2018.02.14

ギリシャラブのメンバーでもあった本日休演の鍵盤奏者・埜口敏博は、ライヴにおいて独特の存在感を放っていた。特に強烈だったのはライヴのハイライトとして度々演奏されていた“たましいの置き場所”でのパフォーマンスだ。血走った眼でマイクを引っ掴み、口上のような独特の抑揚で、それこそ魂から振り絞るような語りとも叫びともつかない声を上げる――そんな埜口のパフォーマンスを鮮明に覚えていただけに、彼の訃報を聞いたときには少なからぬショックを受けた。

『アイラブユー』は京都大学吉田寮などで録音された『本日休演』(2014年)、同郷の岸田繁らから賛辞を贈られた『けむをまけ』(2015年)に続く3作目で、埜口亡きあとに彼らがリリースするはじめてのアルバムだ。本作では遺されたライヴやリハーサルの音源が制作に使用されたとのことだが、とにかくあっけらかんとしていて、これまでどおりのユーモアが音にも言葉にも刻み込まれている。洗練されたポップなメロディーは、いわゆる〈追悼ムード〉や感傷を一切寄せ付けないような力強さで、リズムの多彩さと躍動感には挑戦的な姿勢が聴き取れる。特に、OMSBのラップをフィーチャーした“ラブエスケープ”の食い気味の、もたりを感じさせるビートをきわめてナチュラルに演奏してみせているのには驚かされた。

歌詞はさらに不敵な面構えを見せている。〈世界はとっくに天国さ〉〈ワン・トゥー・スリー・フォー・ファイヴ数えてみんなでゴー・トゥー・ヘル〉〈愛のせいで死んだらラッキーじゃん〉と歌われる“アイドンワナダイ”(入江陽がコーラスで参加)などはその真骨頂だろう。仏教的な無常観とニヒリズムとの間隙を縫い、乾いたユーモアへと昇華させるリリシズム。『アイラブユー』ではそこに、得も言われぬ説得力が宿っている。

それだけに、唯一センチメンタルな“ダンス・ダンス・ダンス”は感動的だ。ロックンロール・ソングのマナーで〈今だけは踊ろうよ〉〈とりあえず踊ろう〉と呼びかけるその曲からは、ライヴ録音であることもあいまって、独特の緊張感と祝祭的なムードが感じられる。いつかパーティーは終わってしまうけれど、諦念と虚無感に溺れてしまう前に、それらに抵抗するために、本日休演は聴き手をいま、この時だけのダンスへと誘う。

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GR'18