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聴いている人をどう引っ張っていくか、言霊的な意味で詞を意識している

――この〈歌〉が、しかるべき歌詞を備えているのがいいなと。ヴォーカル・スタイルが特異な音楽家って、けっこう歌詞を言葉遊びに使ったりするんですよね。でも本作の歌詞はある種の物語を携えたものになっています。この点は、『ロックブッダ』が『ロック転生』を凌駕していると思えるところです。

「歌詞も大事なんだな、と思うようになったのは最近なんですよ。僕はこれまではメロディーの抑揚だけで持っていきたかった。歌詞が入ってくると、いろんな抑制が生まれると思っていたから。小学生の頃に音楽を聴いていたときとか、言葉でシチュエーションが限定されていくことで、自分が歌からはじき出されるのがすごく嫌いだったのもあったし、自分はできるだけメロディーを邪魔しない抽象的なことだけを歌っていたいと思っていたんです」

繋がりの果てに繋がりの元に届こうとする欲望にも似た衝動
誰かが言った 『その正直な感動を絶対に手放すな』
要は欲望の次元の問題だ 生きるって事と幸せになりたいってことは同意義だろ?
その究極のやつに用はないかい?
“感電ス”

――そんな国府さんが歌詞を意識するようになったのはなぜですか?

「歌詞に救われたとか、歌詞がいいなって思ったことがほとんどなかったんですが、そんな僕に、初めて言葉の力を圧倒的に見せつてきたのが七尾旅人だった。あ、詩ってすごいんだ、嘘じゃないんだ、という初めての芸術体験。そういう意味で七尾旅人はすごい衝撃的でしたね。その後、自身の人生のグラウンド・ゼロに立ったのもあり『ロック転生』からはちょっと詩に気を付けるようになった。詩としてというよりは、言霊的な意味で。こういう方向に聴いている人を引っ張っていきたいというヴェクトル付けを、ものすごく意識するようになったんです。それは、何もないキャンパスにどういう絵を描くか、0に1を足すときにどういう気持ちを足したいかとか、そういう話。一つの世界観を提示したいという強い意識が、『ロック転生』には具体的にありました」

持ちこたえて 失い続けて 見つけられたもの
その価値をつくれるもの同士
互いに見た それぞれの地平線と水平線の話をしよう
そのどれもが素晴らしいはずだろ?
“アイのしるし”

――作詞という点で、『ロック転生』と『ロックブッダ』は大きな違いがあると思うんですけど、その違いをもたらしたのは何だと思います?

「基本的に僕、詩は後乗せなんですけど、『ロックブッダ』に関しては、同時だったんです。メロディーのほとんどがアドリブで生まれたものだし、形も不定形だから、それと並走させて、詩にそってメロディーも変えたりフォルムを変えたりっていう自由度を『ロックブッダ』では獲得できた。

本来、自分が言葉を吐き出したいスピードとも近い、すごく自然な感覚に近づいた感じもあったんです。僕は今まではすごくスローなアウトプットしかできなかった。このメロディーに対してこの韻でないと嫌だとか、そういうのも異常にあるほうなので、選べる言葉がすごく少ないとか。そういうところで歌詞乗せるのがすごくしんどかったし遅かったんだけど、『ロックブッダ』に関してはかなり自由になれましたね」

ここから あとどれ位かかるのか あれから どれ位たったのか
ずいぶん 分からなくなってしまった
いや これたんだ
陽の当たらない場所で 生き抜いて 身につけた いくつかの力と
泥という泥を 味わいつくし身につけた いくつかの智慧を
音に込めて放とう
全ての夜を飲み込んだ朝を みんなで迎えよう
誰の笑顔も漏らさずに 誰の想いも零さずに 包み込んでしまう言葉とともに
“朝が湧く”

――15年間くらいファンを待たせてしまった国府さんですが、今後リリース予定の作品がいくつかあると聞いているんですが。

「2枚目が『スラップスティックメロディ』というメロディアスな曲を集めたアルバムで、メロウなバラード中心の超普通の歌モノのアルバム。ちょっとだけ手の込んだデモテープ・レヴェルのものかな。

そして、3枚目が『音の門』という鬱々としたフォーク・アルバムですね。こっちは4日で作ったアルバムで、闇を解体(音の門と書いて闇)したって感じがしています。初めて詞先で作った、すごくミニマムな言葉が並べられている作品です。歌詞に本気で向き合いました。その作品に収録されている曲を作っているときは強烈な鬱状態だったので、言葉なんてほとんど出てこなかった。でもギリギリで紡ぎだされた言葉があって、これをなんとか形にしたいということで、一つのアルバムにしたんです。この2枚はそれぞれ『ロックブッダ』の影と闇にあたるもので、三部作というよりは、副産物ですね」

――ぼくはまた、『ロックブッダ』をリリースしてからまた沈黙するんじゃないかと不安だったんですけど、ちゃんと先の構想があるみたいで安心したんです(笑)。

「リリースしたいものはすでに5、6枚ありますね。だってどんだけ活動してないと思ってるんですか(笑)。溜まっているものもあるし、漠然とした青写真のものもある。先ほど言ってたような360度から聴こえる音楽というのも、テクノロジー的に可能なら作ってみたい音楽もある。それはどこまでやれるかわからないけれど、でもやってみたいなぁ。10年以内に辿り着けたら嬉しいなと思っているんだけど。だから、今後の展開は楽しみにしていてね、という感じです」

 


Live Information
〈国府達矢『ロックブッダ』リリース記念ライヴ〉
2018年4月20日(金)東京・新代田FEVER
開場:18:30 開演:19:00
出演 : 国府達矢(ROCK BUDDHA FORM)/七尾旅人/skillkills
前売り:3,000円(+1drink)
チケット : ローソンチケット(Lコード:70491)、チケットぴあ (Pコード:108-309)、e+、FEVER店頭
Info : FEVER 03-6304-7899