ダブステップ、グライム、チルウェイヴ、フットワークなど、地下で蠢く潮流をいち早くキャッチしつつ、それらを変化球で鳴らす曲者ばかりを紹介することで好事家たちを喜ばせてきたマイク・パラディナスが今回送り出すのは、ベーシック・リズムやイマジナリー・フォーシズといった諸名義で先鋭的な電子音楽を発信してきた鬼才アンソニーJ・ハートによる新プロジェクトだ。ほぼ全編で気鋭のグライムMCを従えた本作は、グライム・アルバムと捉えても差し支えはないが、ダンスホール、インダストリアル、ドラムンベースなどのDNAをエクスペリメンタルな電子音響で加工したトラック群は、ベース・ミュージックやテクノ、音響系の耳にも魅力的に聴こえるだろう。カルチュラル・スタディーズの研究者ポール・ギルロイの紹介文がオフィシャル・サイトに掲載されているが、土着的でダンサブルなビートとベースラインの格好良さには快楽中枢を刺激する中毒性があり、堅苦しい文化論を抜きにしても楽しませてくれる。