INTERVIEW

カマシ・ワシントンの魅力を村井康司×柳樂光隆が語り尽くす! 新作『Heaven And Earth』をめぐって

Photo by Durimel Full

 

新作『Heaven And Earth』とLAカルチャーの深い関係

柳樂「ある時期以降のジャズは――それはウィントン・マルサリスなのかブラッド・メルドーなのかわからないですけど、作曲と演奏が全部込みになっていて、そのコンセプトに合致したメンバーを集めてやるから替えが利かないというところがありますよね。とはいえ、カマシのバンドは意外と替えが利くと思うんですが(笑)。

でも、散々ツアーをやって、こなれてきた感じがするんですよ。『The Epic』の頃はもうちょっとバラバラだったのが、すごくまとまって、洗練された感じがありますよね。まあ、3年経っているから、当然ですけど」

『Heaven And Earth』収録曲“Fists Of Fury”
 

村井「何百回とやっているでしょうからね。カマシのように大人数でやりつつ、普通のビッグ・バンドとは違うものを模索していた音楽家はこれまでにもいました。いちばん典型的なのはサン・ラーなんですけど、彼の場合は地球人ではないので(笑)、グローバルどころじゃないユニヴァーサルな平等を求めていたんですが。

サン・ラーのバンドは実際のところ旅芸人みたいなもので、衣装はすごいものを着ているけど、自分たちでチクチク縫っているんだよね(笑)。レコード・ジャケットも手描きだったりしますから、ムチャクチャなんですよ(笑)。

そういうのはおもしろいんだけど、実は大変だったんだということをおそらくカマシは知っていて、それをちゃんとマネタイズできる仕組みでやるわけです。ジャズ・ファンは〈サン・ラーみたい!〉とか〈ローランド・カークみたいだな!〉とか、そういうのを彼に求めてしまうんですが、そういうイメージを引き継いでいる部分と、すごく洗練された、まったく違う新しい部分とが両方あります。やっぱり見た目の問題はあるわけですけど(笑)」

サン・ラーの79年作『Sleeping Beauty』収録曲“Door Of The Cosmos”
 

柳樂「名前もね、出オチみたいなところがありますからね(笑)。カマシは、サン・ラーやカークと、チャーリー・ヘイデンのリべレーション・ミュージック・オーケストラの間ぐらいの感じじゃないですか。もうちょっとベタなビッグ・バンドに近い感じはしますけど。ホレス・タプスコットの……」

村井「タプスコットを意識している部分はありそうだね」

柳樂「実際には会ったことはないらしんですけどね。タプスコットのビッグ・バンド〈パンアフリカン・アーケストラ〉も、サン・ラーと同じで〈アーケストラ〉なので〈アーク〉って呼ばれていたらしいんです。方舟なんですよ(笑)。パンアフリカン・アーケストラはタプスコットが亡くなってからも続いていて、カマシはそれに参加していたんですね」

ホレス・タプスコットの78年作『The Call』収録曲“Peyote Song No. III”
 

柳樂「そういう点でも、やっぱりLA出身って部分はすごく大きいと思います。『Jazz The New Chapter 5』でテラス・マーティンとかにもインタヴューしたんですけど、LAのミュージシャンには〈ブラック・ミュージックの延長線上にいます〉みたいなノリがまったくないんですよ。

〈黒人〉というより、チカーノ、ヒスパニック・カルチャーも含めたLAのカルチャーの延長線上にいるような気がします。すごくおしゃれで、洗練されていて、アーバンな感じ――『Heaven And Earth』では、そういうLAカルチャー的な側面がさらに強くなったと思います。

あと、今回はフェスの音響でもきちんと鳴るサウンドを意識している気もします。カマシの周辺のミュージシャンはもともとスヌープ・ドッグのバンド・メンバーですからね。テラス・マーティンがおもしろいことを言ってたんですけど、スヌープのバンドに10代で入って、元からいたメンバーはスヌープと同世代の30代だったんですって。で、みんな巧いんだけど、スヌープが何をやりたいのかをわかっていないから、全員クビにして俺の友だちを入れたんだって(笑)」

村井「いいねえ(笑)」

柳樂「それがカマシやサンダーキャット、ロバート“スパット”シーライトとかで、そのおかげでスヌープのバンドの音楽がネクスト・レヴェルになって、俺たちの収入もネクスト・レヴェルになったんだって(笑)。

テラス・マーティンがスヌープに呼ばれたときに、昔は容量の関係でドラム・マシーンにビートを保存できなくて、CD-Rに焼いて売り込んだらしいんですけど、肝心のビートが残っていないんだって(笑)。だから、〈これ良いね!〉って言われたら、〈わかりました!〉って言って、その場で自分が作ったものをバーッと再現するっていう」

村井「ははは(笑)」

柳樂「非常にセッション的で、ライヴ・ミュージシャンっぽい。ケンドリック・ラマーもフリースタイルにアイディンティティーがありそうじゃないですか。だから、カマシとかテラス・マーティンとかに特別な共感があると思うんです。彼らはある種スタジオ・ミュージシャンっぽいんだけど、その一方でスタジオ・ミュージシャンとは違うライヴ感を全員が持ってるっていう、非常に特殊な人たちな気がしますね」

 

LAではジャズをやらなくなる?

柳樂「日本のSNSでは〈世代で分けるな〉って言う人が多いんですけど、ジャズ・ミュージシャンたちと話していると〈ジェネレーション〉の話をすごくするんですよ。僕もカマシとだいたい同い年なんですけど、30代後半から40代前半くらいまでは90sヒップホップが直撃した世代で、グランジやオルタナティヴ・ロックを聴いていた世代なんです。

だから、元ネタとかサンプリングネタとかの話も、〈当たり前だろ?〉みたいな感じでする。そこで繋がっているジェネレーション、同世代感は本人たちもすごく感じていて、その繋がりも大事にしていて、それが音楽に出てる気はしますね。

世代ということで言えば、カマシはアルバムへのこだわりはあるかもしれないですね。〈こだわり〉っていうか、俺もそうなんですけど、そういうものだと思っている(笑)。いきなり〈1曲ずつ配信します〉って言われても……」

村井「単位がアルバムなんだよね。でも、ガチッとコンセプトが決まっていて、パッケージで提示するっていう、ここまでやる人も珍しいと思います。カマシは内面を音楽に投影してアルバムを作っていますけど、ジャズ作品にそういったものはすごく少ないんですよね。ジャズ・ミュージシャンってもっと即物的に音楽をやるじゃないですか。内面や心について語らないもんね」

柳樂「〈技術的にそういうのがやってみたかった〉とか〈難しい譜面を買ったから頑張ってやってみた〉とか、そういう身も蓋もない、何のストーリーもないこと言うんですよね(笑)」

村井「そうそう。『至上の愛』なんかは例外だから、後藤さんはそれを超えたって書いたのかもしれないけど(笑)。そういう極めて珍しい例外に、ローランド・カークの『The Case Of The 3 Sided Dream In Audio Color(過去・現在・未来そして夢)』(75年)というカークが見た夢を音楽にしたアルバムがあって、バンドの演奏とサウンド・コラージュみたいなもので構成されているんです。

カークが自分でやっているんだけど(笑)、〈ラサーン!〉って呼びかける声とか、パカパカって馬が駆けていく音が入っている。それはカークというミュージシャンの内面を音にした珍しいものなんですが、カマシも今回、同じようなことを言っていますよね」

ローランド・カークの75年作『The Case of the 3 Sided Dream in Audio Color』収録曲“Freaks For The Festival”
 

柳樂「カマシが自分の内面を表現するのって、まさにケンドリック・ラマーがオルター・エゴを作り出してラップするような、最近のラッパーの感じにも近い。そういう意味では、LAのコミュニティーから感化されたものがあるのかもしれないですね。

コンセプトというところでは、ロバート・グラスパーはもっと適当なんです(笑)。R+R=NOWについて話を訊いても、〈フェスで何かやれって言われたから、その場でこいつとこいつとこいつを集めたらよくね?〉〈やったら楽しかったからアルバムを作ったんだよ〉みたいなノリで、何の答えにもなっていない(笑)」

※ローバト・グラスパー、デリック・ホッジ、ジャスティン・タイソン、クリスチャン・スコット、テラス・マーティン、テイラー・マクファーリンからなるスーパー・バンド。6月15日にデビュー・アルバム『Collagically Speaking』をリリースした
 

村井「ははは(笑)」

柳樂「だから、生粋のジャズ・ミュージシャンっぽいのって、実はカマシよりもグラスパーなんですよね。『ArtScience』(2016年)もR+R=NOWもブルーノート・オールスターズもオーガスト・グリーンも〈とりあえず集まってスタジオで一発録りした〉みたいな感じで。

だから、カマシはある意味ではジャズ・ミュージシャンっぽくないタイプで、〈LAのスタジオ・ミュージシャン〉っていう感じなのかもしれない。LAだとみんな、だいたい他の仕事をしていて、普段は別のバンドで稼いでいるじゃないですか」

※ラッパーのコモン、グラスパー、ドラマーのカリーム・リギンスによるヒップホップ・グループ
 

村井「70年代に秋吉敏子がLAに行ったんですよ。ルー・タバキンと結婚してNYにいたんだけど、とにかく大変だと。とんでもなく巧い奴しかいないし、仕事があっても1日10ドルしかもらえない(笑)。これはもうダメだって、夫婦でLAに越したんです。そうすると、テレビや映画音楽の仕事がいっぱいある。それで普通に暮らせちゃうから、〈やりたいときにだけビッグ・バンドをやろうよ〉みたいな感じでジャズをやらなくなっちゃうらしくて(笑)」

柳樂「ハーヴィー・メイソンも同じようなことを言っていましたね。NYは野球のワールドシリーズを毎日やっている感じなんですよ(笑)。メジャーリーグの超一流選手だけの試合を365日やっていて、勝ち抜いた奴だけが上に行ける過酷な世界。カマシのいるLAは、もうちょっと緩いんです」

 

カマシのアイデア力

柳樂「さっき村井さんがポピュラリティーについて話していましたけど、『The Epic』ってすごくザラッとしているじゃないですか」

村井「そうだね」

柳樂「あえてそうしているのもあるだろうし、当時使えたスタジオで頑張ってやって、あの音なんだと思うんです。その質感が良かったところもあるんですけど、録音の質があきらかに上がったのがヤング・タークスに移籍した『Harmony Of Difference』からですよね。その音の質感がLAのヒップホップにも近い。あまりNY、東海岸のヒップホップの感じがしないんですよね。

あるいは、LAのヒップホップにおいてサンプリングされた、ジョージ・デュークとかスタンリー・クラーク、トム・スコットのL.A.エクスプレスとかみたいな、LAフュージョンの感じに近い気がします。彼らも音楽性が多様で、黒人性はあまり押し出さないですよね」

ジョージ・デュークの78年作『Don't Let Go』収録曲“Dukey Stick”
 

村井「ブルースとかファンクとかには直接いかないんだよね。僕はふと、スティーヴィー・ワンダーの『Songs In The Key Of Life』(76年)にテイストが似ていると思ったんです。いろいろな種類の音楽があって、でもスティーヴィーのパーソナリティーが強いというようなところが似ています。あれもトータル・アルバムなんですが、ヒット曲が満載で、一曲ずつでも聴ける作品ですよね。

この『Heaven And Earth』を聴いてもそう感じるのですが、カマシはすごくたくさんのアイデアを持っていて、いろいろな意味で充実しているんだと思います。だから、そのアイデアを結晶させる力がいま、すごくあるのかなと思います」


Live Information
〈SUMMER SONIC 2018〉

8月18日(土) ZOZOマリンスタジアム

〈Kamasi Washington Live in Tokyo/Osaka〉
8月19(日) Billboard Live TOKYO
8月20日(月) Billboard Live TOKYO
8月21日(火) 大阪・心斎橋 BIGCAT

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