前作『An Ancient Observer』は、故郷アルメニア音楽からのインスピレーションを表現した渾身のソロ作品で、哀愁を帯びた旋律とヴォイスやシンセサイザーを駆使した先鋭性、変拍子を多用した難解なリズムなど、彼独自の美学が存分に詰め込まれた傑作だった。引き続きノンサッチからのリリースとなる本作は、前作の流れを踏襲しながらも、より空間的な美が強調され、一音一音の音の広がりと、余韻の美しさが、なんとも言えない荘厳な雰囲気を生み出している。持ち前の超絶技巧やリズム使いの斬新さももちろんだが、丁寧な音運びと卓越したメロディ・センスにこそ注目してほしい。