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どこかにまだ見ぬ好きでいてくれる人がいる

――今日はフクゾノさんに、flauのカタログのなかで特に思い入れの深い10枚を選んでいただきました。

・デール・バーニング『The Horse and Camel Stories』(2007)
・El Fog『Rebuilding Vibes』(2009)
・ヘニング・シュミート『Klavierraum』(2010)
・リズ・クリスティーン『Sweet Mellow Cat』(2012)
・VA『FOUNDLAND』(2013)
・IKEBANA『When You Arrive There』(2013)
・SELA.『Anniversary』(2014)
・ステファン・ヨス『Primitives』(2015)
・CRYSTAL『Crystal Station 64』(2015)
・Madegg『NEW』(2015)

――この10枚は、どんな観点でセレクトされたんですか?

フクゾノ「もう少し知られたら嬉しいな、という作品です(笑)」

――また直球ですね(笑)。

フクゾノ「福田さんもそういう作品、ないですか?」

福田「いや、ほとんど全部そうだけど(笑)」

フクゾノ「難しいと思いつつ、レーベルの力不足も感じつつ……という」

福田「flauは海外にも流通しているんだよね? 向こうのメディアにもちゃんと取り上げられていて、いつも感心しています」

――最近はPitchforkも日本の作品をよく取り上げていますけど、flauの場合はコンスタントにレヴューが載ってますもんね。

フクゾノ「メディアに関係なく、どこかにまだ見ぬ好きでいてくれる人がいるという想定ではやっていました。今はもっと身近なところで広げていきたいとも感じてますが」

――フクゾノさんがおっしゃるとおりで、もっと評価されるべきアルバムのオンパレードだと思います。福田さんのなかで、印象的なflauといえば?

福田「このなかでいうと、CRYSTALやMadeggを出しているところに、フクゾノくんが培ってきた器の大きさが見える感じがします。あとはIKEBANAも」

CRYSTALの2015年作『Crystal Station 64』–収録曲“Rendez-Vous”

――IKEBANAは90年代から活動している女性ミュージシャンのユニットで、当初は山本ムーグさん(Buffalo Daughter)も参加していたんですよね。それで、このアルバムではデムダイク・ステアがマスタリングを担当していて。

フクゾノ「(IKEBANAの片割れの)makiさんはネットもPCも持ってないし昔のガラケーを使っていて、それこそマイブラで止まってるような最高におもしろい人なんですけど、いろいろCDを聴かせたなかで、デムダイクが唯一引っ掛かったんですよ。それで、僕も繋がりがあったから頼むことにして」

――当時はポスト・インダストリアルが盛り上がっていたのもあり、その流れともシンクロしていたように感じました。〈シューゲイザーの成れの果て〉みたいな寂寥感がたまらない一枚です。

IKEBANAの2013年作『When You Arrive There』収録曲“Alone”

福田「タイミングが良いのは、やっぱり現場と繋がっているからだよね。最近は、海外のアーティストから〈出してもらえませんか?〉とお願いされることも多いんじゃないですか?」

フクゾノ「海外からが圧倒的に多いですね。たとえば〇〇〇からは、デモやインターンしたいという連絡をもらっていて」

――今をときめく〇〇〇から! でも、彼女がflauを好きというのはしっくりくる気がします。

フクゾノ「海外のエレクトロニック・アーティストでいま活躍している人は、日本のゲームやアニメに精通していたり、日本の電子音楽を聴いて育ったりした人が多いですよね。たとえば、ライアン・ヘムズワースは昔ブロガーだったんですけど、そこでkumisoloのインタヴューを載せていたり」

――そういう感性を持つ人たちが、いまスターになりつつあるのも興味深いです。あと、ヘニング・シュミートの2008年作『Klavierraum』も大きかったのかなと思うんですが。

フクゾノ「そうですね。うちでいちばん売れた作品だし、あそこで拡がったとも思います。『Klavierraum』を出したとき、レーベルの名前を打ち出したくないと思ったんです。音楽的にそれまでと違うものを出した作品だったから、〈flauの○○〉というより、もっと違う面で評価されるべき作品だろうと。彼はシンプルにピアノが素晴らしくて、いつも新しいサウンドに挑戦しているし、真にプロフェッショナルなところも尊敬しています」

――あと、El Fogは、Masayoshi Fujitaさんによるソロ名義ですよね。ジャズやダブの要素も感じさせる、素晴らしいエレクトロニカ・アルバムだと思います。

フクゾノ「フジタさんとはmoteer時代から知り合って10年以上でしょうか。早くからベルリンに移住していて、ヨーロッパで活動していたんです。レーベルでもがんばってたんですが、なかなか現地のブッキングに繋がらなくて。でも、ようやく海外で注目を集めるようになって、ついにはイレースト・テープスから発表するようになった。そこは寂しさもあり、嬉しさもありですね」

※ausやEl Fogをリリースしていた英のレーベル

――でも、flauが輩出したのは間違いないわけで。

フクゾノ「やっぱりアーティストや作品それ自体の持つ魅力があったのだと思います」

――そして、flauの活動とも切り離せないのが、原宿のギャラリーVACANTで開催しているイヴェントの〈FOUNDLAND〉。そのライヴ・アーカイヴをまとめた同名のコンピレーションも忘れがたい逸品でした。

フクゾノ「レーベルはずっとほぼ1人でやってきたんですけど、そうじゃないことをやれる良さが『FOUNDLAND』では掴めているように思います。イヴェント自体も元々VACANTにいたスタッフさんと一緒にすることで風通しの良いものになっていますし、とにかく福岡(功訓)さんのPAや三田村(亮)さんの写真が毎回素晴らしいんですよ」

福田「実際、ずっと1人でやるのは辛いよね?」

フクゾノ「辛いときもありますよね。そういうときに福田さんの背中を見て、励まされます(笑)」

やりたいことはオルタナティヴに光をあてること

――両者とも〈売れているものがいちばん偉い〉みたいな価値観とは別の視点を貫かれているのかなと。

福田「売れているものがいちばん偉いだと、1人でレーベルなんてやってないんじゃないかな」

フクゾノ「去年ある海外のバンドを招聘したとき、すごく集客が厳しかったんですよ。特に関西は全然入らなくて。その後に、音楽ストリーミング・サービスの方と会う機会があったんですけど、スタッフの方が日本での再生回数を見ながら、〈確かにこれだと厳しいかもしれませんね〉とおっしゃってて。そのとき、〈ついにこんな時代に入ったのか〉と衝撃を受けたんです。なんでも可視化されちゃう時代なんだな、と」

福田「いまは何はなくとも数で見えるからね。フォロワー数とか」

フクゾノ「興行や音楽じゃないところでも、それは感じます、発言のバリューも変わってきちゃう」

――その一方で、flauとSDPは単純に数字で測れないものを大事にしているようにも映ります。

福田「いつまでできるのかなーと思うときはありますけどね。でも、ずっとCDを出し続けるバカみたいなレーベルがいてもおもしろいかなって。〈あそこ、まだ出してるよ〉って(笑)」

フクゾノ「メディアへのこだわりはないんですが、実際にそうなりつつありますよね」

――それでも出すものは曲げないし、パッケージングにもこだわり続けるという。

福田「FALLの三品(輝起)さんが社会の雑貨化を論じた『すべての雑貨』(2017年)という本を出していて、あれを読んで思うところがあったんです。自分が出しているものも、ともすれば雑貨的だと捉えられそうな面もあるし、フクゾノくんはそれを良しとできる?」

フクゾノ「青臭いわけではないですけど、自分にとって音楽はあくまで個人的なものなので、1個人の中にどれくらい深く届くのかがすごく大事というか。市場が大きくなればなるほどストレートが強くなるわけで、やりたいことをやるならば世界を小さくしないといけない。1人でもむっちゃ好きって人がいれば、それで充分に価値があるとは思っています。自分がやりたいことはオルタナティヴに光をあてること、何よりも世界が複数存在することを認めるプロセスでもあるので、ビジネスとして成り立つかは別の問題として、それでいいのかなと」

――そう言えるのは、素晴らしいことですよ。

フクゾノ「ただ、10年やっていて、自分の感覚も変わってきているのを感じています。日本と海外の関係をみても、クールジャパン的なコンテンツが実際に浸透しているというか、そっちもすごくおもしろく感じてるんです。僕らも海外でがんばっているとは言われますけど、先ほど話した小さな世界だけの話で。雑貨化の話でいえば、自分がめざしていたものは箱庭のなかの洗練でしかないとはいえ、そこを文脈として大事にしてきた面がある。でも、それこそ細かな差異を消費している気分にもなってきてしまって、そことのギャップに揺れ動いている感じはあるんです」

――10周年を経てのアイデンティティー・クライシスと言うべきでしょうか。

福田「僕はもう、なにがカッコイイかもう興味がなくなっちゃいました(笑)」

フクゾノ「自分がカッコイイと思うものがアーティストや時代との関わりを通して変わっていくことに自分でも驚いてます。その変化も含めて楽しいですね」 

 


★flauからのおしらせ
〈Cicada Japan Tour 2018〉
台湾の室内楽集団、シカーダが海と地上の生物への美しい叙事詩『White Forest』のリリースを記念して4月に再来日。
予約やスケジュールの詳細はこちら

〈FOUNDLAND〉
2018年4月14日 (土)東京・六本木VACANT
開場/開演:17:00/17:30
料金:前売 4,000円 当日 4,500円 (いずれも+1D)
出演:Gutevolk/Cicada(from 台湾)/marucoporoporo/角銅真実
PA: 福岡 功訓(Fly sound)
詳細はこちら

Radicalfashionがtony chantyを迎えた新曲“way home”をリリース!

 

★Sweet Dreams Pressからのおしらせ
3月15日(木)に2タイトルをリリース!
ビッチン・バハズ『Bajas Fresh』(SDCD-036)
ゲイブリエル・ナイーム・アモール『Moments Before』(SDCD-038)

〈イ・ラン ジャパン・ツアー2018 〉
活動ひとつひとつに注目が集まり、センセーショナルな存在感をさらに増している韓国/ソウルのアーティスト、イ・ランの来日ツアーが決定。
ツアー詳細はこちら

〈Rachael Dadd with The Band + Emma Gatrill + Ichi〉
レイチェル・ダッドが昨年にflauよりアルバム『Cocoon』を発表したハープ奏者のエマ・ガトリルらと共に4月に来日。
ツアー詳細はCow and Mouseにて