INTERVIEW

Alter Ego『We're Here』 広島のピアノ・トリオが待望の全国デビュー作で表現した、自分たちの存在証明とは?

Alter Ego『We're Here』 広島のピアノ・トリオが待望の全国デビュー作で表現した、自分たちの存在証明とは?

 「〈Alter Ego〉には〈別の自我〉という意味があり、演奏するという、普段と違う自分の側面を見せることを表しています。また〈無二の親友〉という意味もあり、これはメンバーとの関係、また楽器と自分との関係を表しています」(緒方仁一)。

 名前の由来をそう語るのはピアニストの緒方仁一。彼を中心に2011年に結成されたのが、広島の尾道~福山をホームに活動するピアノ・トリオ、Alter Egoだ。一昨年に繊細で美しい“ペネロープに吹く風”のMVが公開されて注目を集めていたものの、同曲を含むPlaywright発のミニ・アルバム『YOU'RE MY ALTER EGO』(2017年)が中国地方限定リリースということでヤキモキしていた人も多いのではないだろうか。そうして期待を高めていた3人が、待望のフル・アルバム『We're Here』でいよいよ全国デビューを果たす。

Alter Ego We're Here Playwright(2018)

 トリオが志向するのは全曲オリジナルのクラブ・ジャズ。長い演奏歴のなかでヒップホップ的なアプローチも試みてきた緒方、メタルやパンクを入口にレゲエやスカにも傾倒してきたというベーシストの安田洋喜、音大でジャズを学んだドラマーの小川聡一郎、と背景もさまざまな3人は、それぞれ世代にも幅がある。

 「それまで自分は同じ歳の人とロックのバンドしかやってなかったので、最初は大人とピアノ・トリオをやるというだけでドキドキしていましたが、お二人の中に自分と同じようなところを見い出せたので、年齢をあまり気にせず接していけるようになりました。やはり世代が違うと聴いてきた音楽や量も違うので、一緒にいるだけで勉強になることばかりで楽しいです」(小川)。

 「みんな年齢以上に性格が濃いので、当初から年齢差は感じなかったように思います。音楽性に作用しているかはわからないですが、小川くんが発掘してくる新しい音源に刺激されることは多いです」(安田)。

 「音楽的な面でいうと、マイルス・バンドに若いトニー・ウィリアムスがいたように、ドラムは若い人が演奏するほうが、サウンドが古くならないような気がします。私が大まかな航路を示して、若い小川くんのエンジンで進み、安田さんが上手く舵を取る、そんなバランスだと思っています」(緒方)。

 個々が別の仕事をしながらマイペースに動いてきたAlter Ego。ミニ・アルバムで披露した曲はすべて緒方が結成前から書いていたそうだが、今回はほとんどが結成後に書かれたもの。それゆえに「Alter Egoがどんなピアノ・トリオなのかがより伝わる」(小川)一枚になっている。

 「各曲を活かすために、同じような曲調、リズムが続かないように選曲しました。また、無機質なものと情動的なものが上手く絡むように考えました。デモ音源を何度もランダムに聴いて、良い組み合わせを見つけて、そのうえで統一感が出るように構成したつもりです」(緒方)。

 そんなアルバムは鍵盤がリズミックに畳み掛ける“M.Y.N.Y.”で小気味良く滑り出し、疾走感に溢れたドラミングがかっこいい“Homeless Dance”へ。エネルギッシュな“Bigtime Changes”、美しいメロディーが静と動を行き交う“Keep Playing”など大半は緒方の作曲だが、小川が2曲を書いたのも3人の前進を示すものだろう。「尾道の向島にあるUSHIO CHOCOLATLの手作りチョコの美味しさに感動して作った曲です」(小川)という“Chocolate”は品のある洒脱さで迫り、都会的でドラマティックな“I'm here”も味を加えている。

 「“I'm here”は仁宮裕さんに作っていただいた“ペネロープに吹く風”のMV映像を観ながら作ったものです。〈自分たちはここに住んでいるんだなぁ〉と考えながら作曲したのですが、後で〈あれは東京の風景だよ〉と教えてもらいました(笑)」(小川)。

 「自分は作曲をしていないですが、思い入れはすべての曲にありますね。どの曲もベースとドラムのシンクロ度が高くて、スロウな曲でもいちばん推進力のあるテイクを選んだように思います」(安田)。

 ダンサブルな意匠から徐々に内面に入り込んでいくようなアルバムの展開は、自主盤でも披露されていたリリカルな“But too late”に続き、唯一タイトルが日本語で付けられたラストの“その1人の友と出会えたという事”で深みを残す。

 「この曲は私の親友について思った曲です。ある時、〈彼に出会っていなかったら、人生はなんて意味がなかったのだろう〉と思えた瞬間があり、その時にずっとサビのメロディーが流れていて、8小節だけ五線紙に残していました。〈何のために生まれてきたのか〉という問いに対する、私の一つの答えだと思っています」(緒方)。

 そうでなくても、彼らが集まった意味はここにある。文字通りの『We're Here』に存在証明を刻んだ3人だが、「それぞれかっこいいと思うことをすり合わせて、3人でいい音が出せれば、というのがバンドとしての大きな目標と思っています」(安田)との言葉通り、これからも鮮やかな演奏をマイペースに届けてくれることだろう。

 


Alter Ego
75年生まれの緒方仁一(ピアノ)、81年生まれの安田洋喜(ベース)、91年生まれの小川総一郎(ドラムス)から成るピアノ・トリオ。広島県福山市にある楽器店のスクールで知り合ったのをきっかけに、2011年末に結成される。2014年12月に『Live at Shigeinoie』を自主リリース。並行してfox capture planやPRIMITIVE ART ORCHESTRA、Freecube、TRI4THのオープニング・アクトを務めて脚光を浴びる。2016年10月に公開したMV“ペネロープに吹く風”が話題となってPlaywrightに正式加入し、2017年3月に中国地方限定流通のミニ・アルバム『YOU'RE MY ALTER EGO』を発表。さらなる注目を集めるなか、初のフル・アルバム『We're Here』(Playwright)を2月7日にリリースする。

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