キャリア、芸術性、メッセージ、ゲスト、どのトピックも凄まじい情報量。そんな深みと底知れなさに逆行するように、今作の音楽そのものは風通しの良さを増しており、何度でもリピート可能な楽しさだ。独特の美意識を込めた先行曲群と、先人たちからのインスピレーションを表す楽曲群を同一線上で繋げた内容は、これまで以上に自身のバックグラウンドを反映している。そして、プリンス“Let's Go Crazy”への明快なオマージュに彼女なりのポジティヴな愛国心を織り込んだ“Americans”で終幕する構成はまるで、アンドロイドを気取っていた才媛の〈人間宣言〉であるかのようだ。そんな転機の一作をポップで軽やかなアルバムにまとめた手腕にこそ、彼女の天才ぶりが何よりも表れているのだろう。