新しさとオリジナリティーってイコールではないですよね

――サウンドとしても70年代のレコードの様な印象を受けました。少し荒削りでローファイな質感というか。

福田「今回はしっかりしたスタジオで、エンジニアさんもつけてもらったので、ローファイにしたいというのは頭の中にあったんです。でも今回自分でミックスをやらせてもらったんですけど、荒くってガチャガチャで、本当はもっときれいにしたかった。エンジニアの馬場友美さんがきれいな音で録ってくれた音を僕が家でめちゃくちゃにするという(苦笑)。そこはまだ未熟なので、精錬していくことも課題ですね」

――ミックスも自分でやられているのはすごいですね。最初に加藤さんに渡したという宅録の音源しかり、そういう作業も好きなんですか?

福田「詳しいことはわかんなくて全然素人ですけど、好きですね。父親が昔の4トラのMTRを持っていたので、小さいころからギターを録ったりして遊んでいましたし。プラモデルを作るのと同じような感覚で、作るのが好きなんですよ」

――こんな音にしたいというような理想はありますか?

福田「大前提として60~70年代の、レコードの時代の音はすべていいと思っているんですよ。その中でも特に今回影響を受けているのは、スライ&ザ・ファミリー・ストーンの『暴動』ですね。あれを現代にアップデートしたような音にしているバンドも今いますけど、その中で例えばヴルフペックの音の、特にスネアの音はかなり意識しました。絶対追いつけないですけど、ミックスしている時のイメージする音像として大きかったです」

※2011年結成。LAのミニマル・ファンク・バンド

加藤「自分が今作の音質について思い出したのは、シュギー・オーティスが74年に出したアルバムですね(『Inspiration Information』)。この作品も宅録なんですよ。楽器もホーン・セクション以外は自分で演奏していて、いわゆる超いい音というよりもシュギー・オーティスの価値観で構築されているミックスというのが伝わってきますけど、録った音をいじるわけだからミックスも楽器の一つなんだと自分は思っています。『二枚目』では喜充がやったから、そこには喜充の価値観が出ているなと思います」

スライ&ザ・ファミリー・ストーンの71年作『暴動』収録曲“Family Affair”
 
シュギー・オーティス『Inspiration Information』タイトル・トラック
 

――すばらしかは70年代のさまざまな文化から影響を受けているのが印象的ですが、あくまで2010年代に活動している日本のバンドです。その中で今の時代の音楽を作っているという意識はありますか?

福田「それは意識してできるものではないですね。結果論。でもバイト中に見たんだよなぁ……Red Bull Music Academyのサイトで誰かは忘れたけど若手のスカシたブラック・ミュージック系のミュージシャンのインタヴューを読んでいて。その人が言っていたのは、〈特に90年代の音楽はルーツ・ミュージックが根底にあって、それから2000年代はジャンルをミックスすることで新しい音楽が生まれていたわけ。でも2010年代以降はジャンルにプラスして時代をミックスしたものがおもしろい音楽だね〉と。なるほどそれは大事なことだと思うしおもしろいなと」

――じゃあ今の時代ってどういう時代なんでしょうね。

福田「今の世の中が便利だから、何でも自分が知りたいって気持ちさえあれば過去のものでも知れる。だからそこから掘り下げる気概があって、さらにそこからインスパイアされて自分の作品に反映できる人がやっぱり時代を作るんじゃないでしょうかね」

――それはまさにすばらしかがやっていることではないのでしょうか?

福田「そこまで自分たちは考えていないですよ。自分たちの音楽のどこかに新しさがあるかと訊かれたら別にないですし」

加藤「新しさとオリジナリティーってイコールではないですよね。今回の作品でも影響を受けた音楽はたくさんあるけど、どの音楽も新しさと言われたらないんだと思う。新しさが無くてもオリジナリティーのあるものがいつの時代でも、どんなジャンルでも生まれる余地があるんだと思います」

――では、すばらしかの音楽のオリジナリティーはどこだと捉えています?

福田「わかんないっすね。歌詞じゃない? あえて言うとしたら。こういうサウンドで英語の歌詞だったら別に僕らが作る必要はない。偉大な先人たちがいくらでもいるし、勝負できるのは歌詞。あとはギターですかね」

加藤「ギター・ソロをしっかり弾いているっていう」

福田「僕としてはバンドのフロントマンとか曲を書く人とかそういう以前に、肩書きを名乗るとしたらギタリストって言いたいくらいなんですよ」

――確かに今の日本のロックは曲が短かったりして、曲の構成の上でもギター・ソロのパートがなかなかないことは1つの潮流かもしれません。その点、本作では“鍵がない”のアウトロで聴ける鬼気迫る長尺のギター・ソロをはじめ、ギター・ロック・アルバムとも言えてしまう仕上がりですよね。では、ギタリストとしての福田さんを構成する要素はなんでしょうか。

福田「やっぱりブルースですね。僕はベタですよ。ジミ・ヘンドリックス、キース・リチャーズ……」

加藤「ロビー?」

福田「あ、ロビー・ロバートソン、ジェリー・ガルシア、コーネル・デュプリー、ロバート・ジョンソン、スティーヴィー・レイ・ヴォーン。挙げだしたらもうきりがないですね」

――そのたくさんの偉大な先人から受けた影響は、すばらしかのアートワークにも出ていますよね。『灰になろう』の帯ははっぴいえんどの『はっぴいえんど』でしたし、盤面には忠実にURCのロゴが入っていたり。

加藤「前作も今作も自分が出したアイデアをデザイナーさんに伝えて作ってもらっていて、今作では帯をピンク・フロイドの『Ummagumma』(69年)の日本盤に模していますが、こういうのはもう半分ネタのようなものですね。アートワークで言うとやっぱりヒプノシスが好きで、結局そういう時代に惹かれているのかなと客観的に考えたら思いますけど、リスペクトというよりは単純に見ていて気持ちいいからですね」

『二枚目』ジャケット
 

――そんな凝ったアートワークに反して、タイトルはこれ以上になくシンプルな『二枚目』というのも人を食った感じですね。この意図はあるのでしょうか。

福田「意味はない! ツェッペリン方式で次は『三枚目』でもいいと思いますし。単純に2作目だからです」

加藤「林は50個くらいタイトルのアイデアをLINEで送ってきたんですけどね」

福田「それは全部無視して(笑)」

――ありそうでなかったタイトルですよね。

福田「でも男闘呼組であるらしいです」

加藤「スカートの澤部さんがツイートしてて、どういうことかと調べたら男闘呼組でした。でも正式には『男闘呼組 二枚目』(89年)らしいけどね」

Pヴァイン・スタッフ「ゴスペラーズとかメロン記念日にもあるらしいですよ」

福田「そうなんだ、勉強不足でした(笑)。でもイメージとしてはツェッペリンですね」

加藤「あとストーン・ローゼズの『Second Coming』(94年)」

――〈二枚目〉は日本では色男という意味にも取れますよね。

福田「まぁそれもあったりなかったり」

加藤「そういうダブル・ミーニングで捉えられるのはいいね。このタイトルは色んな人に褒められます」

――アートワークしかりタイトルしかり、すばらしかは色んなところに深読みしたくなる余白の仕掛けがありますからね。1曲目“そして、時がたつ”の冒頭で、〈 今、俺、音楽しかしたくない! 〉って決意表明を叫んで始まるところとか。

福田「まぁそれはカマシですよね(笑)。去年タイに2週間くらい遊びに行って、船の上でやるレイブ・パーティーに行ったんですけど、そこが世界中から選りすぐられたヒッピーが集まるようなところで、三日三晩トランスがガンガンかかってたんです。すっごくドープで、みんないい人ばっかりで、もう気持ち良すぎたので、ちょっと録音しておこうと40分くらいボイスメモで録音していて。あの叫びはその録音の一発目に入っていた自分の叫びなんですよ。後から聴いておもしろかったんで、これはアルバム録るなら最初にいれようって。その時に感じた、ただの純粋な気持ちです」

 


LIVE INFORMATION
すばらしか1stアルバム「二枚目」リリースパーティー
2018年6月28日(木)東京・吉祥寺 スターパインズカフェ
ゲスト:山本精一/ケバブジョンソン
開場/開演:19:00/19:30
前売り/当日:2,800円/3,300円 ※ドリンク代別
ご予約:スターパインズカフェ予約フォーム https://ssl.form-mailer.jp/fms/f7f014c8172636
※スターパインズカフェ店頭でも受付中!