「(3人の)音楽の好みがバラバラなので、初めてスタジオに入った時は思い描いてるものもバラバラだなと感じたんですね(笑)。でも、それが逆に可能性を秘めてるように感じて、誰にも似てないものが作れるんじゃないかと思ったんです」(内田旭彦)。

 名古屋を拠点に活動する3ピース・バンド、クアイフ。音大のピアノ科出身だという森彩乃の鍵盤と歌声を軸に、リーダーでもある内田のテクニカルなベース、ラウド系のロックをルーツに持つ三輪幸宏の力強いドラミングが織り成すサウンドは、みずから〈絶対的、鍵盤系ドラマチックポップバンド〉を標榜するのも納得の鮮やかな色彩が持ち味だ。

 「3ピースのピアノ・バンドで何ができるか試行錯誤するなかで、プログレっぽいことをやっていた時期もあったんです。でも、(2016年から)名古屋グランパスのオフィシャル・サポートソングを担当して、サッカー・ファンの方の心を掴むにはどうすればいいのか考えるうちに、もっと多くの人に届くものを作りたいと思うようになって」(森)。

 「例えば〈渋谷の街で曲が流れたときに、歌詞も何も表示されないけど感動できるもの〉が、いまの曲作りの判断基準のひとつです」(内田)。

クアイフ POP is YOURS エピック(2018)

 そんなバンドの現在のスタンスを形にしたのが、このたび完成したメジャーでのファースト・アルバム『POP is YOURS』。TVアニメ「いぬやしき」のエンディングテーマだったメジャー・デビュー曲“愛を教えてくれた君へ”では生ストリングスを導入して情緒溢れるバラードをものにしていたが、本作では田中隼人、出羽良彰、トオミヨウらをアレンジャーに迎え、楽曲の幅をさらに広げている。それは、Schroeder-Headzこと渡辺シュンスケが編曲で関わった1曲目“Take me out”から明らかだ。

 「森はもともとクラシック・ピアノを追求していたんですけど、シュンスケさんはジャズ寄りのアプローチが多い印象だし、僕らもジャズやソウル的な引き出しを広げたいと思ってお願いしました」(内田)。

 そこでの弾力に富んだアンサンブルを筆頭に、華やかなブラスを加えたソウルフルな自分応援歌“I love ME !”、「ドラムのフレーズが2パターンぐらいしかないループ系の曲なんですけど、上手く起承転結をつけることができました」(三輪)という“こだまして”など、3人がこれまであまり手を付けてこなかったタイプの楽曲にも果敢に挑戦。森が「すごくポップなんだけど実はめちゃくちゃ技巧的なものができたと思ってます。インストだけで聴いてもめっちゃカッコイイやん、みたいな(笑)」と語るように、サラリと凄い演奏を披露している。ただ、楽曲の主役となっているのはあくまで人懐こいメロディーと歌詞。「他の曲の4倍は練習しました(笑)」(三輪)という極上のグルーヴに乗せてツンデレな恋心を歌う“さよならライアー”など、森と内田の詞曲による楽曲群には、誰もが抱くであろう相反する気持ちが表現されており、聴き手の心にスッと入り込む共感力に満ちている。

 「最近はツンデレや意地っ張りみたいな、人間の裏返しの感情に注目してて。みんな素直になればわかりやすいんだろうけど、そうもいかないのが人間の感情だし、〈そんなに簡単にいかないんだよ〉っていうのが人間らしいのかなと思って」(森)。

 「自分の悲しみとかどうしようもない気持ちを曲にすることが多いんですけど、それを自分だけのものに留めていたらポップスとしては成立しないと思うんです。自分とリスナーの気持ちが繋がり合って、変な話、傷を舐め合うような形で音楽を共有するのが、僕が思う〈ポップス〉のあるべき姿なんです」(内田)。

 あなたが日々の中で押し殺している感情を代弁して、あなたの一部になる音楽——それがクアイフの掲げる『POP is YOURS』なのかもしれない。

 


クアイフ
森彩乃(ヴォーカル/キーボード)、内田旭彦(ベース/コーラス/プログラミング)、三輪幸宏(ドラムス)から成る3人組バンド。2012年3月より名古屋を拠点にQaijff名義で活動を開始し、同年のうちにライヴ会場限定で初音源集『誰かになりたいわけじゃない』を発表する。2014年にファースト・アルバム『Qaijff』をリリース。ライヴ活動を展開しながら、2015年の『organism』、2016年の『Life is Wonderful』とコンスタントにミニ・アルバムを重ね、2017年11月のシングル“愛を教えてくれた君へ”でメジャー・デビュー。今年に入って、3月のシングル“ワタシフルデイズ”も話題を集めるなか、6月6日にニュー・アルバム『POP is YOURS』(エピック)をリリースする。