©Dante Marshall

ドラマーの枠を超えた音楽家としての真骨頂

 クリス・デイヴは恐らく、ここ数年で最もリリースを待たれていたプレイヤーだろう。存在しないドラムヘッズのフィジカルを探し、ショップに足を運ぶリスナーがあとを絶たない中、自分も当時発表された配信限定の『The Drumhedz Mixtape』を言わば擦り切れる程聴き込んだ。エレクトロな“至上の愛”からJ・ディラの生演奏までを仲間たちと作り上げたアフロ・フューチャリズム溢れる傑作を聴きながら待つこと5年、その間ドラムヘッズでの来日もあった。

CHRIS DAVE AND THE DRUMHEDZ Chris Dave And The Drumhedz Blue Note/ユニバーサル(2018)

 J・ディラが起こしたビートの革命、その絶妙なグルーヴを人力で叩き出したことで革命を更新し、特にロバート・グラスパーの『Black Radio』リリース後は明らかにクリス・デイヴ以降という流れが存在した。しかし、本作でそのビートだけを切り取ることは難しい。『The Drumhedz Mixtape』同様、ピノ・パラディノやアイザイア・シャーキーなどディアンジェロのヴァンガードの同僚をコアメンバーにグラスパーやキーヨン・ハロルドといった現代ジャズシーンの中心人物、そしてATCQのアリやジャジー・ジェフなどのレジェンドの参加もある。その他枚挙に暇ない程の豪華面々が参加する超大作、中でもアンダーソン・パークのエモーショナルでサイケデリックな客演には圧倒される。当然ディアンジェロの『Black Messiah』の血族であり、その完成度はこれまでいくつもあったドラマーのリーダー作品とは一線を画す。これはドラマーの、というよりもビートを発生源とし重ねられた音楽と音楽の交信が熟成させた音楽家による音楽なのだ。

 トニー・ウィリアムズが76年に発表した『Million Dollar Legs』収録の“Lady Jane”のカヴァーを演奏している。そのオリジナルはマイルスの元を離れた後も果敢に時流に乗り、尖った作品でジャズの領域を拡張したトニーが自身のグループを一新しポップかつクロスオーヴァーに振り切っており、ここでの共振は実に見事で象徴的でもある。