新進ヴィオラ奏者、安達真理の待望のデビュー・アルバム

 弦楽器ファン、シューベルト・ファンにとって聴き逃せないCDが登場した。

 ウィーンやローザンヌで研鑽を積み、2015年の帰国以来、オーケストラとの共演や室内楽演奏、テレビやラジオへの出演などで注目を浴びている新進ヴィオラ奏者、安達真理のデビューCDである。これまでの実演を聴いて、彼女の武器は何よりヴィオラが物凄く上手いこと、そして音色や表現力が――最も微妙な繊細さから大胆極まりない濃厚さまで――驚くほど幅広いことが挙げられると思う。彼女は、こうした技術と表現力、そしてヨーロッパで培った音楽性を駆使して、楽曲がたった今、生まれたように息づかせてゆく。彼女の実力が本物であることは、例えばパーヴォ・ヤルヴィが若手精鋭を集めて自ら結成したエストニア祝祭管弦楽団に彼女が選ばれていることでも証明されるだろう。

安達真理,深沢亮子 冬の旅 アートユニオン(2018)

 そのデビュー盤が、彼女が学んだのと同じウィーン国立音楽大学を59年に首席卒業したヴェテラン・ピアニスト、深沢亮子との共演であるのは、まさに最高の顔合わせである。1曲目はシューベルトの《アルペジオーネ・ソナタ》。その冒頭、ピアノ・ソロによる9小節の絶妙さだけで、たちまち別世界へ連れ去られる想いがする。ヴェテランが音楽世界を創り上げた中、安達真理のヴィオラが聴き手の心の奥底に届くような深い音で応えてゆく感動! あまりにもメロディが甘美で、いささか軽く見られがちなこの名作の真の姿、深い内容美を目の当たりにするような、驚くべき名演奏だ。

 続く、歌曲集《冬の旅》からヴィオラ編曲した9曲も、単にヴィオラで旋律を歌うだけでなく、作品の情景が見えるような美しい演奏が展開されている。ラストはシューマンのアダージョとアレグロOp.70。もともとホルンのための作品だが、安達真理のヴィオラはホルンでもなかなか出せないほどの深い音を出し、作品の醍醐味を堪能させてくれる。

 


LIVE INFORMATION

L'estro Armonico Trio "Spiral & Sequence"
○4月13日(金) 19:00開演
会場:トーキョー・コンサーツ・ラボ
出演:伊藤亜美、須山暢大(ヴァイオリン)、安達真理(ヴィオラ)

深沢亮子ピアノリサイタル ~デビュー65周年記念~ 弦楽器と共に
○5月19日(土) 14:00開演
会場:東京文化会館 小ホール
出演:深沢亮子(ピアノ)、岩田恵子(ヴァイオリン)、安達真理 (ヴィオラ)、木越洋(チェロ)、黒木岩寿(コントラバス)