YOUNG FATHERS
持ち前のユーモアと越境感覚を発揮して奏でる、甘くほろ苦い人生讃歌

 マーキュリー・プライズを受賞したデビュー・アルバム『Dead』を経て、2015年の前作『White Men Are Black Men Too』では〈さまざまなグラデーションで物事が成り立つこと〉を表現し、ヒップホップ、ロック、R&B、ダブ、エレクトロを呑み込みながら折衷主義の彼岸へと辿り着いたエジンバラの3人組、ヤング・ファーザーズ。彼らが3年ぶりのニュー・アルバム『Cocoa Sugar』を完成させた。

YOUNG FATHERS Cocoa Sugar Ninja Tune/BEAT(2018)

 前作以降は映画「アサシン クリード」や「T2 トレインスポッティング」に楽曲を提供し、マッシヴ・アタックのEP『Ritual Spirit』にも参加。今年3月には地元で過去最大規模のワンマンを控えるなど活動の舞台をより広げている3人だが、そうした経験が音作りに与えた影響は大きかったようだ。キャリア最長の制作期間を費やした本作では、初めて多くの候補曲の中から収録曲を選別。〈ダークな時代に希望が感じられるものを作る〉という、何とも真っ当かつ幅広いリスナー層にアピールできそうなテーマを掲げている。そのコンセプト通り、全編を覆うのはチャンス・ザ・ラッパーやカニエ・ウェスト、フランシス・アンド・ザ・ライツの近作とも共振する荘厳で清らかなクワイアへの興味。とはいえ、ベース・ミュージックやテクノ、アフリカ音楽、ノイズ・ミュージックなどのフレイヴァーを足したり、“Wow”ではひたすら〈ウー〉〈ワー〉とリフレインしたり、相変わらず踊れて、笑えて、やりたい放題な雰囲気もある。2曲で参加したデヴィッド・シーテックによる空間設計も巧い。音数を絞ることで全体像がすっきりし、コード運びや声から温かみが感じられるのも大きな特徴だ。持ち前のユーモアとキャリアを重ねたからこその成熟とが、グループの中でひとつになった作品と言えるだろう。

 この『Cocoa Sugar』で描かれるのは〈普通/変とは何か?〉という問い。甘くほろ苦いサウンドに厳かなコーラスを加え、そこに人生の機微を見い出そうとする彼ら。多種多様なジャンルの音楽が混然一体となって耳に押し寄せてくる。