10年ぶり10枚目の最新作は、スウィング・アウト・シスター流〈ロンドン・コレクション 2018〉

 手元にあるスウィング・アウト・シスター『オールモスト・パスウェイディッド』のプレスリリースには、ロバート・ワイアットの推薦文が記載されている。

 ワイアットは、ベン・ワットやワーキング・ウィークと共演したこともあれば、自身のアルバムではアントニオ・カルロス・ジョビンの曲やジャズ・スタンダードをカヴァーしている。だから彼がスウィング・アウト・シスターのソフィスティケイトされたポップの支持者であったとしても、それほど意外ではない。が、この1945年生まれの英国ジャズ・ロックの草分け的存在が、〈非常に聡明で密度が濃い一方、溶けゆくバターのようにすっと入ってくる〉とまで賞賛しているのだから、スウィング・アウト・シスターのファン以外の音楽ファンを振り向かせるには十分だろう。

SWING OUT SISTER Almost Persuaded Miso/ソニー(2018)

 『オールモスト・パスウェイデッド』は、約10年ぶりのスタジオ録音アルバム。制作期間は約3年にも及ぶ。これらのことから想像できるように、新作は時流に沿って作られたアルバムではなく、むしろ60~70年代のポップやノーザン・ソウルの影響が色濃い、〈classic〉という言葉が似合うアルバムだ。これまでのスウィング・アウト・シスターの軌跡を遡るなら、ジミー・ウェッブをアレンジャーに迎えた『Kaleidoscope World』(1989)を起点に、ウェッブやバート・バカラック、ジョン・バリーなどの職業作曲家/アレンジャーへのオマージュにあふれた『Shapes and Patterns』(1997)でさらに王道を極めたこのデュオ本来の路線のアルバムである。

 『オールモスト・パスウェイティッド』は、とりわけ7曲目以降の後半が輝いている。その7曲目“アイ・ウィッシュ・アイ・ニュー”は、ローラ・ニーロを思い起こさずにはいられない夜のため息のようなヴォーカルとピアノのコードで始まる曲だが、アレンジの端々にはバカラックやウェッブへのオマージュが込められていて、全体としてはダスティ・スプリングフィールドへの傾倒が感じられる。スウィング・アウト・シスターがシーンの表舞台から姿を消していた間、こうした路線はルーマーが受け継いでいた。ただし、あえて比較すると、『オールモスト・パスウェイティッド』は、ルーマーにはあまり感じられない80年代的な華やかさも纏ったソフィスティ・ポップ(Sophisti-Pop)のアルバム。オートクチュールではないにせよ、いわばスウィング・アウト・シスター流〈ロンドン・コレクション 2018〉である。