昭和の季語を編む詩人、阿久悠、最後のエッセイ集。昭和世代の心の地層の重なりを確かめるそんな言葉が並ぶ。歌になった彼の言葉を追うとき、それは映画のように時の流れに心の動きくを重ねた物語となる。エッセイとして綴られた言葉を追う時、なぜかそれは懐かしい、けれど硬く閉じた写真集を開いた瞬間に広がる空気が香った、と思った。平成に生まれた人も、ようやく平成世代として完結する年を迎えた。近い将来彼ら・彼女にも過ぎていった平成の季節を刻んだ季語を想う日が訪れるのではないだろうか。貧しさと豊かさ、この二つの言葉が生活の些事に影と日向を生んだ昭和に、阿久は季節を口ずさんでいたと思った。