興収15億円を突破した「アウトレイジ」シリーズ最大のヒット作。超豪華キャストが全員悪役で繰り広げる全面戦争の結末は!?

第54回ベネチア国際映画祭金獅子賞(「HANA-BI」)をはじめ、監督として数々の受賞歴を誇る〈世界のキタノ〉こと北野武。3年ぶり18作目となる映画は、北野監督唯一のシリーズプロジェクト「アウトレイジ」の最新作だ。前作「アウトレイジ ビヨンド」の続編で、タイトルの通り今作がシリーズ最終章。昨年10月に全国の映画館を賑わせたこのビッグタイトルが、いよいよBlu-ray & DVDで登場する。

北野武監督が描きたかったものとは一体何なのか? ここではtower+4月号に掲載された監督インタヴューの完全版を掲載する。

 

 

――シナリオから意識したこと、最終章だからやりたかったことや、前2作との違いがあれば教えてください。

「1本目は痛みを感じる暴力をかなり意識して作ってみたし、2本目は関西と関東の言葉の大げんかを描いているうちに結局大阪弁を多用しちゃったんだけど……。3本目は筋を通すだの仁義だの言ってる、古いタイプの主人公が〈裏切り、駆け引き、騙し合い〉に巻き込まれていく。『アウトレイジ』シリーズを3部作のつもりで、1作目、2作目、3作目と考えると3つ全ての色が違うから、フランスの国旗にもあるトリコロールのような3色の異なる色を持った3部作であり、1つの独立した作品でもあるかなと思う。

1作目で1本『アウトレイジ』を撮ったら終わりだと思ったんだけど、最後の最後に会長裏切って〈かしら〉が会長になった時に、どうもこのまんま終わったら、嫌な感じがするな。するとこの組は逆に裏切られて潰されるなと。組を潰せって言って指導したのが、刑事なんだよね。主人公が殺してしまうとなると1本目以上に、2本目の最後があまりにも余韻を持って終わってしまう。こりゃ3本目作らなきゃしょうがないなって。刑事を殺した大友は一体どこに行ったんだろう、日本にいるわけないし、外国逃げたってことになると張という会長が2作目の『アウトレイジ ビヨンド』(以下『ビヨンド』)でキーマンとして出てきてるから、そこに匿われているっていう。こうやって続けようと思えば何時までも続けられるけどね」

――シリーズものは北野監督にとって初めての体験だったと思うのですが、シリーズでこその面白さや難しさがありましたら教えて下さい。

「一番大事なのはスタートだよね。1本目で当たれば2本目は、1本目で喜んでくれた人の大半は来てくれるんだろうけど。あらゆる商売でも同じことが言えるけど2代目、3代目の初代みたいなもんだよね。大抵パート2からはダレるんだけど、うまく行った映画は1・2・3とまとめて観るともっと面白くなる。

だから本当は『龍三と七人の子分たち』もやりたいんだけど、パート2を作る頃まで生きてる人がいるかなって(笑)。龍三は生きてるだろうけど、子分たちはかなりいなくなっちゃって、『龍三と戒名の人たち』じゃまずいし(笑)。やっぱり、できないな」

――シリーズものの難しさはありましたか?

「あんまりないかな。役者やストーリーだって変わるわけだから、必然的に違う映画になってる。ただ全然違うものに見えるだろうけど、シリーズを通じてそれぞれどう変えよう、なんて思いながら作ってはいないから、エッセンスとか考え方というのはかなりシリーズで一貫してるんだけどね」

 

――豪華なキャストがそろいましたが、それぞれどんな方でしたか? まずは西田敏行さんからお聞かせください。

「西田さんの演技が上手いのはごく当たり前のもんで。西田さん自身も台本通りに演じるのに少し飽きてきてる感じがするね。でもやっぱり役者ってのは面白いと思うよ。上手い人は、もしかするとこの映画を成功させることよりも、この映画の中で誰の演技が一番上手いかっていうことばっかし考えてるんじゃねえかっていうような気がするね(笑)」

――西田さんがアドリブをする時、監督はどう思われてるんですか?

「いいアドリブだったらそのままにするんだけど、こっちはお笑いの商売なので、大したことないなって思ったらカットしちゃうよね(笑)」

――塩見三省さんはいかがでしたか?

「本番が始まったらやっぱり、何にも心配いらなかったし、本人も今作の撮影を最後までやりきれたことがよっぽど嬉しかったみたいで、試写で泣いてたって話を聞いたから。ああ良かったなと思った」

――大杉漣さんは10年ぶりの北野作品になりましたが……。

「漣さんがね、これまたちょっといい感じなんだよね。西田さんだ、塩見さんだ、ああゆうベテラン勢のいるところにね、年下の大杉さんが入ってくる。その彼をベテラン勢より上の役に据えちゃったんで、空威張りするしかないから、〈お前らコノヤロー!〉ってやってるんだ。威張ってるのはよく分かるんだけど、内心気後れしてる感じがね、作戦通り出て、うまくやってくれたなって」

 

――ピエール瀧さんは監督から見ていかがでしたか?

「初めはちょっと俺の組で演技することに戸惑っていたような感じがあったけど、こっちもあんまり、こうしてくれああしてくれって演技に関して言わない方だから、途中からは大丈夫だったよね」

――原田泰造さんの役柄も印象的です。

「『アウトレイジ』シリーズは西田さんだ、なんだってあのクラスがずらっと並ぶからいろいろ考えた結果、暴走族にしたんだよね。スーツを着て幹部でございますって言っても西田さんクラスを並べると、まだ若いし顔の迫力も弱いからね。今作出演の人たちのアップの顔って言ったらすごいからね。もうどいつもこいつも化け物屋敷みたいな、すげえ顔してるから」

 

――張会長を演じた金田時男さんについてもお聞きしたいのですが。

「初めて会った時からすげえなこの人って。あの人を(前作『ビヨンド』では)ちょい役で使ったんだけど、今作はかなりメインで使ってみたら、結果的に全く負けてない。金田さん自身は〈緊張して大変だった〉って言ってたけど、傍から見るとそうでもないんじゃないかなって感じだったね」

――そして松重豊さん演じる繁田刑事にも印象的なシーンがありますね。

「松重さんは『最終章』で終わらなきゃ、パート4なんかやるときにはかなり出世して警視総監に近いところまで行かせようかとも思ったんだけど、叩き上げで。続編でヤクザを徹底的に叩きまくるという構図にしようかと思ったんだ(笑)」

――大森南朋さんについては、最初のシーンで笑ってくれてよかったとおっしゃっていましたね。

「太刀魚のキムチ鍋っていうのを俺が済州島で何回か食べさせてもらったことがあるんだけど、太刀魚漁って、夜中にライトを点けてするもんで、昼間なんて海の水面上に上がって来るわけないんだけど、それを釣りに行っちゃって、釣れるわけねぇだろって、結局怒って拳銃撃っちゃう。するといないはずの太刀魚が弾に当たって死んで上がって来る……結局それが物語を暗示してるみたいな感じで入れといたんだ。

だから大森くん演じる市川は、あくまでも済州島での大友との関係だけで、日本にまで付いて来ちゃって手伝った上にひでえことするんだけど、帰るシーンで〈また鍋でも食いましょうよ〉って言いながら済州島で大友を待ってるって感じで。裏切ったり裏切られたり、何が本当か分からないような日本にやって来て、やることだけやってまっすぐ帰って行ったみたいな。ちょっと牧歌的な役にしたんだ」

――大森さんは俳優としていかがでしたか?

「俺の作品で彼を何回か、使ってるんだよね(※編集部注:3回目)。そんなにメインの役で使ってはいなかったけど。他の作品で主役をしていて〈ああ、上手いな〉と思ったけど、上手いだけじゃなくて、飛び抜ける何かがある人なんじゃないかなって思うんだ」

 

――そしてご自身は大友をどう演じましたか?

「頭の悪い昔風のヤクザで自分の親分がやられれば復讐するし、不義理をすれば指詰めて謝りに行くし。兄弟分殺されれば復讐するっていうような。だから裏では花菱とか色んな組が色々画策してるんだけど、大友だけはこれっぽっちも親分になってやろうとか欲がない。ただ単純に義理を果たすっていうか、昔気質のヤクザっていうか、要するに馬鹿なんだけど、成り上がることを知らない。それが美学だとも思ってないし、当たり前のことなの。世話になった人が狙われたら、自分が行くしかねぇだろうって行っちゃうだけだから。

それが、キャンバスみたいなもんだよね。何も色がついてない、ヤクザってこんなものだっていう白いキャンバスがあるんだけど、実際周りのヤクザのは色んな色が塗りたくられキャンバスの元の色が見えなくなってるっていう。大友を出すことで白いキャンバスがたまに顔を出すみたいな感じかな」

――監督は大友というキャラクターを愛情を持って見ているのか、それとも〈馬鹿なやつだなあ〉と思って見ているのですか?

「こうゆうのもあっていいね、っていうくらい。ただもし今の心境で〈もう一回違うヤクザ映画撮らない?〉って言われたら正反対の役をやるだろうけどね。親分で、悪いことばっかし画策して、尚且つ成り上がってしまうっていう役(笑)」

 

――西田さんが「アウトレイジ」シリーズはアンチ暴力の映画だとおっしゃっていましたが、一般的にはそういう声もありますし、その一方で、暴力をカッコ良く描いたという意見もあります。監督はどう思われますか?

「実際、自分が人を撃ったり、相手がのたうち回って〈ううっ〉となってるのを見せちゃうとかえってそれが、痛く見えたりするし、どう観客に取られるかって問題になるんだ。暴力が良い悪いっていう次元に問題を持っていくことなく、もっと乾いたものにしようとした。昆虫学者が蟻の殺し合いを観察するのと同じような視点で映画を撮っちまおうかってね。そんな感覚で撮ってるかな」

――それでは、劇中のセリフであえて聞きます。〈これで終わりですね?〉

「やろうと思えばストーリーは何でも作れるんだけど、『アウトレイジ』というシリーズでは終わりっていう。でも『アウトレイジ リボーン』とかつければやれるけどね(笑)」

――最後に、すでにご覧になった方、これからご覧になる方に一言お願いします。

「1本目、2本目を観てくれた人はまた今作も観てくれるんじゃないかと思うけど、三色旗(トリコロール)のようにまるっきり色が違う。そんな3つが揃えば良い映画になってるかな、と思う。どうぞよろしく」