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プリンス、シャーデー、ジャネット……自身の青春期のサウンドトラックともいえる、初のカヴァー集

 〈腹話術〉というタイトルが冠されたミシェル・ンデゲオチェロの 『Ventriloquism』に収録されている曲は、プリンス“Sometimes It Snows In April”、ザ・システム“Don't Disturb This Groove”、ジャネット・ジャクソン“Funny How Time Flies”、シャーデー“Smooth Operator”、TLC“Waterfalls”……さらに全11曲がすべてカヴァーである。すなわちこの新作は、初のカヴァー・アルバムだ。

MESHELL NDEGEOCELLO Ventriloquism Pヴァイン(2018)

 ミシェル・ンデゲオチェロは、過去にニーナ・シモンのトリビュート・アルバム『A Dedication To Nina Simone』(2012年)をリリースしているし、レナード・コーエンやソウル・チルドレンの曲もカヴァーしてきた。ところが、『Ventriloquism』の収録曲のほとんどは、68年生まれのミシェルが、20代のときに米国のラジオからひんぱんに流れていたR&Bやファンク系の曲。つまり『Ventriloquism』は、彼女自身の青春期のサウンドトラックであり、ヒット曲のカヴァーが主体でありながらプライヴェートなアルバムでもある。 新作は、クリス・ブルース(ギター)、エイブラハム・ラウンズ(ドラムス)、そして共同プロデューサーでもあるジョビン・ブルーニ(キーボード)と共にロサンゼルスで録音されている。もちろんミシェルは、どの曲にも思い入れがあるだろうが、とりわけ“Sometimes It Snows In April”に対しては格別であるに違いない。ミシェルは、冬空の夜のため息のようなヴォーカルでこの名曲を切々と歌っている。星になったプリンスに対して深い感謝を込めつつ、あたかも鎮魂歌のように。また、フォース・MDズの“Tender Love”は、生ギターとハーモニカを軸とした独自のアレンジで調理している。ジョー・ヘンリーをプロデューサーに迎えた『Weather』(2011年)の延長線上あり、なおかつニール・ヤングの『Harvest』(72年)を彷彿とさせる仕上がりだ。このようにカヴァー・アルバムとは言えども、すべての曲にミシェルの個性と魂が吹き込まれている。