Page 2 / 2 1ページ目から読む

僕らだって取材を受けなかったらバンドは仲良かったと思いますよ

――あと、メンバーが仲が良いっていうのもグラスゴーっぽいですね。

「あ、仲良いんだ」

――先日、メンバーのサラ(・マーティン)にインタヴューしたんですけど、サラが〈私たち20年以上も続けてこれたのは、みんながここにいたいと思っていたから。初期の頃はバンドにいたくない人もいて難しい時期もあったけど、その人がやめて今は居心地の良い場所になった〉って言っていました。

※2000年にスチュアート・デイヴィッド、2002年にイザベル・キャンベルが脱退

「なるほど。きっと今はサークルっぽい感じなんだろうね。世界的に売れてるけど地元に住んでて、みんな仲が良い。理想中の理想じゃないですか(笑)。リーダーであるスチュワート・マードックのやり方がうまいんだろうなと思いますね。だって、折衝はあるわけじゃないですか。例えばレーベル・サイドから〈こうやって売っていこうぜ〉みたいなえげつない話も絶対されているはず。でも、それはバンドのほうに影響を与えないようにして、うっすら打ち込みを入れておくとか(笑)」

――言い訳程度に(笑)。

「そして、バンド内で仲良くしておくために、スター性を求めず取材は受けない。表に出ていくと〈スポークスマンはこの人〉っていうのが決まっちゃって、その人に取材が集中するんですよ。そうなると、バンド内のバランスが決まっちゃうから。僕らだって、取材を受けなかったらバンドは仲良かったと思いますよ(笑)」

――なるほど。ベルセバは初期に比べて取材を受けるようになりましたが、スチュワートだけではなく、ほかのメンバーもちゃんと取材を受けています。取材ってバンドに影響を与えるものなんですね。

「取材は大きいですね。誰が曲を作っているか、はっきりしますから。トラキャン(トラッシュ・キャン・シナトラズ)も言ってた。〈自分たちは絶対、曲のクレジットをバンド名義にする。誰がどこを作ったかなんて言いたくないし、重要じゃない〉って。ほんと、ベルセバはバンドの経営方針が素晴らしい。これからのバンドは、みんなベルセバを見習って勉強するべきですね。本とか出せば良いのにね。〈ベルセバの経営術〉とか」

――デイヴィッド・ミーアマン・スコットの著書「グレイトフル・デッドにマーケティングを学ぶ」みたいな感じで(笑)。

「あれはいちばん真似したらダメなやつ(笑)。ほんと、ひどいですから。キーボードのお父さんが〈俺が会計をやってやる〉って言って金を抜いてたり、リーダーがクリーンになろうとして(ドラッグをやめようとして)、入院している病院で死んだり。もう、無茶苦茶だから」

 

僕が喋っても彼らにとってマイナスになるんじゃない?

――話をアルバムに戻しますが、主に曲を書いているのはスチュワートですが、彼の曲の特徴はどんなところだと思いますか?

「あまり抑揚がないところかな。音符にしたら上り下がりがあんまりないようなメロが特徴だと思いますね。流れるような感じで」

――そういうところも〈濃くない〉ですね。

「抑揚が少ないからこそ惹きつけられるというか、〈もう一回、聴いてみようかな?〉と思わされるんでしょうね。聴いた後に何か残るものがある」

――曽我部さんが印象に残った曲といえば、どのあたりでした?

「一曲目の“Sweet Dew Lee”とか好きでしたね」

――いかにもベルセバっぽい優しい曲ですね。

「これぞベルセバ節って感じでしょ? ファンが万歳しそうな(笑)。そこも良いと思った。音楽に対して堅実で、過激な方法で攻めない。〈堅実〉というと語弊があるかもしれないけど、バンドも仕事ですからね。そういえば、ベルセバのメンバーって最初の頃は仕事を持っていませんでした? 教会で働いてたり」

――スチュワートが教会の管理人をやっていましたね。

「この人達は、あまりミュージシャンとかアーティストっていう感じがしないんですよ。ビートルズみたいに〈音楽で世界を変えよう!〉なんて意気込みを感じさせない。レンガ職人とかパン焼き職人みたいに音楽を作っているような気がする」

――確かに町のパン屋みたいですね。食べログでいくつもレヴューが載るような人気店じゃないけど、いつ行っても美味しい焼きたてのパンがあるみたいな。それが生活感のある歌ということなのかもしれない。

「彼らは歌詞も良いんですよ。生活を反映しているような感じで、聴いてるほうもシンパシーを感じられるような詩」

――“I’ll Be Your Pilot”はスチュワートが生まれたばかりの子供に捧げた曲だそうです。曽我部さんも、そういう歌を作ったことあります?

「ありますよ。10数年前に。子供ができるとミュージシャンはナイーヴになるんですよ。もう娘は高校生になって、そのときの感覚も忘れてしまったけど、この人達はちゃんと子育てできるし、人生にも勝つと思う」

――勝ち組ギター・ポップ(笑)。

「スミスなんか見てると、敗北の穴を自分達で掘りながら歩んで行くようなところがあるじゃないですか。スミスに限らず、ロック・バンドってそういうところがあると思うけど、この人達はそういう穴を一個ずつ埋めながら着実に進んで行く。そして、バンドに合わない人には出て行ってもらう。そういう人がいると、バンドがワケわかんないことになったりするから。それで、コミュニティーとして破綻のないところでやっていくっていう。ロックっていうと破滅的なものがカッコいいと思われがちだけど、こういう堅実なやり方に見習うべきものがあるのかもしれない」

――自分たちのペースを守りながら、20年以上、続けてるわけですもんね。今回のアルバムを聴いていると、すごく充実感が伝わってきます。

「バンドとして言うことないでしょ。僕がヘタなことを喋ると、彼らにとってマイナスになるんじゃないですか(笑)」

――そんなことないですよ(笑)。サニーデイとベルセバを両方聴いてるファンも多いですし。

「そうかなあ。でも、このアルバムを聴いて、まず感じたのは反省ですよ。自分に対する戒めというか」

――というと?

「これからバンドを立て直します」

――バンドを? サニーデイ・サービスは新作『the CITY』を発表したばかりですが、今のサニーデイは新作を出すごとにどんどん変わっていってる気がするんですよ。サウンドだけじゃなく、サニーデイというバンドの在り方が、新作ごとに更新されているような気がして。その点はベルセバとは対照的ですよね。

「全然違いますね。今はメンバーもいないし、めちゃくちゃですよ」

――それを反省するということは、バンドというフォーマットに立ち返るということ?

「うん。〈サニーデイ・サービスって、こういうサウンドだよね〉っていうのを、ちゃんとアルバムで1曲目から感じさせようかなと。バンドって大変なんですよ。人間関係とか金銭面とか。がんばって音楽作っても、ちゃんと評価されないし、ロクなことがない。でも、ベルセバは仲間と楽しく音楽を作って、お茶をして、〈人生を愛してる〉って言える気がする。羨ましいですね。ベルセバに生まれ変わりたいくらい。早川義夫さんの歌詞に〈いい人はいいね〉っていう言葉があるけど、ほんと、いい人はいいんですよ。(ベルセバは)いい人たちが集まって、いい音楽をやったってことに尽きるんじゃないですか」

 

実際の日常生活はベルセバの歌みたいに普通

――そういえば、新作のジャケットに写ってる人達ってファンなんですよね。アルバムを出す前にEP3枚を毎月リリースすることにしたのは、ファンに喜んでもらいたかったからだって言っているし、ヴェテランになってもファンと一緒に音楽を楽しもうとしている。そんな姿からも、いい人ぶりが伝わってきます。

「グラスゴーへ行ったときに、〈こういう世界がまだあるんだ〉と思ったんです。〈こういう世界〉っていうのは、街角でおばあちゃんと若者が普通に喋ってたり、トラキャンのスタジオへ行こうとしたら、おじいちゃんが寄って来て〈あいつら、あそこのパブにいるよ〉って教えてくれたり。みんな心が通っていて、笑いあったり、慰めあったり、愛しあったりしている世界がまだ残ってるんだなと思って。そういうところに生まれて、暮らして、バンドをやるっていうのは、(他の土地のバンドと)ちょっと違うんじゃないかな。東京で音楽やってると、〈倒すべき相手がいる!〉みたいなモチヴェーションになってくるから」

――気持ちが攻撃的になってくる?

「……ような気がしますね」

――ベルセバのサウンドに、そういう攻撃性や殺気はないですね。

「ない。そこが良いんじゃないかな。伝統が息づく美しい世界が、彼らのまわりにはまだあるんだろうね」

――そういう世界を、努力してキープしているんでしょうね。

「多分ね。グラスゴーにもドラッグは蔓延しているけど、そういうものに溺れずに、自分達にとって居心地が良い世界を作ってそこで堅実にやってる」

――ちなみに、最近、スチュワートはチベット仏教に興味を持っていて、その教えに刺激を受けて〈怒らないこと〉を実践しているそうです。怒りの感情はマイナスにしか働かないからって。

「そうなんだ。今、俺が聴いてるアトランタのヒップホップとかって、PVで黒人がマスクをしてマシンガン持ってたりするような世界だから(笑)。そういうものしか観てないと、世の中はそういうもんだと思っちゃうんだよね。新聞を読んでも怒りしか湧かないし、毎日が怒りに満ちている。でも、実際の日常生活ってベルセバの歌みたいに普通なわけで。そういう世界があることを忘れがちなんだよね」

――怒りがパンクやヒップホップの原動力だったりもするんですけどね。ベルセバの新作のタイトルは〈人類の問題を解決するには〉ですけど、怒りでは人類は救えないかも。

「結局、怒りは闘いを生むから。怒らないって難しいと思うけど、彼らはそれを実践して、おとぎ話みたいな世界を作っている。日本人もアメリカ人も〈そんなふうに生きられたらいいな〉と思ってるから、彼らの世界に憧れるんだろうな」

――ベルセバって、ロックンロールじゃなくてポップソングだと思うんですよね。ポップソングって〈お金より愛が大切〉とか、リスナーに夢を見せる音楽で。ベルセバは辛辣なところもあるけど、基本はポップソングの魔法を信じているんじゃないかと思います。

「確かにそうだよね。僕なんてお客さんも敵だと思ってやってるところがあるから。〈こいつらと勝負だ!〉って。それくらいシビアに聴いてもらいたいと思っているから。でも、ベルセバの新作を聴いて反省するところもあったりします(笑)」