メッセージとしては〈真似するなよ〉ってことのような気もするんです

――また、劇中ではイギーと盟友のデヴィッド・ボウイとの関係性についても触れられていて。ツアーのリハーサルの前日にボウイが亡くなって、それでもスタジオに入る……という印象的な場面がありましたよね。

須藤「ウソだろ!?って思いましたよね。一日くらい違うだろって(笑)。そんなとんでもなくドラマティックなことあるのかい、と。でもそのリハーサルは物凄い時間だったろうなと思います。〈とてもエネルギッシュだった〉とも言ってましたけど、熱が入ってしまうだろうというのはわかる気がします」

――『Post Pop Depression』の制作はボウイがプロデュースしたイギーの『The Idiot』と『Lust For Life』をお手本にしていたらしいので、ジョシュやイギー以外のメンバーにとってもショックな出来事だったでしょうね。そうした脇を固める面々、ジョシュ以外の二人も魅力的ですよね。ディーン・フェルティタ(ギター)とマット・ヘルダース(ドラムス)。

須藤「めちゃくちゃカッコいいですよね。映画後半のツアーのシーンで、最初の1曲がアルバムからの曲じゃなくて彼らの演奏による“Lust For Life”だったじゃないですか。この曲はいろんなライヴ・ヴァージョンを観てますけど、断トツで鳥肌が立ちました。まず、演奏がめちゃくちゃうまい。そのうえで、イギーの意図を汲んだプレイというか、パッションがあって、何かが始まる予感が凄かった。最高にヤバいオープニングでしたね」

斉藤「ほかにも何曲か過去の曲にまつわるシーンがありましたけど、メンバーそれぞれから大好きなイギーの曲を自分たちが演奏して本人が歌うってことへの愛情が溢れてるじゃないですか。〈絶対カッコよくなきゃだめだ〉って。そういう気概がビンビン伝わってくるような」

『Post Pop Depression』のツアー・メンバーで演奏したロイヤル・アルバート・ホールでのライヴ映像
 

――ディーンとマットは、腕はあるけど内気だったからこそ殻を破ってほしいという理由でジョシュが選んだというエピソードもありました。2人の内燃するエネルギーが放出されていく感じもまた刺激的でしたね。

斉藤「そんな仲間同士が砂漠のど真ん中で合宿をする、そこには強烈な狙いがあったはずですよね。髭も合宿スタイルでやったことがあるんですけど、やっぱりメンバー同士の距離が縮まるんです。ジョシュも〈食事がとにかく大事〉だと言っていたりしましたけど、実は音楽とは違うところで意味があるんですよね。映画ではみんなの食事を作るのはエンジニアのパトリック・ハッチソンで、彼のファッションとか、そういうところも含めて〈いちいち全部カッコいいじゃねえかよ!〉って思ってました」

後列右がマット・ヘルダーズ(アークティック・モンキーズ)、左がディーン・フェルティタ(クイーンズ・オブ・ザ・ストーン・エイジ/デッド・ウェザー)
 

――なっちゃいますよね。そういった中でメンバーが結束して〈バンド〉となった感じは、『Post Pop Depression』の4人が対等に横並びになったジャケットにも表れているような。また、この映画はバンドマンとしても学ぶところと言ったら固いですけど、たくさんあると思うんです。

須藤「今回もそうですし、いろんな偉大なミュージシャンの伝記映画でも本でも、読むといつも〈こんなふうに生きてみたい〉と思っちゃうんです。でも、メッセージとしては〈真似するなよ〉ってことのような気もするんです。イギーは結局誰の真似もしなかったから孤高のアーティストだったわけで、彼のようになりたいって思うからこそ、オリジナルとして生きていかなきゃならないというか。イギーもジム・モリソンに憧れていたって話がありますし、誰にでも影響を受けて真似てみた存在はいると思うんですけど、いつも難しい問題だなって思いますね」

――なるほど。

須藤「劇中でもすごいカッコイイ言葉が出てきたじゃないですか。〈オレにあるのは名前だけ〉とかいう。あれなんかもすぐ髭の歌詞にしようと思ったもんね」

一同:ハハハ(笑)!

須藤「あ、言ってるそばからだめだってすぐ気づきましたけど(笑)。でも最高にカッコいいって思ったからこそ、もうイギーとはお別れしなきゃいけないとも思って、(映画を観ていた)パソコンの電源をそっと落としました(笑)」

――いろんなプロセスを経て、オリジナリティーを獲得していくんでしょうね。イギー自身も変わっていったじゃないですか? 昨年公開された『ギミー・デンジャー』では、バンドがドラッグによって破壊されていったことにも触れられていますが、『アメリカン・ヴァルハラ』では〈酒とクスリがなければもっといい音楽ができていた〉と話していましたし、尖った魅力はそのままに今も最高に輝いているけど、よく言えば大人に、〈アメリカン・ヴァルハラ〉(=戦死した英雄の霊を弔う場所)が示す通り老いも感じている。

イギーがソロ活動をする前の67年に結成したバンド、ストゥージズ(イギ―&ザ・ストゥージズ)のドキュメンタリー。ジム・ジャームッシュが監督を務めた

須藤「『ギミー・デンジャー』ではストゥージズ期の白塗りの頃や首輪してる姿、中指立ててるところとか、昔の写真がたくさん出てくるじゃないですか。親交の深いジム・ジャームッシュの存在も大きいと思うんですけど、昔話もリラックスしてざっくばらんに話してるし。自分に置き換えると、昔のことって恥ずかしいんですよ。でも彼は後悔はしていても恥じてはいない。その人間としての抜けの良さというか、凄く綺麗な人だなって思うんです」

斉藤「『ギミー・デンジャー』もめちゃくちゃおもしろかったですね。ドラムのスコット・アシュトンが稼げなくて実家に帰ってきた時のことを彼の妹が語るところとか、彼らは伝説でもなんでもなく、最高の褒め言葉として〈ただのバンド〉だったんだって言いたい。あまり彼らを崇め過ぎるのも違う気がしますし、イギー自身もそれを望んでいない気もするんです。みんな家族みたいな存在で、ただまっすぐにやりたいんだけど、どうもうまいことできねえ、と。そこに人間味を感じました」

ジム・ジャームッシュ,IGGY & THE STOOGES ギミー・デンジャー キング(2018)

「ギミー・デンジャー」トレイラー
 

――あの生々しさがいい。

斉藤「マリファナを乾燥機にかけるとか、もう日本人の僕の感覚だとわからないんだけど(笑)、笑っちゃうシーンも結構あっていい感じ」

――そのストゥージズ時代から、イギーは『アメリカン・ヴァルハラ』までの約50年間、音楽を続けます。そして映画の最後には由緒正しきロイヤル・アルバート・ホールのライヴで〈F○CK〉を連発して。

斉藤「計算してるわけじゃないと思うんですけど、〈みんなこの神聖なホールで“F○CK”を連発するオレが観たいんだろ〉って、そういうパフォーマーとしてのユーモアとサーヴィス精神が素晴らしいし、何より本人もめちゃくちゃ楽しそうで。ぜひ須藤にもああなってほしいなって思います」

「ギミー・デンジャー」場面写真
 

――あと、あの肉体は何でしょうね?

須藤「あれ高○クリニックじゃないんですか(笑)? イギーって90年代の終わりまでヘロイン中毒でしょ? それでなんであの胸板なんだろう?」

斉藤「ヘロイン中毒の人が健康に気を遣いだすと、あの不思議な、ボロボロなんだけど凄い、みたいな体になるんじゃないかな(笑)?」

須藤「あとイギーはタトゥーを入れてないですよね。〈パンクのゴッドファーザー〉だって聞くとめっちゃ入ってそうなのに。ライヴもずっと裸で、彼は自分の体にとってどうするのが一番美しいか知ってるんだと思うんです」

斉藤「キース・リチャーズの顔とかもそうですけど、ただのシワじゃなくて、経験してきたことが表れている凄みのある身体」

――70歳になった今でも、ステージでめちゃくちゃ動きながら歌う。あのフィジカル・パワーも凄まじいですよね。ちなみにイギーは2000年代に入ってからも何度か来日していますが、ライヴを観たことはありますか?

須藤「2007年の〈フジロック〉で観ました。あの時で60歳かって感じですけど、凄かったですね」

斉藤「実はバックヤードでも見かけて、見た瞬間〈おお~〉って、たぶん僕実際に声に出して言ってましたね」

須藤「有名な話だけど“No Fun”をやった時に、お客さんをステージに上げちゃったんだよね

斉藤「そうだそうだ」

須藤「もう我慢できなくなっちゃった人たちに、イギーが〈こっち来いよ〉って言ったんだけど、みんなが乗っちゃって暴れまくって、曲が止まっちゃって。確か次の曲に行くまでに10分くらいかかってた。まあ、人の欲望を先導するのがうまいんですよね」

――『アメリカン・ヴァルハラ』でも、ステージに上げたお客さんとキスしてましたもんね(笑)。

須藤「やっぱりロック・スターとして最高ですよね」

まとめきれてないことで生まれる暴力性や幼稚性、芸術性

――イギー・ポップと髭の音楽性の共通点を探っていきたいのですが、まず髭には“イギー・ポップによろしく”(2005年作『I Love Rock n' Roll』収録)という曲がありますよね。この曲が出来たきっかけは?

須藤「タイトルに関してはいつもフィーリングで付けていて。なので、イギーへのリスペクトがあったのは確かだけど……実はちょっと覚えてないんですよね(笑)。多分〈ブラック・ジャックによろしく〉みたいな感じで、単純にそれが僕らの世界ではブラック・ジャックじゃなくてイギーだったんでしょう。でもあの頃と、今の僕の目に映るイギーも全然違いますし」

――そうなんですね(笑)。サウンドとしては一聴した感じは違うものの、通じる部分を確かに感じるのですが。

須藤「特にストゥージズは、〈この人たちやりたいことがまとめきれてないんじゃないか〉って凄く感じるんですけど、そこが近いのかもしれないです。自分たちの昔の曲を聴くと、何がやりたかったのかはわかるんだけど全然まとまってなくて。でも、今の自分には作れない、その時にしかできない何かがある。それはきっと、イギーも一緒のような気がしていて。彼もきっとストゥージズのファースト・アルバムはもう作れないと思うんです。当時の彼らも、『LOVE LOVE LOVE』(2003年の髭の初作)を作った僕らも、物凄い情熱だけがそこにあった。〈これでミュージック・ステーションに出たら、タモリさん僕たちの音楽聴いたらびっくりするだろうな〉みたいに思ってましたし」

髭の2017年作『すげーすげー』収録曲“もっとすげーすげー”
 

――(笑)。とにかく熱い思いをぶち込んだと。

須藤「まとめきれてないことで生まれる、暴力性とか幼稚性とか芸術性ですよ。最初から〈できちゃう〉人たちっているじゃないですか。そういう音楽ではないものですね。で、イギーは70歳を超えた今でも、きっとまだまとまってないような気もするんです。僕もそういうタイプなので」

――だからイギーは新たな仲間を集めて『Post Pop Depression』を作ったのかもしれませんね。

斉藤「ストゥージズのサウンドって、〈これがやりてえんだ、鳴らしてえんだ!〉ってことしか言ってない感じがするんです。でも、そういう気持ちってずっと持っていたいじゃないですか。15年前に制作を始めた髭がそんな観点でやってたわけではもちろんないんだけど、たぶん俺たちが60年代にいたらこんなことをやってるかもしれないって思えるし、そこは〈髭というバンドがなぜ髭なのか〉ってところの、かなり核でもあるような気がしていて。

昨日、一昨日とかもストゥージズを久しぶりに聴いてたんですけど、あれは40歳を越えた今聴いてても、バンドとしてやっぱりダントツかっこいいんですよ。ストゥージズは10代の頃からの近しい仲間同士で始めたバンドが爆発していく瞬間みたいな感覚と、バンドとしてのクォリティーのバランス感覚が常軌を逸してるというか、そういう次元で考えてないというか、ある意味ひどいとも言える(笑)。人によっては〈何だコレ音楽かよって〉って、耳をふさいじゃうかもしれないけど、あの衝動に勝てる音楽はなかなかないです」

イギー&ザ・ストゥージズが“Raw Power”を演奏した2013年のライヴ映像
 

――それはすごく腑に落ちる話ですね。例えばイギーはトム・ウェイツやデヴィッド・ボウイらとも親和性を持っていて、いわゆる激しいガレージなロックンロールだけじゃなくてサイケだったりトム・ウェイツみたいな詞的な世界観もあって。同じく髭も音楽以外のことも含めて、興味やサウンドのリファレンスがとにかくたくさんある中で、〈何だこれ?〉という新鮮味を毎回感じるんです。そこが特に近年、さらにおもしろくなってきていると思っていて。

須藤「髭は未だに全然まとまらないんですよ(笑)。曲が出来た瞬間は最高だって思ってるんですけど、5年後くらい経って聴いたら、〈は? 何やってるのコレ?〉みたいな感じ。でも、10年ぐらい経つと、さっきのファースト・アルバムはもう作れないって話じゃないですけど、〈10年前の俺に勝てんのか?〉ってなるわけですよ。要するに、アーティストはみんな、作品の音楽性は変われど、常にパワーのあるものを作りたいはずなんです。そこで、イギーは70歳近くになって『Post Pop Depression』という傑作を作った。僕も、今のイギーからしたらまだ中間地点ですけど、そうあり続けたいですね」

すげーすげー Creamy/Bauxite Music wy.(2017)

――髭も今年でデビュー15周年ですが、言ってもなかなかここまで来られないですよ。

須藤「さっきも話しましたけど、イギーを見ていると、オリジナルでありたい、大げさに言うと孤高の存在になりたいと思うんですけど、『ギミー・デンジャー』にもありましたけど、彼にもいろんな時代があって、その時その時なりに必死にぶつかっての今なんだなと。イギー・ポップって、本当に一生懸命やってる人なんだと思いました。『Post Pop Depression』が自費で制作されたことも、心意気というか、レコード会社が動かないんだったらと、みずから動かざるを得なかったんでしょうね。だから、僕も一生懸命やります」

『Post Pop Depression』収録曲、今回の映画のタイトルにもなった“American Valhalla”
 

――『アメリカン・ヴァルハラ』も『Post Pop Depression』も、観た人にそう思わせるだけの作品だと思いますね。最後に公開に向けて一言お願いします。

斉藤「イギー・ポップをよく知ってる人はもちろん楽しめるだろうし、それから『Post Pop Depression』は今の世の中にあるロック・ミュージックの中でも頂点に近い〈何か〉があると思うので、まだイギーに出会ってない若い世代の人にも絶対観て聴いてほしいですね」

須藤「ストゥージズも最高だけど、この4人のバンドも最高にクールなバンドだから、これを観たらイギーのこともジョシュのこともすごく好きになっちゃうと思う。僕らにとっての『トレインスポッティング』みたいに、イギーはこれからって人にも『アメリカン・ヴァルハラ』が入口になるような名作だと思います!」

 


「アメリカン・ヴァルハラ」

監督:ジョシュ・ホーミ、アンドレアス・ニューマン
出演:イギー・ポップ、ジョシュ・ホーミ(クイーンズ・オブ・ザ・ストーン・エイジ/イーグルス・オブ・デス・メタル)、ディーン・フェルティタ(クイーンズ・オブ・ザ・ストーン・エイジ/デッド・ウェザー)、マット・ヘルダーズ(アークティック・モンキーズ)
公開:4月14日(土)より新宿シネマカリテにてロードショー
シネマート心斎橋、名古屋シネマテークほか全国順次公開

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髭からのおしらせ

〈髭と夜の本気ダンスがやります。〉
2018/06/01(金)愛知 NAGOYA CLUB QUATTRO
2018/06/02(土)大阪 Banana Hall
2018/06/07(木)東京 SHIBUYA CLUB QUATTRO

〈HiGENOHi〉
2018年8月8日(水)東京都 WWW X
共演:the pillows

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