INTERVIEW

The fin.『There』 アトモスフェリックな音像の向こう側にあるもの

The fin.『There』 アトモスフェリックな音像の向こう側にあるもの

アトモスフェリックな音像の向こう側にあるもの

 The fin.が実に3年3か月ぶりとなるセカンド・アルバム『There』を完成させた。新人としては異例のスパンにも思えるが、彼らがこの3年間でアメリカ、ヨーロッパ、アジアの各国に足を運び、丁寧に自分たちの音を届けてきたことを考えれば、間違いなく必要な時間だったと言える。2016年9月にはイギリスに移住、昨年5月にベーシストが脱退するも、もともとベーシストだったKaoru Nakazawaがドラムスからベースへシフトし、昨年の日本ツアーにも同行したイギリス人のドラマー、トモ・カーターをサポートに迎えることで、新たなバンドの体制を作り上げた。

 「3年前に初めてアメリカに行って、バンドと自分の曲の力のなさに気付かされて、まずは自分の音楽力を高めないといけないと思ったんです。そのひとつの結晶が今回の作品ではあるんですけど、そのぶん一時期は俺とバンドが乖離しちゃってたんですよね。でも、イギリスに行ってメンバーと一緒に生活するなかで、自分の表現したいものをちゃんとみんなで共有して、それをステージで出し切るのがバンドのいいところだと思って。なので、イギリスに着いてから最初の3か月はとにかくみんなで音楽を聴いて、いろんな話をして、エナジーの交換をしたんです。だからこそ、今やっとまとまってきたかなって」(Yuto Uchino、ヴォーカル/シンセサイザー)。

 「表現したいことを共有した一方で、みんな幼馴染やし、これまでは〈バンド〉というものに守られてるところがあったと思うんです。でも、一人でミュージシャンとして立ってる人(Yuto)と一緒にやることで、自分はいちミュージシャンとしてどうなんやろうって、〈個〉をめっちゃ考えるようにもなって。それは自分にとって大きかったですね」(Ryosuke Odagaki、ギター)。

The fin. There HIP LAND(2018)

 本作はロンドンのディーン・ストリート・スタジオにて、ジャミロクワイやアルト・J、レディオヘッドらとの仕事で知られるブラッドリー・スペンスと、昨年はROTH BART BALON“Demian(UK mix)”にも関与していたアレックス・ベイツケをプロデューサーに迎えて制作。マスタリングには前作同様、ビーチ・フォッシルズやワイルド・ナッシングなどを手掛けるジョー・ランバートを起用している。

 「これまでレコーディングもミックスも自分でやってきたんですけど、ずっと独学でやってきたのでわからないことも多くて、前からプロの人とやりたいと思ってたんです。ブラッドリーとは〈グレート・エスケープ〉に出たのがきっかけで知り合って、向こうから〈一緒に作りたい〉って言ってくれて。俺、レディオヘッドの作品のなかでは『In Rainbows』が一番好きで、ひとつの理想として持ちながら道を歩いてたら、その道の先にあの作品に関わってた人が現れたっていう。キレイに繋がったなって思いました」(Yuto)。

 クリスタルのように艶やかで、アトモスフェリックなシンセ/ドリーム・ポップというThe fin.独自の世界観は、本作でもまったくブレはない。そのうえで、先行曲の“Pale Blue”や“Afterglow”、2016年のEP『Through The Deep』からリアレンジ/ミックスが行われた“Through The Deep”“Heat(It Covers Everything)”に顕著なように、個々の音色がより研ぎ澄まされているのに加え、レイヤーの立体感が格段に増しているのが印象的だ。

 「環境に包まれるというか、その世界に没入できるような音源にしたいっていう部分は、プロデューサーとも最初から意見が合っていて。PC上のセッションというか、3人で音源を回しながら感覚的に作っていったんですけど、2人とも俺が表現したいことを最優先に考えてくれて、今まで出したくても出せなかった部分を出すこともできたし、尊敬でいっぱいです」(Yuto)。

 ラップ調のフロウやハイハットの細やかな刻みなど、ヒップホップ風のアプローチが新鮮な“Shedding”や、主張の強いベースが引っ張る“Missing”など、グルーヴの増強も大きなポイント。正ドラマーの不在をプラスに捉え、〈バンド〉という枠から解放されたぶん、より自由なクリエイティヴィティーを追求できたのだと言えよう。

 「現代の音楽ってめちゃめちゃクオンタイズが進化してて、ファーストはそれでリズムをバッチリ合わせてたんですけど、もっとオーガニックな方向に行きたくなって。今回はほとんど修正してないです。キックとスネアはハマってるけど、ハットは全部手で打ってたり、他の楽器も全部手で弾いてて、それがグルーヴに繋がったのかなって」(Yuto)。

 「ベースを久々に弾くことになって、過去の曲も含めて一気に30曲くらい覚えたので、正直すごく大変でした(笑)。最近やっと楽しめるようになってきて、“Pale Blue”とかは弾いてて楽しいんですけど、“Shedding”はYutoのクセもあって、難しいですね」(Nakazawa)。

 本作では唯一と言ってもいい歪んだノイズ・ギターがインパクト大な“Height”、タイトル通りの荒涼としたサウンドスケープが広がる“Vacant Sea”などを経て、ラストは〈自分が覚えているなかで一番最初の気持ち〉を上手く表現できたという2分弱のインスト“Alone in the Evening(1994)”で幕を閉じる。さらに、そうしたある種の原点というべき感覚は、『There』というアルバムのタイトルにも刻まれている。

 「〈閉じた世界から逃げ出したい〉みたいな気持ちってみんな持ってると思うんです。バンドが上手くいきだして、いろんな世界も見れて、ある種、夢が叶ったんだけど、でも今も自分の頭のなかにあるスペース/宇宙が俺を動かし続けてるんですよ。どこかに手を伸ばしてる感覚でもあり、自分がそこにいる感覚でもあり、自分が思い描いてる感覚でもある。人間がやってきたクリエイティヴの背景には、そういう想いが常にあったと思うんですよね。そういうことをフワッとした言い方で表したのが、このタイトルなんです」(Yuto)。

The fin.の作品。

 

ブラッドリー・スペンスの関連作。