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映画「ワンダー・ストラック」公開!! ニューヨーク、2つの時代を生きる少年少女がつかみとる希望の物語

映画「ワンダー・ストラック」公開!! ニューヨーク、2つの時代を生きる少年少女がつかみとる希望の物語

ニューヨーク、2つの時代を生きる少年少女がつかみとる希望の物語

 『キャロル』でアカデミー賞6部門にノミネートされ、ハリウッドを代表する監督のひとりとして評価を高めたトッド・ヘインズ。2年振りの新作『ワンダーストラック』は、『ヒューゴの不思議な発明』で知られるブライアン・セルズニックの同名小説の映画化で、時代を越えた少年と少女のエピソードが同時進行していく。

 1977年.ミネソタに住む12歳の少年、ベン(オークス・フェグリー)は、シングルマザーだった母親のエレイン(ミシェル・ウィリアムズ)を交通事故で亡くして伯母の家で暮らしている。父親とは一度も会ったことがなく、生きているのか死んでいるのかもわからなかった。ある夜、伯母の家を抜け出して生まれ育った家に戻ったベンは、母親の部屋で「ワンダーストラック」というニューヨークの自然史博物館が出している本を見つける。そこに挟まれていたのは、キンケイド書店という本屋のしおりで、裏には「愛をこめて、ダニー」と書かれていた。このダニーが父親に違いない! そう思ったベンがキンケイド書店に電話をかけようとした瞬間、家に雷が落ちて意識を失ってしまう。気がついた時は病院のベッドのなか。落雷の衝撃でベンは耳が聞こえなくなっていた。それでも、父親に手掛かりを得るために、ベンは単身NYへ向かう。

 もうひとつのエピソードは、1927年のニュージャージーに住む女の子、ローズ(ミリセント・シモンズ)の物語。生まれた時から耳が聞こえないローズは、威圧的な父親と大きなお屋敷に住んでいる。父親が嫌いで友達もいない孤独なローズにとって、楽しみは女優のリリアン・メイヒュー(ジュリアン・ムーア)の映画を観て彼女の記事を集めること。ある日、メイヒューがNYの舞台に出演することを知ったローズは、こっそり家を抜け出してNYに向かう。NYには、自然史博物館で働いている兄のウォルターがいた。50年の時を越えて、共にNYを目指すベンとローズ。そこには二人を結びつける数奇な運命が待ち受けていた。

 原作小説ではベンのパートは文章、ローズのパートは絵で描かれているが、映画ではベンのパートはカラーでローズのパートはモノクロ。さらにローズのパートは音声がなく、音楽が流れるサイレント映画になっている。そうやって、ヘインズは映画というメディアを特性を活かしながら2つの時代を巧みに表現している。そんななか、違った時代を生きながらも、ベンとローズは似たような経験をして、それぞれに困難を切り抜けていく。

 ベンのパートでは、NYで偶然知り合ったジェイミーが登場。ベンを自然史博物館へと導いてくれる。真夜中の博物館を探検するジェイミーとベンは、まるでトム・ソーヤとハックルベリー・フィンのようだ。一方、初めて息苦しい家を離れたローズは、自然史博物館で働くウォルターのもとで暮らし始める。自然史博物館とウォルターは、彼女の人生にとって大きな存在になることは後であきらかになるのだが、ベンとローズは共に強い意志を持って新しい世界に飛び込み、自分の人生を切り開こうとする。その逞しさも二人に通じるところだが、ちなみにローズを演じたミリセント・シモンズは実際に聴覚障害で耳が聞こえない。彼女はオーディションによって選ばれたが、強い意志を秘めた表情が胸を打つ。

 また、本作は音楽の使い方も印象的だ。サントラを手掛けたのはカーター・バーウェルで、音声がないローズのパートでは音楽がローズの心の動きを表現。さらに本作のテーマ曲ともいえるのが、ベンが感電するシーンで流れるデヴィッド・ボウイ《スペース・オディティ》だ。この曲は映画『2001年宇宙の旅』('68)に触発されて作られた曲で、歌のなかでロケットで宇宙に打ち上げられるトム少佐は、これから始まるベンの旅を予感させる。また、ベンが初めてNYにやって来た時に、『2001年宇宙の旅』で使われたリヒャルト・シュトラウスの《ツァラトゥストラはかく語りき》をデオダードがカヴァーしたものが流れるが、この曲は映画『チャンス』('79)で、生まれてから一度も屋敷の外に出たことがなかった老いた庭師が、初めてNYの街に足を踏み出した時にも使用されていて、主人公と世界との出会いを象徴する曲だ。そして、映画のエンドロールには、カナダのごく普通の小学生たちの楽団、ラングレイ・スクール・ミュージック・プロジェクトが歌う《スペース・オディティ》が流れるが、この曲が吹き込まれたのは76年。ベンと同時代の子供達の歌声だと思うと感慨深い。

 これまでヘインズは、同性愛者や人種差別など社会の弱者に対する眼差しを大切にしてきたが、本作でも、両親がいなかったり、聴覚障害があったりとハンデを持った子供たちの奮闘を見守っている。映画のクライマックスでベンとローズの人生は交差するが、それはまさにワンダーな瞬間。最後にベンが見上げた星空で、トム少佐が手を振ってるような気がした。

 


『ワンダーストラック』
監督:トッド・ヘインズ
原作・脚本:ブライアン・セルズニック『WONDERSTRUCK』
音楽:カーター・バウエル
アート・ディレクター:ライアン・ヘック
出演:オークス・フェグリー/ミリセント・シモンズ/ジュリアン・ムーア/ミシェル・ウィリアムズ/ほか
配給:KADOKAWA(アメリカ 2017 年 117 分)
◎4/6(金)角川シネマ有楽町、新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ渋谷他 全国ロードショー!

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