自分なりのポップスを追求してきた彼女のブレない明るさ

 「昔、渋谷でライヴをしたとき渋谷系なんて言葉は知らなかった。ロマといっしょに暮らす生活を送っていたんだけど、ある日ファンから“あなたの音楽が渋谷系に影響を与えたのよ”って聞いて。カヒミ・カリィのウィキペディアを見たら、私から影響を受けたと書かれているし、そうなの!?って驚いた。日頃欧州の音楽シーンに自分の居場所がないって思っていたんだけど、日本には私の音楽との沢山の共通項がある気がする。あまり深刻ぶらずちょっと遊び心があってカラフルかつアバンギャルドな音楽が多くて何か通じるものを感じるわ」

 ユーモアたっぷりにそう語るのは、スペインのウィスパー・ヴォイス・クイーン、キャシー・クラレ。弾けんばかりの笑顔でおしゃべりをする彼女は、初々しさに溢れたクレスプキュール時代の彼女とは随分印象が異なるけど、さりげないキュートさがやっぱり可愛い。

 「幼い頃からすべてが独学。ヘンなモノに惹かれる変わった子だったの。歩んできた人生も非典型的で、考え方にはいろんなものが混じっているわ。私の音楽は街の市場の片隅やパリのタクシーで聴いたものなどから吸収したものがベースになっている。街にはいろんな宝物があるからそれを探しに行かなくちゃね」

 彼女にとって音楽は世界とコネクトするツールであり、世界の美しい景色を映し出す窓として存在してきた。今作を聴けばその意味がわかるはず。クレスプキュール時代を彷彿とさせるポップでキュートな世界はアルゼンチンの音楽家、エステバン・ガルシアと共に作り上げたもの。“あまり深刻ぶらず少し遊び心があってカラフルかつアバンギャルド”なサウンドが彼女のウイスパー・ヴォイスを光り輝かせていく。

 「自分の声に自信がなくてずっと蔑ろにしてきたんだけど、どうやら私の声って良いものらしいし(笑)、私なりのポップスをやりたかったのでそれを中心に据えた作りにしようと考えたのよ」

 歌詞に散りばめられた〈自由〉や〈ひとり〉ってフレーズが弾けるようなビートに乗ってイキイキと躍動している。そしてどの曲からも感じられるどうにかなるさ、というオプティミスティックな姿勢。それってやっぱりロマの人たちから学んだものだったりするのか。

 「そうね。とにかくつらいことの多い幼少時代で、サヴァイヴァルすることを身に付けなきゃ生きていけなかったんだけど、ハードで過激な方向に行かず、ポエティックで優しい人間でいようと誓い、詩やイラストを描いたりして。創作が私を救ってくれたの。ちゃんと生きていくためには何か吐き出さなきゃいけない。私もアコヤ貝のように輝く真珠を生み出そうとやってきたわ」