4人全員が曲を作って歌えるバンドになりたい

──今作を聴くと、ビートルズだけでなくキュアーやストロークスからの影響も強く感じます。

松原「僕らの好きなDYGLのインタビューで、〈スミスやキュアーがルーツになっている〉と言っているのを読んで、それでキュアーを聴きはじめてハマりました。特にファースト・アルバム『Three Imaginary Boys』(79年)には衝撃を受けましたね。楽曲でいうと“Boys Don't Cry”や“Friday I'm In Love”のような、ポップな側面がある代表曲が好きです。ストロークスは何と言ってもジュリアン・カサブランカスのカリスマ性やヴォーカル力に魅了されますね。最初はYouTubeで“Last Nite”を観てぶっ飛んで。その後から、ギター2本の掛け合いなどアレンジ面のカッコよさに気付いてさらにハマった感じです」

上野「僕がストロークスを好きになったのは、最初“Under Cover Of Darkness”がめっちゃカッコいいと思って。作り込まれたシンプルさというか、〈ギターの絡みってこんなにおもしろいのか〉ということを気付かせてくれました」

松原「“街”は(前身バンドである)Ant Lily時代にオアシスに影響されて作ったんですけど、以前レコーディングしたときにはギターを何本も重ねて、それこそシューゲイザーのような音像にしていたんです(笑)。でも今回のレコーディングでは、音数をなるべく少なくしてシンプルなアレンジを試みました。やり方によってはそれでもちゃんと成立するんだなと。なんでもかんでも音を詰め込めばいいわけじゃないんだ、ということもストロークスから学んだことの一つですね」

──歌詞はそれぞれどんなところから思いつくのでしょうか?

上野「特定の誰かに影響を受けたというのはないんですけど、いろんな人の作品を読むなかで、心に残った言葉や言い回しなどを普段から抜粋して集めたりはしています。今は仏教思想に興味があって、それに関する本をいろいろ読むなかで考え方に影響を受けているところは結構あると思いますね」

──“Philadelphia”の歌詞も、愛についての哲学的な考察がなされていますよね。

上野「この曲は、エーリッヒ・フロムの『愛するということ』(56年)という本を読んで、衝撃を受けて書いた歌詞です。それまで僕は、愛ということについてあまり深く考えたことがなくて、漠然としたイメージで捉えていたんですけど、あの本を読んだときに〈愛するとはどんなことなのか?〉ということに、初めて向き合うことができたんです。もちろん、あの本に書かれていることが正解かどうかはわからないんですけど、自分のなかで腑に落ちたことが結構あったので、そのインスピレーションから歌詞を書きました」

松原「僕は日本語の歌詞よりも、英詞の和訳を読むのが好きなんですよ。例えば日本語で〈僕〉と〈君〉というふうに書くと、〈男〉と〈女〉に限定されてしまうじゃないですか。でも、英語の歌詞で〈I〉と〈You〉と書くと、性別を限定せずイメージを膨らませることができると思うんです」

──それはおもしろい考え方ですね。

松原「自分の歌詞はまだその域に達していないですけど、いつかそうやって普遍的な関係性、普遍的な愛を歌詞で表現できるようになりたいなって思っていますね。あとは、普段の日常会話のなかでは出てこないような言葉を使って、日常では気付かない美しさを表現できるようにもなりたいんですよ。例えばジョン・レノンは“I Am The Warlus”で、シュルレアリスム的にナンセンスな言葉の羅列をしていますけど、実は案外そこにちゃんと意味があるような気もしていて。その言葉の並びによって、今まで思いもしなかったイメージが浮かんでくるということも、きっとあると思うんです。そういう歌詞にも挑戦したいですね」

──ところで、最近のバンドでシンパシーを感じるのは?

松原「さっき話したDYGLは、洋楽をルーツにしているという部分は似ているのかなと。僕らは歌詞が日本語なのでそこは違いますけど、シンプルなアレンジだったり、バンドのカッコよさを追求していたりするところとか、勝手にシンパシーを感じています。洋楽ではストライプス。最初はシンプルなロックンロールだったけど、最近ではスミスとかの影響をメロディーからも感じたりして好きですね」

岩田「あと、年下のバンドですがレモン・ツイッグスとか。曲やパフォーマンスのぶっ飛び方が好きです」

──ちなみに京都にSeussってバンドがいるのはご存知ですか? 

松原「はい、対バンしたこととかはないんですけど。僕らもさっき、彼らの話をしていたんです」

──あ、そうなんですね。The Songbardsが〈The SongBARds〉をやっているように、彼らは京都のTHE WELLER’S CLUBというバーで〈Fun,Fun,Fun〉という、オリジナル楽曲だけでなくカヴァーもたくさん披露するイヴェントを毎月やっていて。彼らはビートルズというよりも、それ以前のオールディーズや初期ロックンロールをレパートリーにしているんですけど、もし出会ったらきっとお互いを刺激し合えるんじゃないかなと思いました。

松原「そうですね。いつかぜひ一緒にやってみたいです」

──最後に今後はどんなバンドをめざしていますか?

松原「僕らは〈4人全員が曲を作って歌えるバンド〉というのをめざしていて。その結果、いろんなアイデアも生まれて、メンバーそれぞれの個性も立って、今までにないオリジナリティーと普遍的に長く愛されるバランスをもった楽曲をたくさん作っていけるようになりたいです。それと、さっきも話したように、僕らの音楽からルーツを感じ取ってもらって、自分達がそうであるように同世代の人たちが音楽を掘り下げるきっかけとなるような、そんな存在になれたら嬉しいですね」

2017年のEP『The Songbards First E.P.』収録曲“雨に唄えば”