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死ぬまで聴けるようにしてやるぜ!ってこと

――『少女フィクション』の全体像は制作当初から明確だったんですか?

松永「僕は大体作品を作る時はタイトルから決めるんですよね。今回も、まず『少女フィクション』というタイトルを決めて、みんなに〈1曲目は“あたしフィクション”。バキバキなんだけどフレンチ・ポップ、みたいな曲になるでしょう〉と天気予報みたいなことを言って、〈あとは浜崎さん、お願いします!〉って」

浜崎「〈1曲目なんで、よろしく〉って(笑)。本当にフレンチ・ポップみたいな曲になりましたね」

松永「そうやって制作しているうちに、いろんなファクターが入ってくるんです。“トーキョー・キッド”は80年代のパンク/ニューウェイヴ、中でも日本のニューウェイヴの暗さやシニカルなところを意識していたり、あとは90年代リヴァイヴァルとか、そういった要素がパズルみたいに組み合わさって、自然とアルバムになっていく感じです。

全体を通して言えるのは……前作の『昭和九十年』(2015年)は重たいアルバムだったんですね。〈戦争状態がずっと続いている架空の昭和〉をコンセプトにしていたんですが、その後、ライヴ会場限定でリリースした『昭和九十一年』(2016年)は、その先にあるポップな世界を表現していて、なんというか、サイエンスフィクション……SFを感じさせる歌詞が多かったんです。それが『少女フィクション』につながっていくわけですけど、今って現実がSFみたいじゃないですか? ネットのなかにだけあった未来が、いよいよ現実に拡張してきた。AIスピーカーに〈Alexa、今日の天気はどうだい?〉とか聞いちゃったりして」

瀬々 信「寂しいねえ」

松永「身体にチップを埋め込むことに抵抗がある人も多いと思うけど、人間の思考パターンを解析して、そのビッグデータを元にして動くガジェットも出て来るだろうし。既にそうなってる部分もあると思うし、これまでの身体感覚やモラルも通用しなくなってくるんじゃないかなって……」

浜崎「何の話してるのか全然わからない」

――(笑)。今の松永さんの話もアルバムのコンセプトにつながっていると思います。が、そこはメンバーのみなさんも共有してるんですか?

松永「そういう話はあまりしないよね?」

おおくぼ「いや、(松永が)常日頃からずっとしゃべってるよ(笑)」

瀬々 信「うん(笑)。だから(松永が示すコンセプトは)自然に汲み取れていると思うし、それは制作にも反映されているんじゃないかなと」

松永「あ、そうなんだ。僕がAIスピーカーみたいな感じでした(笑)」

浜崎「私は全然わからないから、今の下りは全部カットでいいです(笑)」

――アルバムの新曲についても聞かせてください。“大人病”は、おおくぼさんのピアノから始まる洗練された印象のポップ・ナンバーですが、歌詞は先ほど話に出ていた〈大人になれない大人〉というテーマにも通じているなと。

松永「依然アンチ・エイジングが称揚されていますけど、あれは年を取ることを病気として考えているところもあると思うんです。特に女性は年齢に伴う変化に敏感だし、そこから〈過去の自分と別れる〉というテーマにつながって。ただ、この曲の歌詞のクレジットは〈松永天馬・浜崎容子〉なんですよ。僕が最初に歌詞を書いていたら、途中から浜崎さんが〈私が考えていた「大人病」はこうじゃない!〉って、バーッと書いてきて」

浜崎「天馬の歌詞を読んで〈全然わかってない!〉と思って、自分が入れたい言葉を加えさせてもらったんです」

おおくぼ「浜崎さん自身が〈大人病〉なんですよ」

浜崎「完全にそうですね」

松永「これは“さよならサブカルチャー”の先にある曲ですよね。“さよならサブカルチャー”は、憧れてきたサブカルチャーとの決別を歌ってたんだけど、〈ふりかえってみなよ 思い出に変わるから 大人病〉という一節もある“大人病”は、その頃に好きだったものと再び出会う歌だから」

2012年作『ガイガーカウンターカルチャー』収録曲“さよならサブカルチャー”
 

浜崎「誰にでも黒歴史ってあるじゃないですか。もしかしたら、アーバンギャルドを聴いてたこと自体が黒歴史という人もいるかもしれないし……どこもケガしてないのに眼帯したり、包帯を巻いたりとかね(笑)。そのことを恥ずかしいと思う時期を過ぎて、多感だったときに聴いていたものにもう一度向き合おうとすることが〈大人病〉なんですよね。〈やっぱり好きだ。これを聴いていたから、今の自分があるんだ〉と改めて実感する、という」

松永「〈人は14才のときに聴いていたものを聴き続ける〉という科学的に根拠のある話もありますからね。離れる時期があったとしても、最終的には戻ってくるというか、また違った聴き方ができるようになるっていう。僕にとっては、筋肉少女帯がまさにそうなんです。10代前半のときにめちゃくちゃ聴いていて、しばらく聴いてない時期があったけど、20代後半で聴き直してみると〈この歌詞、そういうことだったのか〉とわかることがあって」

おおくぼ「今の話とは逆になるかもしれないけど、10代の頃に好きだったアーティストが年齢を重ねてから作る作品もいいなと感じることがありますよね」

松永「ミュージシャンや楽曲は変化するものだということが自分自身の体感として分かるようになったし、変わっていく必然性がわかるようになったからかな。人も音楽も変わりゆくんですよ。ただ三つ子の魂じゃないですが、芯はなかなか変わりませんが」

おおくぼ「そうだね。さだまさしさんの最新作、すごくいいんですよ」

※2017年作『惠百福 たくさんのしあわせ』

浜崎「CHEMISTRYも最新作がいちばんいいと思う」

※2017年のシングル“Windy/ユメノツヅキ”

松永「そうなの!? その話、アーバン的にはレアだからもっとしてったほうがいいよ(笑)」

――アーバンギャルドはまだ10年ですが、ファンもどの時期のアーバンギャルドが好きかで意見が分かれるかも。

浜崎「それはあると思います。メジャー・デビューのタイミングで離れた人とかもいるだろうし。でもそんな人たちにも、今回のアルバムを聴いてほしいですし、ライヴも観てほしい。〈今〉のアーバンギャルドをぜひ観てほしいなって強く思っています。先日“あたしフィクション”のMVを公開したとき、エゴサーチしてみたんですけど……」

松永「お、毒を摂取したんですね?」

浜崎「どうしても指が止まらなくて(笑)。そしたら〈アーバンギャルド、まったく何も変わってない〉という書き込みがけっこうあったんです。〈ずっと同じことやってる〉って。確かに水玉のワンピース着てるし、パッと見た感じは10年前と同じかもしれないけど、確実に変わってますからね」

松永「それはブレてないということだし、ポジティヴに捉えてもいいんじゃないですか?」

浜崎「そう、私も褒め言葉として受け取っています」

瀬々 信「軸はブレてないけど、できることは増えてるんだよね」

おおくぼ「うん。本当に10年前と同じことをやっていたら〈変わってない〉とは言われないと思うんですよね。ブレないまま進化してるから変わってないって思われるんじゃないかな」

浜崎昨年のインタヴューでも言いましたけど、水玉を着続ける覚悟もできているので。そういう姿勢を見せられるバンドになったんだと思います」

松永「〈死ぬまで聴けるようにしてやるぜ!〉ってことですね」

 

平成はアーバンギャルド、つまり〈少女〉そのものなんです

――『少女フィクション』の、瀬々信さんの作曲による“鉄屑鉄男”はアーバンギャルドらしい楽曲ですね。

瀬々 信「僕らのアルバムに1曲はあるヘヴィー・メタル・コーナーですね」

松永「インダストリアル・メタルだよね」

瀬々 信「めちゃくちゃ堅い音ですね。さらにおおくぼさんに〈何かおもしろいシンセ入れて〉って言ったら……」

おおくぼ「P-MODELみたいになりました(笑)。それもインダストリアル寄りだった90年代のP-MODELですね。僕は映画の『鉄男』が大好きなんですよ」

松永「『鉄男』も鉄に変わりゆく主人公がもうひとりの自分と闘うような、中二病的な映画だよね」

おおくぼ「そうだね(笑)。10代のときに『鉄男』を大音量で観ながら悦に入ってました」

松永「〈爆音映画祭〉をひとりでやってたんだね(笑)。あと、この〈鉄屑〉はスマホのことなんかかもしれないですね。キノコホテルのマリアンヌ東雲さんがよくスマホのことを〈鉄屑〉みたいにつぶやいてますけど、そのニュアンスに近い。〈現代人は鉄屑に依拠するしかない、それほど弱い存在なんだ〉っていう」

――(笑)。おおくぼさんの作曲による“キスについて”も、まさにアーバンギャルドの持つ美しさが前面に出たバラード・ナンバーだなと。

おおくぼ「ありがとうございます」

浜崎「『昭和九十年』に“平成死亡遊戯”という曲が収録されていて。すごく良いバラードなんだけど、歌詞が手元にないとどういう曲か理解しにくいと思うんです。今回はそうじゃなくて、たとえば路上ライヴで歌っても〈あれ? いい曲だな〉って立ち止まってもらえるような曲にしたかった。すごく美しくて普遍的で〈これを入れないならアルバムは出せない!〉くらいの気持ちでした」

2015年作『昭和九十年』収録曲“平成死亡遊戯”
 

松永「うん。歌詞も専門的な用語を使わず、できるだけ平易な言葉で書きたくて」

瀬々 信「言葉数も少ないよね」

浜崎「この歌詞も松永・浜崎の連名ですね。“大人病”のときと同じで、天馬が書いてきた歌詞を読んだときに〈私の思う“キスについて”はこうじゃない!〉って思って、バーッと書いて。私は〈主人公の女の子の涙が洪水になる〉というイメージだったんですが、天馬の歌詞は〈最初から世界は水のなかに沈んでる〉という感じだったので」

瀬々 信「『未来少年コナン』だね」

松永「そうだね。言うなれば〈水中キス〉を描きたかったんですよ。窒息しそうな世の中のなかで、キスしているときだけで息ができる、という」

浜崎「私のなかでは「不思議の国のアリス」ではないけど、女の子の涙が溢れて、世界が水浸しになるっていうほうがロマンティックかなと。あと、女の子にしかわからない感情ってあるから、それをしっかり表現したいなって」

松永「なるほど。でも、今回のアルバムの歌詞は全体的に浜崎さんに捧げているんですよ。浜崎さんと、浜崎さんを象徴として捉えているすべてのリスナーに向けているので」

浜崎「そうなの?」

松永「はい。アルバムのジャケットもそういうことですからね。テクノのマナーにのっとったYMOの『増殖(X∞Multiplies)』オマージュかもしれないけど、同時に〈リスナー全員が浜崎容子〉ということでもあるので」

おおくぼ「男性のお客さんも女装してるからね」

――それにしても平成の終わりに差し掛かった10周年の年にふさわしいアルバムになりましたね。

松永「〈豪華盤〉についてくるDVDに“大破壊交響楽”のMVが入っているんですけど、メモリアル・ビデオと称して、アーバンギャルドにまつわる、東京のいろんな場所で撮影しました。かつてワンマン・ライヴをやったSHIBUYA-AXの跡地などなど……。〈TOKYO 2020〉のエンブレムが貼られた都庁や『AKIRA』の絵が描かれている工事中のPARCOを巡ったりもして、映っているものすべて、2018年の東京以外の何物でもない。これもすべて過去になる、撮った先から過去になるなあと妙に感慨深くなったりもして……。そんなこんなで平成も、僕らの時代も一区切り、終わるわけです」

――漫画「AKIRA」の舞台はオリンピックを翌年に控えた2019年のネオ東京ですね。

おおくぼ「そうなんですよね。何年後かに〈あの頃は東京オリンピックがあると思ってたよね〉ということになるかも(笑)」

松永「そういう未来だってあり得るからね(笑)! それも含めて、『少女フィクション』は〈今〉を刻み込んだアルバムになったと思います。これを平成の最後にリリースすることになったのも記念碑的ですよね。モノリスのようにそびえ立っている。これから平成はどんな時代だったか?という検証がたくさん始まると思うけど、個人的にはずっと閉鎖感があったし、〈モヤモヤしている間に30年過ぎちゃったな〉と。平成は我々アーバンギャルド、つまり〈少女〉そのものなんですよ。変わりたいと思いつつ、変わることを恐れながら成長していく少女そのもの。〈自分はこのままでいいんだろうか?〉と不安を語るお手紙もよくもらいますが、時代をサヴァイブしていくためには、変わることを恐れない〈少しの勇気〉があればいい、そう思っています。我々アーバンギャルドは変わりつつ、変わりません。これから先もずっと……」

 


Live Information

〈アーバンギャルドのディストピア2018『KEKKON SHIKI』〉

2018年4月8日(日)東京・中野サンプラザホール
OPEN 16:00 / START 17:00

〈アーバンギャルドの公開処刑13(トークライヴ & サイン会)〉

2018年4月3日(火)埼玉・ヴィレッジヴァンガードPLUS イオン越谷レイクタウン店
START 18:00
2018年4月4日(水)大阪・タワーレコード梅田NU茶屋町店
START 19:30
2018年4月5日(木)愛知・HMV栄
START 19:30
2018年4月6日(金)東京・タワーレコード新宿店
START 21:00

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