またしても、天才現わる!

 昨年、NYで偶然アクセル・トスカのトリオを見た。その少し前には、モントルー・ジャズに来演しているのを目撃。菊地成孔のクインテットのメンバーとして出演しジャズピアニストとしてクインテットのメンバーを挑発したかと思うと一瞬にしてアンサブル・プレイヤーとして溶け込む姿に息を飲んだ。菊地を始めとするメンバーをその途方もない演奏であっという間に虜にしてしまっていたようだ。2017年は、念願だった生トスカづくしとなった印象深い年となった。

 トスカは、日本ではドキュメンタリー映画「Cubop」(新バージョンが近日公開)で大きく取り上げられていたので、ラテン・ジャズ、あるいはジャズ・ピアニストを中心にジャズを楽しんできたファンには周知のピアニストではないだろうか。また先ごろやっと新譜がリリースされたキップ・ハンラハンのグループや、ディープ・ルンバのヴォーカリストとしても知られるシオマラ・ローガウトの息子だということもあり、キューバ音楽ファンには広く知られているのかもしれない。2000年以降、キップのバンド仲間の間では、あいつは天才ということで、以前から随分と話題になっていたピアニストである。

 しかし不遇の日々が続き、なかなかアルバム制作の機会に恵まれなかったようだ。が、遂に2016~2017年は、知る人ぞ知るこの才能あるピアニストにとってあたり年となった。来日、そして二枚のリーダーアルバムのリリースが重なった。今回紹介するのは、その内の一枚で、双頭バンドながら、そのほとんどのレパートリーを彼が書くアンサンブル(U)nityのファースト・アルバムだ。

(U)NITY (U)nity Is Power AGATE/Inpartmaint(2018)

 グループとしての活動は古く、動画サイトにはラテン・パーカッション、あるいはコンガヘッドが主催するチャンネルを通じ、以前からライヴ演奏がアップされていた。今回アルバムに収録された曲も大半がそうした動画で見ることができ、メンバーを曲ごとに変えて楽曲のアイデアが優先されるというバンドのあり方がわかる。ついでながら昨今、NYで不定期ながら、パーカッショニスト、ペドロ・マルティネスが主催するセッションのライヴを観ることができると話題のキューバ料理のレストラン、ファンタナメラでのペドロとトスカのトリオのすごい演奏の動画も観ることができる。

 アルバムは、マルチグルーヴを貫く多彩な内容である。ロバート・グラスパー・エクスペリメントや、スナーキー・パピーのような外観のアルバムと言って差し支えない。ルンバからヒップホップまで、トスカの洗練されたポスト・モダーンなモントゥーノのアイデアには感嘆する他なく、ハーモニーのセンスも含めまさにNu Soul, Nu JazzならぬNu Latin、だ。

 


FILM INFORMATION

日本・キューバ合作の傑作音楽ドキュメンタリー映画の新作「Cu-Bop across the boder」
監督:高橋慎一
出演:セサル・ロペス/ハバナ・アンサンブル/アクセル・トスカ/(U)inity/ロランド・ルナ/アデル・ゴンザレス他
○3月10日(土)、3月11日(日)、3月18日(日)~3月23日(金)シネマート新宿(東京)にて公開決定!
twitter.com/cubop_kamita