INTERVIEW

アンティエ・ヴァイトハース『チャイコフスキー: ヴァイオリン協奏曲 Op.35, 弦楽四重奏曲第3番』 指揮なしで挑むチャイコフスキー

©Giorgia Bertazzi

 

ヴァイトハースとカメラータ・ベルンが指揮なしで挑むチャイコフスキー

 優れたソリストとして、またアルカント四重奏団のメンバーをはじめとする室内楽奏者として、さらにはハンス・アイスラー音楽学校他での名伯楽として、世界の音楽人からの尊敬を集めるアンティエ・ヴァイトハース。5月には東京交響楽団に客演し、1公演で3つもの協奏曲を披露する予定だ。その来日に先立ち、東響との演奏曲目でもあるチャイコフスキーのコンチェルトを、自らが音楽監督を務めるカメラータ・ベルンと録音。2012年のベートーヴェン《クロイツェル》コンチェルト版や14年のブラームスと同様、今回も指揮なしで臨んでいる。

ANTJE WEITHAAS,CAMERATA BERN チャイコフスキー:ヴァイオリン協奏曲ニ長調Op.35 弦楽四重奏曲第3番変ホ短調Op.30(アンティエ・ヴァイトハース&ケーティ・シュトイリによる弦楽オーケストラ編曲版) CAvi-music(2018)

――前回同様、このサイズの協奏曲を指揮なしで演奏するのは驚異的です。

「確かにチャレンジですね。でも指揮者なしでの演奏からは、自由と明晰さが得られると思います。経験からいうと、作品に透明感が増し、サウンド・バランスも向上しますね。ただ、指揮者の有無に優劣はつけられないことは強調しておきます。作品に対するアプローチが異なりますので、得られる結果も違うのです」

――演奏・録音に当たってはどのような点に留意されたのでしょうか?

「2009年に私がカメラータ・ベルンの音楽監督に就任してから、我々は時間をかけて互いを深く知るようになりました。今では目隠しをしてもコミュニケーションをとれるくらいのレヴェルですよ。その上にさらに繰り返しリハーサルを重ね、音のバランスのとりかたや、どこでどのようにルバートやアッチェレランドするかも熟知しました。また、シンフォニーを演奏するようなエネルギーを保ちながら、室内楽的なアプローチを続けるということが重要でした。メンバーはお互いを注意深く聴き、それぞれが発する信号をキャッチし、注意深くかつ即座に反応しなくてはなりません。個々の責任は大きいものとなりますが、そうすることで私たちに潜む思いも寄らないポテンシャルを解放するエネルギーを生み出し、皆に霊感をもたらします」

――チャイコフスキーの協奏曲という、「超」が付くほどの定番作品に新鮮味のある録音を加えるのは難しいことではないでしょうか?

「ええ。学生の時から何度も演奏してきた作品ではありますが、これまでの経験を忘れ、一から学びなおしました。彼がどのような人物で、何を感じ、何を考えていたのかを探るために書簡に目を通し、一方で新たにスコアを買い直し、ヘンレ原典版と併せて丹念に読み込むことで、チャイコフスキーのテンポやデュナーミク、アーティキュレイションの問題にあたかも新作に取り組むよう向かい合いました。とてもスリリングな経験でしたよ」

――録音からは落ち着いたテンポやレガートの使い方など、この協奏曲のリリカルな面、エレガントな面を引き出しているように聴こえます。

「今日に至るまでこの作品を支配しているヴィルトゥオーゾ・トラディションの呪縛から解放したかったのです。私はこの曲に、過剰な情念や巨大なヴィブラートを表出する必要性を見出しませんし、それらは音楽家としても人物としても私が考えるチャイコフスキー像に一致しません。彼はエレガントで貴族的なロシア人だと思います。と同時に自分が真に求めるように生きることができなかった悲劇的な人でもありました。私がこの作曲家について考える時に真っ先に浮かぶ言葉は、“憧れ”です。憧れ、あるいはメランコリー、そして信じられないほどの悲しみ。しかしながら、その音楽はこうした感情とは裏腹に常にエレガントでノーブルです。私は、そういった特徴をリスナーの方に明確に感じ取ってもらえるようお手伝いをしたかったのです」

 


LIVE INFORMATION

東京交響楽団 東京オペラシティシリーズ第103回
○5月12日(土) 14:00開演 会場:東京オペラシティ コンサートホール

東京交響楽団 第107回新潟定期
○5月13日(日) 17:00開演 会場:りゅーとぴあ コンサートホール

齋藤友香理 (指揮)
メンデルスゾーン:ヴァイオリン協奏曲ホ短調 op.64
ブルッフ:ヴァイオリン協奏曲第1番ト短調 op.26
チャイコフスキー:ヴァイオリン協奏曲ニ長調 op.35

tokyosymphony.jp/

関連アーティスト
pagetop