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進化/深化し続けるライヒイズム、世界初録音の器楽の世界に見る

 いまや現代音楽界最大の巨匠……といっても過言ではないスティーヴ・ライヒ。彼の待望の最新録音がNonesuchレーベルから到着した。世界初録音となる2つの楽曲《カルテット》と《パルス》を擁する本盤もライヒ作品たるそのワクワクを見事に孕んだ実にエキサイティングな内容に仕上がっている。

STEVE REICH Steve Reich: Pulse, Quartet Nonesuch/ワーナー(2018)

 2015年に書かれた《パルス》は2本ずつのフルート、クラリネット、4台のヴァイオリンに2台のヴィオラ、ピアノとエレキ・ベースという少々豪勢なアンサンブルで奏でられる。クセナキス、クラムから藤倉大作品の録音でも評価を得ているアメリカの名門現代音楽集団、インターナショナル・コンテンポラリー・アンサンブルが圧倒的な演奏で魅せる。14分間に渡って木管と弦楽とが織りなす恍惚のハーモニーを、ピアノとベースが刻むリズムで支え、それらが溶解するが如く絡み合い変容して一体の音楽に成っていく。ミニマル先駆者らしい微細の変化が積み上がり圧倒的な感動を生む好例である。

 もう一曲は2013年に書かれた《カルテット》。四重奏曲と聞いてついつい思い浮かぶのは弦楽四重奏だが本作は2台ずつのピアノとヴィブラフォンで構成されている。ライヒ作品では度々登場し傑作を残している楽器の起用ということもあり非常に期待が高まるが、その期待に見事に応えた楽曲だ。めくるめく転調と音楽の切り替わりが実に小気味良い快活な音楽。緩徐楽章を挟む3楽章構成で2種4台の楽器によるアンサンブルが織りなす色彩豊かな音像が感じられる。本楽曲を演奏するのは《ドラミング》の演奏でライヒ自身からも評価されたコリン・カリー・グループ。

 どちらもスティーヴ・ライヒ楽曲らしい魅力がギュギュッと詰まっている一方で、今までの作品をさらに超える複雑さや美しさが目立つ作品であるように思える。14分という丁度良い時間に詰まった純然たる器楽音楽の中に、迸る(ミニマリズムを超えた)ライヒイズムが更に深化し続けている事を目撃するだろう。