〈03=東京〉を舞台に描かれる真のストリート・ミュージック。ヒップホップの美学とは何か?
志半ばでこの世を去った仲間のために、彼らはここでその答えを導き出す……

ノリと速さと新鮮さ

 TETRAD THE GANG OF FOURの一員としても知られるSPERBと、DJ SCARFACE as CHAKA BURN(The Sexorcist /Buddha Mafia Radio Show)、そしてFla$hbackS結成以前のFEBB AS YOUNG MASONが中心となって始まったCracks Brothers。TETRADの現場にも顔を出していたFEBBの開いたクラブ・イヴェントが、その結び付きの始まりだという。

 「その頃のFEBBはまだ高校生ぐらいだったと思うんだけど、もちろんTETRADの大ファンで、SPERBをゲストに呼びたいってことで」(DJ SCARFACE)。

 「それが初めて会った日でしたね。FEBBに〈バックDJできる?〉って言ってCD渡して、その場でライヴDJやってもらって、みたいな感じで」(SPERB)。

 その後、2011年に初音源となるEP『Straight Rawlin'』をリリースし、NIPPSがSCARFACEに繋げたC.J.CALが加入するも、紆余曲折あってグループは休止。それでも、MANTLE AS MANDRILLから昨年届いた楽曲オファー(“BEAM ME UP SCHOTTY”として先頃リリース)を助走に、彼らはファースト・アルバム『03』制作へと向かった。折しも昨年来、制作ペースを一気に上げていたFEBBの意欲は、グループをアルバムに駆り立てる何よりのエネルギーになったようだ。11曲中8曲のプロデュースに加え、ブロンクスの183rdによるトラック2曲も彼がコンタクトを取って実現させたものだという。

Cracks Brothers 03 Cracks Brothers(2018)

 「FEBBのモチヴェーション、やる気は凄いものがあった。いちばん年下だけど、曲もどんどん出してくるし、ラップもどんどん進めるし、〈やりたいことがとにかくいっぱいある〉って、常にそういう感じ」(DJ SCARFACE)。

 「レコーディングもすげえタイトでムダな会話は一切なく、FEBBが入れたら次は俺みたいな感じでボンボン録り終わって、聴いて〈じゃあ次行こうか〉って感じで。ノリと速さと新鮮さで全部作ってる」(C.J. CAL)。

 「曲書く時もテーマを決めたりとかはなかった」(DJ SCARFACE)ともいう制作にあっても、アルバムの芯はブレず。〈昨日今日の話じゃねえんだぜ〉とのラインがDJ SCARFACEの渋いトラックにもハマる“CRACKS BROTHERS INTRO”に続き、3人のマイクでアルバム冒頭をぶち上げる“DOWN WIT US”然り、FEBBが勢いのまま一人で仕上げてしまったという“80's”然り、大ネタ使いやトラップ寄りのアプローチなどで表情を変えつつも、アルバムを彼らの硬派なカラーに染めていく。

 「全体通してCracks Brothersっぽさは全部出せたかな。みんな90sをがっちり通ってきてるけど、アーバンで、でもチャラチャラしてなくて、シャープで」(C.J.CAL)。

 「そこがFEBBのやりたいことでもあったろうし、新しさもあると思う。ラップする順番から曲順から曲のセレクトまで、すべてバランスを取って出来た形がこれって感じです」(DJ SCARFACE)。

 「TETRADで学んだものだとかスタンスだとかが自分にとって普通だし、そういう思考やイメージをメンバーと共有して、ストイックにまとめたアルバムかな。ただ、90sのカラーが強すぎるって思われがちだけど、自分ら的には派手に作ったし、全然違いますよっていうのも正直あって、スタンスを崩さず“STRAIGHT RAWLIN' pt.2”のような曲もできるぞっていう」(SPERB)。

 

キッチリ形にしたかった

 そんなアルバムの唯一にして最大の障害は、言うまでもなくFEBBの急逝だろう。制作途中に届いたその知らせは彼らの思いを挫きかねなかった。「FEBBが亡くなった時は、アルバムどころの話じゃなかった」(DJ SCARFACE)というのは正直な気持ちだろう。

 「やっぱりFEBBのほうから〈やりましょうよ〉みたいな感じですごい言ってきてくれたことが自分的に嬉しくて、でも亡くなって、順序的にはきっちり自分の中で彼を見送りたいと思うなかで、Cracks Brothersでアルバム作ろうって始まったからこそキッチリ形にしたほうがFEBBも喜ぶし、俺らもやりたかったことだったってことっすかね。ぶっちゃけミックスとかマスタリングの作業とかでこうしてほしいああしてほしいって思ってずっとラップ聴いてるじゃないですか。だから亡くなったって感覚がないんですよ。ずっといるみたいな」(SPERB)。

 「いまだにそういう実感はないっすよね」(C.J.CAL)。

 そしていま、『03』はこうして目の前にある。「俺たちの好きなものもちゃんとわかってくれてるし、その意思の疎通がいちばんできてる人物だった」とSPERBも語るFEBBとの別れは大きな痛手だが、それすらも彼らの音楽を強固にしていく糧だとしたら、あとは彼らにエールを送るのみ。本作は3人がその糧を消化していく一枚でもあるのだ。

 「FEBBのことがあって、ある意味特別なアルバムにもなった。その特別さ、特殊さは別に望んでたわけじゃないし、もっとFEBBに入ってもらいたい曲もあったけど、いいもんが出来たと思ってる」(DJ SCARFACE)。

 「俺たちの曲はよく聴くと深い意味がありそうだなって勝手に思ってくれてる人もけっこう多いんですよ」(SPERB)。

 「『03』っていうタイトルもすごいいろんなことを想像できるし、曲も〈こういうことを言いたいんです〉とかじゃなくて、みんながいろんなこと勝手に考えてくれて、カッコいいと思ってくれれば間違いないかな」(C.J.CAL)。

 「最後に、改めてFEBB AS YOUNG MASONのご冥福をお祈り致します」(Cracks Brothers一同)。