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常に時代の先端を走り続けてきた伝説、デヴィッド・ボウイ。1978年~82年の間にレコーディングしていた未発表含む3作品が発売に!

 デヴィッド・ボウイが亡くなる一カ月前、彼はプロデューサーのトニー・ヴィスコンティに「新しい曲を数曲書いた、早くスタジオに一緒に入りたいと思っている」という電話をしたと、ヴィスコンティの過去のインタヴューにはある。今回リリースされる曲を含め、未発表の曲が今後も出て来るかもという期待が高まる。

DAVID BOWIE Welcome To The Blackout (Live London '78) ワーナー(2018)

 今回発表される3枚のアルバムの内、1978年のライヴ盤は、映画として発表されるはずだったが、ボウイは次のプロジェクトに進みたかった為に当時は発売されなかった。内容は素晴らしい。これはボウイのキャリアの一つのピークの時期だと言われているものである。名作『ジギー・スターダスト』は全曲リハーサルしたが、そこから6、7曲をツアーのために選んだ。フィリップ・グラスの作曲した二つのシンフォニーからも知られている、ボウイの実験音楽の影響が強いベルリン時代の名作シリーズ『ロウ』と『ヒーローズ』から多くの曲が選ばれている。このバンドはボウイのライヴバンドの内、最も音楽的に優れていたと思う。このライヴ・ツアーも含め、1974年から1988年までのボウイのバン・マスはカルロス・アロマー。彼がツアー用のアレンジ譜面を書いて、演奏者をディレクションして、メンバーの心理的なアドヴァイザーもしていたと言われている。オーケストラの指揮者のようにバトンを持って指揮している曲もある。そして、このCDではステージで演奏された順番でショーが初めから終わりまで聴ける。(当時のライヴ映像は映画『クリスチーネ・F』で見られる。)

DAVID BOWIE クリスチーネ・F~麻薬と売春の日々~ PARLOPHONE(2018)

 この頃の、アロマーの仕事の仕方を直接見てみたかった。1984年の僕のソロ・アルバムにベースとドラムだけを入れた音源を作って、アロマーをスタジオに呼んで、ヴォーカル以外の他のパートを全部埋めてもらった。彼のリズムの取り方は特別なものがある。ジェームス・ブラウンのバンドマンの経験があり、ビートルズのようなトーンでクロマチックなソロをエモーショナルに弾いて見せた。わずかの時間で彼のギターはオーケストラのようにその曲を埋めて行った。

DAVID BOWIE David Bowie In Bertolt Brecht's Baal PARLOPHONE(2018)

 ボウイの作品にはその作品に必要な重要な音楽家が選ばれている。今回同時に発売されるブレヒトの劇『バール』のCDは、ボウイがBBCのTVドラマの同名のドラマに俳優として主役で出演していたから、彼自身の案で出来る限り当時のベルリンの雰囲気で録音したいという思いが実現したCDだ。三文オペラの初演の演奏家も呼ばれた。このアルバムでの演奏は、今まで私が聴いたブレヒトの曲で最も理想的な演奏だと思う。英国のブレヒト研究家もびっくりしたと伝えられている。

 ボウイの歌うワイルの《The Drowned Girl》程この詩が伝わってくる表現は中々ない。《マリー・A》も見事に演奏している。上記のボウイのライヴ盤にもワイルのアラバマ・ソングが含まれている。ザ・ドアーズの演奏でも知られている曲だが、ドアーズのヴァージョンは使っているコードはシンプルになっている。ボウイはオリジナルの不思議なコード進行に基づいている。

 ワイルにはブレヒトとは違った独自の考え方があり、彼はユダヤ人としてナチス・ドイツから亡命してからは、自分は国を持たない作曲家になったと書いている。これはボーダレスという意味ではなく、自分は育ったドイツに認められなかった人間だという意味だった。ワイルの文章はとても面白く、今でも学ぶことが多くある。

 現代の哲学者ジジェクはブレヒト、カフカ、サティなどを20世紀初頭の代表的な共産主義に影響受けた芸術家と分析している。20世紀初頭は現在の消費社会の始まりであって、芸術家はそれぞれ当時の社会思想に影響を受けていた。ダダイスト、未来派芸術家達にはファシズムに影響を受けた人もいた。この時代にはまだヒットラーもスターリンもいなく、新しい考え方として見られていた。最近のニュースではAI、ロボット化、デジタル化が話題にされているが、これは21世紀の新しい考え方の始まりだと僕は思っている。これは思想にも芸術にも大きな変化をもたらすと思っている。ボウイがいたら、どんな発言をしただろうか?

 


デヴィッド・ボウイ(David Bowie) 【1947-2016】
1947年1月8日、英ロンドン南部ブリクストン生まれのミュージシャン/俳優。67年にアルバム・デビュー。69年の『スペイス・オディティ』のヒットを経て、72年の『ジギー・スターダスト』で“グラム・ロックの旗手”として活躍。以降、「フェイム」や“ベルリン三部作”、『レッツ・ダンス』などでシーンに強烈な印象を残す。映画『戦場のメリークリスマス』出演も大きな話題になった。