汚してもなお美しい〈A Human〉のドキュメント

 個のアイデンティティーを認めようとしない日本という国に対する違和感を、ポスト・ダブステップ/オルタナティヴR&B譲りのダークな曲調で表現し、ディストピアを突き付けたyahyelのファースト・アルバム『Flesh and Blood』は、新たな世代の台頭を強烈に印象付けるものだった。あれから1年以上が経過し、大型フェスへの出演や海外アクトのオープニングなどの経験を経て、2作目『Human』が完成。匿名性が強く打ち出されていた前作に対し、バンドそのものの姿が、もっと言えば、フロントマンであり楽曲の大本を担う池貝峻(ヴォーカル)の姿がはっきりと浮かび上がる作品である。

yahyel 『Human』 BEAT(2018)

 「日本の表現の場があまりにエンターテイメント化されすぎていることに一石を投じたかったので、〈日本でもシリアスな音楽表現ができるんだぞ〉っていう、国内/国外双方に対する挑発みたいな気持ちが前作のときはありました。みんな僕らが誰かもわかってないし、自由に怒りをぶつけられる環境があったんですよね。ただ、僕らが匿名性を打ち出したのは、雑音を消すためのフィルターだったにもかかわらず、逆にそこばかりピックアップされて、安易なハッシュタグみたいなものに回収されていった気がして、2017年はホントに辛かったんです。なので、今回のアルバムはそこから1年の感情の流れというか、それをどう乗り越えていったかっていう作品になっていると思います」(池貝)。

 「ガイ(池貝)の歌詞の変化で言うと、『Flesh and Blood』と『Human』っていうタイトルの違いにも表れているように、メタファーをやめて直接的な表現に移行していったと思う。あと一人称が増えたよね。客観的でレトリカルな世界の描写から、より主観的でストレートな内面記述に向かった印象です」(篠田ミル、サンプリング/コーラス)。

 「前回は〈We〉が多かったんですよ。当時は自分のなかの怒りがあたりまえすぎて、みんな持ってるものだと思ってたけど、そうじゃなかったっていう辛さもあった。なので、結局、自分の表現に対しては自分で責任を取らなきゃいけないなって思ったんです」(池貝)。