノンジャンルなんですよ。〈こういう形式のものを取り入れてみました〉とかじゃなくて、もっとプリミティヴな〈ここにこれがあったら気持ちいいよね〉って感じなんです。僕もそういう作り方なので、コードとかも気持ち良さでしかないんです。

最初から感覚でやっています。だから、〈こういうタイプの曲を作ってみたいよね〉みたいな、曲調で具体的な話はしたことがないですね。あと、作る時に固有名詞が一切出てこない。〈何々っぽく〉って言うと、そこで発想が止まっちゃうんで」

――リズムのアイデアから曲を作ったり、具体的な固有名詞を出さずにスタジオで曲を作るっていうやり方をしていたのは、最初から? 

波多野「最初からですね。ピープルは〈こういう音楽をやりたいね〉って感じで集まったんじゃなくて、それぞれのプレイの個性に僕が惹かれて1人呼び、2人呼びって感じでメンバーを集めたので、そもそも最終的な着地点込みで結成されたわけではないんです。音楽の好みというか、聴き方も違うよね」

山口「僕はもともとクラシックから入っているから、プレイヤーとして音楽が好きになったんです。楽器が一番なので」

波多野「ベースの福井は音楽なら何でも楽しめちゃうタイプで、そこらへんは柔軟。僕は系譜立てて聴くタイプのリスナー。でも、僕の場合、作る時にはそういうのは全部解除できます」

――ピープルが不思議なのは、波多野くんは文系って感じで、理屈で考えるタイプに思えるのに、音楽は超フィジカルなところだよね。どちらかというと体育会系の音楽。

山口「だからやれているんですよ。僕も単純なんで」

波多野「本能的な気持ち良さに行くんです」

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