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映画「ビューティフル・デイ」 危険な映像世界に全感覚が飲み込まれる―カンヌ映画祭を騒然とさせた〈21世紀版「タクシードライバー」〉!

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危険な映像世界に全感覚が飲み込まれる~カンヌ映画祭を騒然とさせた〈21世紀版「タクシードライバー」〉!

 日本にもファンの多いリン・ラムジー監督の、昨年のカンヌ映画祭脚本賞受賞作「ビューティフル・デイ」が間もなく公開される。

 元海兵隊員・FBI捜査官で、今は行方不明者の捜索、特に人身売買や性犯罪の犠牲になった子どもたちの捜索・奪還といった裏稼業を生業としているジョー。そのジョーのもとに新たな仕事が飛び込んで来る。少女売春組織に拉致された、ある政治家の娘を取り戻して欲しいと言うのだ。その奪還はことのほか上手く進んだのだが、ジョーとその少女ニーナが、依頼人である父親が飛び降り自殺をしたことをニュースで知ったところから、この映画は思いもよらぬ展開を見せる……。

 ジョーを演じるのは、これがラムジー監督とは初タッグとなるホアキン・フェニックス。彼はこの演技で、同じくカンヌで見事男優賞に輝いている。そしてニーナを演じたのは、エカテリーナ・サムソノフ。トッド・ヘインズ監督の新作「ワンダーストラック」にも起用された、今注目のティーンエイジャーだ。このコンビは、どこかマーティン・スコセッシ監督のあの傑作「タクシードライバー」のロバート・デ・ニーロとジョディ・フォスターの組み合わせを彷彿とさせる。

 このともすれば、普通のジャンル映画にしかならないようなストーリーを、リン・ラムジーは、映像派の面目躍如たるスタイリッシュな作品に仕上げている。台詞を極力排し、映像と音響で、物語やジョーの心象を語るのだ。

 今回撮影を手掛けたのは、前作「少年は残酷な弓を射る」の冒頭のシーンだけを担当していたトーマス・トウネンド。スペインのトマト祭りのあの赤の映像は、今も鮮烈な記憶として残っている。今回はそれとは一変して、寒色を基調とした映像となっているが、それに絡むのは、やはり前作から監督とコンビを組んでいるレディオヘッドのジョニー・グリーンウッドの音楽。グリーンウッドは、ポール・トーマス・アンダーソン監督の「ファントム・スレッド」のエレガントな音楽とは打って変わって、ここでは以前コラボレートしたこともあるポーランドのクシシュトフ・ペンデレツキのような現代音楽や、ジョン・カーペンターのような陰鬱なエレクトロを使って、都市やジョーの心の闇を巧みに表現している。さらにラムジー映画に欠かせないのは、名手ポール・デイヴィスによるサウンド・デザイン。まるで、戦争後のPTSD(心的外傷後ストレス障害)や幼少時のトラウマに苦しむジョーの心の叫びのように、都市の現実音が画面を支配するのだ。

 


映画「ビューティフル・デイ」
脚本・監督:リン・ラムジー
音楽:ジョニー・グリーンウッド(レディオヘッド)
出演:ホアキン・フェニックス/ジュディス・ロバーツ/エカテリーナ・サムソノフ/ほか
提供:クロックワークス、アスミックエース
配給:クロックワークス(2017 年 イギリス 90分)
◎6月1日(金)新宿バルト9 ほか全国ロードショー

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