クリエイターの佐藤理が中心となって開発し、98年に発売されたプレイステーション用ゲーム「LSD」。〈夢のなかのような仮想現実の世界をただひたすら彷徨い続ける〉という内容で、カルト的作品として知られており、現在も熱狂的ファンから根強い人気を誇る。イギリスのバンドのアルト・Jがアルバム『Relaxer』(2017年)において同作のイメージや映像を使用したり、あるいは海外ファンが独自にリメイク・プロジェクトを行ったりと、リリースから20周年を数えるいまもその影響力は大きい。

「LSD」はその独特の世界観やプレイ内容も伝説化しているが、同作のサウンドトラック『LSD AND REMIXES』も音楽ファンやミュージシャンたちからいまなおフェイヴァリットとして挙げられるクラシックだ。佐藤理の手になるテクノ・トラック、そしてケン・イシイやμ-Ziq、ジミ・テナー、モーガン・ガイストらによるリミックスが収められた『LSD AND REMIXES』からは、誰もがテクノやエレクトロニック・ミュージックに音楽の未来や前衛を見ていた時代の幸福なムードが感じられる。

そんな『LSD AND REMIXES』が20周年を機に、『LSD REVAMPED』 としてよみがえった。一枚目の佐藤理の楽曲にはタイトルに〈2018〉が冠され、ボーナス・トラックの“Mayday”が収録、二枚目のリミックス集には新たなリミックスが3曲追加された豪華盤となっている。しかも、マスタリングは砂原良徳だ。『LSD REVAMPED』 は単なるリイシューに留まらない、野心的な〈新作〉だと言ってもいいかもしれない。

本作『LSD REVAMPED』の眼目は、ボーナス・トラックの“Mayday”と3曲の新たなリミックスだろう。前者はどうやら、佐藤が立ち上げた(そして短命に終わった)レーベルのサンプラー『Linen Sampler 1997 Ver.1.0』に収められていたレア・トラックであるらしい。〈メイデイ〉といえばデトロイト・テクノのオリジネイターであるデリック・メイの変名。そんなタイトル通りのデトロイト・テクノ風のトラックだが、コンガのようなパーカッションのトライバルなパターンがサンプリングされている点が佐藤らしい(“Fried Banana 2018”でも同様のパーカッションが取り入れられている)。

新たなリミックスに関しても紹介しておこう。Mikikiでは『Diggin In The Carts』の記事でも登場してもらった、ハイパーダブの新鋭・Quarta 330による“Say Cheeze”のリミックスは、チップチューンとダブステップの折衷を試みる彼らしい8ビット・サウンドとダビーな音像が心地良く、かつダンサブルだ。Maltineからリリースした『アイフォーン・シックス・プラス』(2017年)が話題の長谷川白紙による“Come On And”は、ドラムンベース的なせわしないビートや、なぜかフュージョン風のシンセサイザー・ソロがスカムでトラッシー。

OKAMOTO’Sのオカモトレイジとジョルジオギヴンによる“Fax Factory”のリミックスは特に話題を集めそうだ。〈ジョルジオギヴンって誰?〉というのが大方の反応だとは思うが、ヒップホップ・デュオ、LowPassのMCであるGivvnが現在〈Giorgio Givvn〉あるいは〈Giorgio Blaise Givvn〉という名義で活動しているので、おそらく彼のことだろう。そんな2人によるリミックスは次々と展開していく楽曲構造がユニークだ。フランス語(?)のヴォーカルやユーモラスなピアノのサンプルが飛び出すIDM(マウス・オン・マーズ?)風の序盤から、トラップ・ビートの中盤、そしてインダストリアル的な4つ打ちへと変化していく後半――そんな“Fax Factory(オカモトレイジ(OKAMOTO’S)とジョルジオギヴンMIX)”は原曲からかなりかけ離れた独特のトラックになっている。

先の『Diggin In The Carts』や新世代のアーティストの台頭により、新たな視点からの再評価と再発見が進んでいるゲーム音楽。「LSD」の20周年を祝う『LSD REVAMPED』はその風潮をさらに盛り上げる一作となることだろう。