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EN VOGUE
変わらぬ美意識に圧倒される14年ぶりのニュー・アルバム!!!

 90年代に活躍したR&Bグループのリユニオンや音楽的な再利用/再評価が相次ぐ昨今、そのパイオニア的な存在が帰ってきた。ニュー・ジャック・スウィングやヒップホップが台頭してきた時代の変わり目に、クラッシーな佇まいとサンプリングを多用したサウンドを融合することで伝統的なヴォーカル・グループの形態をモダナイズしてみせたアン・ヴォーグは、SWVやTLC、エクスケイプ、デスティニーズ・チャイルドといった後続の登場を促し、つまりは90年代R&B隆盛の礎を作り上げたレジェンドである。最近も“Giving Him Something He Can Feel”が21サヴェージ“Thug Life”でネタ使いされたり、昨年UKで大ヒットしたジェイムズ・ハイプ“More Than Friends”が“Don't Let Go(Love)”のリメイクだったりしたわけで、いわゆるジャンル内の影響力以上に時代を代表するヒットを数多く残した大物と言ってもいいかもしれない。

 ただ、21世紀に入って彼女たちが勢いを失ったのは、メンバーの出入りに伴う活動状況の不安定さも作用していた。もともとテリー・エリス、シンディ・ヘロン、マキシーン・ジョーンズ、ドーン・ロビンソンの4人で89年に結成されるも、97年にドーンが脱退(ソロでのアフターマス入りを経てルーシー・パールを結成)。商業的に躓いた4作目『Masterpiece Theatre』(2000年)の後にはマキシーンも脱退し、『The Gift Of Christmas』(2002年)にのみ参加したアマンダ・コール在籍時を経て、2004年の5作目『Soul Flower』ではダークチャイルドでソロ・デビュー歴のあったローナ・ベネットを迎えてのトリオ編成になった。それ以来14年ぶりの新作となる今回の『Electric Cafe』でも顔ぶれは変わらないが、その間にはシンディの産休とマキシーン再加入、ドーン再合流によるオリジナル4名の復活、ドーンの再離脱などが続き、改めて現編成に戻ったのは2012年のことだ。近年はマキシーンが勝手にアン・ヴォーグを名乗ったり、2011年に契約したラフタウンから訴えられたり、いろいろ泥沼だった時期もあった(クラシック・ラインナップの都合に翻弄されてきたローナがいちばん不幸なのは確かだが……)。

EN VOGUE Electric Cafe En Vogue/eOne/ビクター(2018)

 ただ、そんな時代も含め、彼女らを一貫して支えてきたのがグループの生みの親であるフォスター&マッケルロイだ。近年はもうアン・ヴォーグ仕事でしか名前を見ないF&Mだが、もともとエレクトロを出自に80~90年代のトレンドを作り上げてきた当事者だけに、流行が何周もした現代と自分たちのスタイルの接合点を見い出すのは容易だったのかもしれない。そう思えるほど、『Electric Cafe』で聴けるのは無理なくモダンな現役の音作りだ。そんなF&Mを中心に旧知のソースやデム・ジョインツらが制作陣に名を連ね、一瞬ダイアナ・ロスを挿入する遊びも麗しい“Deja Vu”の60年代マナーや、ニーヨもペンを交えたドラマティックな“Rocket”、小気味良くファンキーな“Reach 4 Me”など、持ち前のハーモニーを活かす多様な楽曲が満載。これからもレジェンドの威信を見せつけてくれることを期待したい。 *出嶌孝次

 

関連盤を紹介。

 

『Electric Cafe』参加アーティストの作品を一部紹介。