The Way I Am
ついに全貌を現したチャーリー・プースのセカンド・アルバム『Voicenotes』。想像以上のクリエイティヴ・コントロールによって個人の嗜好と志向を全編に散りばめたその出来映えは、想像以上のポップな楽しさに満ち溢れているぞ!

CHARLIE PUTH Voicenotes Atlantic/ワーナー(2018)

 世に出るまで内容に触れられなかったチャーリー・プースのニュー・アルバム『Voicenotes』がようやく解禁。すでにヒット済みの“Attention”など先行で公開されていた5曲については前号で紹介した通りだが、それ以外の8曲も期待を大きく上回る内容に仕上がってきた。ある意味で予想通りだった部分は、先行曲と同じくチャーリーがほとんどすべてのプログラミング/演奏とヴォーカルを独力で構築し、前作以上のセルフ・プロデュース路線に踏み込んでいたことだ。やはり〈自分自身のサウンド〉を提示し損ねた初作『Nine Track Mind』の制作プロセスは苦い経験となっていたのだろう。なお、アルバム・タイトルの〈Voicenotes〉とはそのままスマホのヴォイスメモにアイデアの断片を録音して作った成果という意味のようで、今回のアルバムの源泉がどこにあるのかということをダメ押しのように伝えてくる。一方で、ほぼ全曲の作詞ではジェイコブ・キャッシャー(ラッパーでもあったJ・キャッシュ)が職人的にサポートしていて、逆に言うとチャーリーのエゴは言葉よりもサウンド構築やメロディーメイクの部分により発揮されていると捉えることもできそうだ。

 そんな音作りにまつわる全体のトーンは、事前にジャム&ルイスやテディ・ライリーの名が挙がっていたほどR&B色が強まったわけではなく、ライトでブライトな80sのモード(“Marvin Gaye”のレトロな意匠は完全になくなった)。80年代と90年代がグルグルしているここ数年の状況に対してもはやディケイド括りで何かを言うことが大した説明になるとは思わないが……先行カットで言えばワム!をネタ使いしたケラーニとのコラボ“Done For Me”に通じる雰囲気は、アルバム全体をゆるやかに包むものだろう。オープニングの“The Way I Am”(どこかイン・シンクを思わせる)から恍惚と不安を抱えたまま〈これが僕なんだ〉と自身の趣味嗜好を曝け出すことを宣言し(?)、“Attention”を経て“LA Girls”へ。ウェットな地声と繊細なファルセットを使い分けた唱法も見事だが、簡素なアレンジの軽快さもアルバム全編をうっすら覆う共通項だ。そこから“How Long”“Done For Me”とシングルが続き、ベイビーフェイス風でもある誠実で軟弱なスロウ“Patient”へ。そこからボーイズIIメンを迎えた美しい“If You Leave Me Now”への流れも素晴らしく、アルバムの中腹は穏やかなムードで演出されている。

 そこから一転、ブラコン時代のアーバンなウォーキング・リズムに乗ったファンキーな“BOY”、ホール&オーツ“I Can't Go For That(No Can Do)”を爽やかに引用した“Slow It Down”と、既聴感を利用したモダン・ポップ仕立ての楽曲が続く。ジェイムズ・テイラー御大との“Change”を挿んでの終盤は、A-haやポリス風に駆け抜けるアップ“Somebody Told Me”で、例えばかつてブルーノ・マーズも同じようなインスピレーションから楽曲を作っていたが、こういう部分からも制作プロセスやアウトプットの違いが垣間見えておもしろい。そして、品のある穏やかなカクテル・ディスコ“Empty Cups”へ滑り込み、荘厳なムードからやがて壮大に広がっていくバラード“Through It All”で大団円。コマーシャルな意味で2枚目のジンクスを打破できるかどうかはさておき、音楽的なおもしろみとクォリティーは前作を見事に凌駕した一枚だ。