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OLD DAYS TAILORは、ある程度放任してほっとくっていうか……信頼する(笹倉)

――笹倉さんは先程「僕のソロとはちょっと違うものにしたかった」とおっしゃいましたが、笹倉さんにとってソロとOLD DAYS TAILORの違いは何ですか?

笹倉「……ある程度、ほっとく」

岡田&谷口「ははは(笑)」

笹倉「フロントマン主導のバンドってあるじゃないですか。そういうバンドとシンガー・ソングライターがバック・バンドを付けてやるのとでは、そんなに変わらないと思うんです。だけど、OLD DAYS TAILORは、ある程度放任してほっとくっていうか……信頼する(笑)」

岡田「なんで笑うんすか(笑)」

笹倉「信頼してるからほっとける。ダメなことはメンバーそれぞれが判断をするんだけど、みんながジャッジできるから、バンドをやる意味があるなって思います。みんながそれぞれ考えてやるっていう。今後は、さらにそういう色が強くなっていったらいいなと思ってます」

谷口「普通にメンバーを集めたとしたら集まらなさそうな人たちが集まったので、いろいろな人がイニシアチヴを取るシーンが増えてもいいと思いますね」

――それだけのメンバーが集まっていますよね。そんなOLD DAYS TAILORは、岡田くんにとってはどんな場所なんですか?

岡田「僕の場合は、もう何が新しいのかよくわからなくなってて、自分のアルバムを1枚作った後で、けっこうスランプ・モードだったんです。トラップみたいなトラックを作ったりもしたんですけど(笑)、ダメだなって。そもそもトラップは、もう誰がやっても新しくないし、新しいことを追いかけてやることに魅力を感じないし、それ自体が後追いだと思いますし。

そんななかで何をしようか?というときに、ちょうど70年代のシンガー・ソングライターとかフォーク・ロックとか、純粋に自分が好きな音楽ばかりを聴いてた時期があったんです。いまもまた、そういう感じのモードなんですけど。そんなときに笹倉さんに誘われて。ザ・バンドとかリトル・フィートとかジェイムズ・テイラーとか、そういう音楽をまた良いなって思ってる時期に呼ばれたから、肩肘張らずに自分の好きなプレイができましたね」

――なるほど。

岡田「〈新しさやオリジナリティーがなきゃダメだ〉みたいに考えないで、笹倉さんの良い楽曲をどう活かすかっていうプレイにアプローチできる場だったのが、僕はすごくおもしろかったし、楽しめました。あと、70年代のプレイヤーはすっごく巧くてムズいってことが、改めてわかりましたね(笑)」

谷口「OLD DAYS TAILORは“抱きしめたい”の7インチと比較されることが多いと思うんですけど、森は生きているが解散して、僕は一人でいろいろな人のサポートをして、ここに至っているから、全然違うマインドなんです。岡田くんが言ったように、笹倉さんの曲に対してどうアプローチするかってことをすごくストレートに考えられましたし、それはすごく新しいマインドでできましたね」

――OLD DAYS TAILORと森は生きているは、ルーツは近いかもしれないけど、やっていることは違いますよね。いま2人が言っていた通り、楽曲に寄り添ってみなさんが演奏している感じがすごく出ています。

岡田「森は生きているは、いかに曲に寄り添わないかっていうことをやってたから(笑)」

谷口「そうだね(笑)」

――それぞれが個性を主張するよりも、笹倉さんの曲と歌に寄り添っている。

谷口「かといって、無理をしてる感じもない。コードはムズいけどね(笑)」

岡田「録り直し、半端なかったよね(笑)。みんな主張が激しい音楽を好きじゃないだろうし、そういう意味ではすごく自然なやり方で個性を発揮できてると思います。

伊賀さんだって、星野源のバックで紅白に出ているときにはブンブン弾いてるように聴こえないかもしれないけど、一緒に演奏するとすごいんですよ、伊賀さんの音の乗せ方は。

ギタリストだったらダニー・クーチ(コーチマー)とかデヴィッド・T・ウォーカーとか、そういうプレイヤーが僕らは好きですし。だから、やっぱり自然なスタイルでできた感じがしますね」

 

笹倉さんの場合は、ギターと歌が切り離せない(谷口)

――さっき、岡田くんから70年代の音楽の話が出ましたけど、制作にあたって、みなさんでそういう音楽を聴いたりしましたか?

谷口「まあ……ジェイムズ・テイラーですよね(笑)」

笹倉「僕の曲作り自体、下地にジェイムズ・テイラーがあるんです。彼のような曲作りでバンドとしての音になったのは、おそらく日本で初めてだという自負はあります」

岡田「JT(ジェイムズ・テイラー)って、真似しようとすると難しいんですよね」

――どういうところが難しいんですか?

岡田「コードが多い(笑)」

谷口「〈JTタイム感〉みたいなのがすごくあるんですよね。JTの音楽は、ギターと歌だけで成り立ってるところにバンドが自然と寄り添ってるように聴こえるんだけど、実はそれは違うんです。普通にやろうとしたら、全然合わないんですよ」

岡田「ジェイムズ・テイラー自身が特殊なミュージシャンで、彼に似たミュージシャンっていないし、何に影響されてああなったのかわかんないんですよね。ソウルのミュージシャンがジェイムズ・テイラーに影響を受けたっていうのは聞くけど、彼はニュー・ソウル以前にニュー・ソウル的なことをやってる(笑)」

笹倉「それがやっぱりアメリカの音楽の底の深さなんですよね。表に出てこない、あの国の音楽的な懐の深さは半端ないんだろうなあって」

――でも、ジェイムズ・テイラーってすごくスムーズに聴ける音楽ではありますよね。

笹倉「スムーズに聴かせてるのがすごいんですよね」

谷口「作り手目線でいうと、〈なんで?〉って思うようなところが多いんです」

岡田「エクスペリメンタルだよね、コードの使い方とか」

――先程、谷口くんが笹倉さんの楽曲についてもコードの複雑さを言っていましたよね。でも、笹倉さんの音楽もスムーズに聴けるものだと思います。

谷口「笹倉さんがウチに来て、アルバムの曲を全部譜面に書いたんです。最初はピアノで採ってたんだけど、コードが理解できなくて。ギターを弾いてもらったのを見て、真似しながら置き換えて書くという作業をしました」

笹倉「メロディーとシンコペーションが複雑なんですよね。メロディーに対してコードの構成音をどういうふうに使うか、メロディーに対して和音をどういうふうに当てるかっていうアプローチがかなり細かいんです(笑)」

岡田&谷口「細かいっすね」

谷口「ギターをジャカジャカ弾いて弾き語りっぽくやっても、決して合わないんです」

笹倉「っていうか、できないよね。ピックだと演奏できない(笑)」

岡田「ベースラインがすごく特殊なのと、和音の構成音が4つで、その使い方が不思議なんですよ。それがただのメジャー・セブンスじゃなくて、キーになる音にプラスして、もう一音の入れ方やそれに対するメロディーの寄せ方、あと、流れの作り方がすごいんです。ああいうコード進行を書ける人って、他にいないんです」

谷口「かといって、小難しく聴こえるわけじゃない。それは、歌のメロディーとものすごく緻密に……」

岡田「絡み合って出来てるんだっていうのは、勉強になりました」

笹倉「でも、もうちょっと簡単な曲を書こうかなって、最近は思いますね(笑)。そろそろ疲れてきちゃったので、もうちょっと気楽にやろうかなあと。ホントにテクニカルだよね」

――じゃあ、バンドで録音するときには苦労したんですか? 特に鍵盤は、ギターと全然違いますよね?

谷口「最初はギターを完コピしました。〈こうだから、ここでこの音に行くんだ〉っていうのを理解しないと、鍵盤ではできないんです。他のミュージシャンのサポートのときにもやるんですけど、特に笹倉さんの場合は、ギターと歌が切り離せないというか、それがひとつのメロディーになってるから、そこを最初に理解することをかなり心掛けてますね」

 

笹倉さんは、日本でいちばん日本語が乗るシンガー・ソングライター(岡田)

――ジェイムズ・テイラーからの影響があるにせよ、笹倉さんの楽曲がそういった特殊なものになるのはどうしてなんですか?

笹倉「なんでですかね……。僕は洋楽ばっかり聴いてるんですけど、昔の音楽を聴いてて思うのは、良いメロディーってわかりやすい、ドレミをちゃんと追っていけばすごく良い曲だなあって聴ける曲だと思うんです。でも、そういう音符の周りに、実際は小さい音符がいっぱい付いてたりするわけじゃないですか。

例えば、〈ド〉って音は譜面に起こしたら〈ド〉なんだけど、そのちょっと下からしゃくってたりとか、その後ちょっとフラットしてたりとか。そういう細かい表現を日本語でもしたいなって思っていると、どうしてもこうなってしまうんです。

もうひとつ言えるのは、英語の歌を日本語に訳して歌うと、ほとんど違う曲に聴こえる、というか良い曲に聴こえなかったりすることがないですか?」

――そうですね。

笹倉「洋楽の言葉のベースでメロディーが浮かぶので、良いメロディーを良いメロディーのまま日本語に変換する作業をしていると、けっこう歌い回しとかも複雑になってくる。日本語で、それをいかに自然に聴こえるようにできるかを考えてやってますね。たぶん僕の曲はカヴァーしたら歌うのが難しいと思います」

――なるほど。

笹倉「最近はメロディーから曲を書くんですけど、メロディーから書いていくと、〈こんなん絶対合わんわ〉ってなるんです(笑)。それをただ、ピアノで音符を追って弾いても、なんだかつまらなくて。

そうじゃなくて、フラフラしたようなメロディーの作り方がドキッとしたり、気持ち良かったりするんです。自分が作った曲に自分でハッとしたいんですよね。気が付くと、テンションだらけになってる(笑)。で、最終的に自分が苦労する(笑)」

谷口「我々も苦労する(笑)。今回も、録りながらコードが変わることがかなりあって。“抱きしめたい”も、録音するのは3回目なんですよね。でも、毎回コードが違うんです。キーも変えてるし。だから、そこは常に問いながらやっていますね」

岡田「ああいうシンコペーションに日本語を乗せるって、マジで難しいので、ホントによく出来てるなって思います。僕の曲は全然シンコペーションしないですし、はっぴいえんど的な乗せ方ならできなくはないけど、笹倉さんみたいにグッと拍をまたいだり、食ったり、ピッチが微妙に上がったり下がったりって、日本語だとすごくやりづらい。それは、はっぴいえんどを聴いてればそう思いますし、〈ロンバケ〉を聴くとよく出来てるなって思います。

ジェイムズ・テイラーみたいなミクロに分解されたような楽曲の流れに彼のようなメロディーをそのまま乗せると、たぶん日本語じゃうまくいかない。そういうところを、良い按配で日本語が乗っているのには、今回すごくびっくりしましたね」

笹倉「僕にとっては〈良い曲〉って、歌詞は何を歌っても〈良い曲〉だなあって思うんです。でも、僕の曲は、全部がそうとは言わないですけど、歌詞を変えたら曲として成り立たない。そういうふうに作っちゃってるから。

だから、言いたいことをちゃんと言ってないってことはある。ガチガチの制約のなかで、なんとか言うみたいな(笑)。だから、作詞は、それを自分が納得ができるクォリティーにどうやって持っていくかっていう作業工程ですね」

岡田「〈使える言葉、使えない言葉〉をけっこう意識してますよね。それは日本語でやるときは大事だなって思います」

笹倉「そうだね。言いたいことに対するアプローチって、メチャクチャあるからね。だから、それをどういう言葉にするのかという。言葉の変換能力、アプローチ力はかなり問われます」

――では、最後に笹倉さんの音楽家としての魅力とは、岡田くんと谷口くんにとってどんなところでしょうか?

岡田「日本でいちばん日本語が乗るシンガー・ソングライターですね」

谷口「そうですね」

岡田「初めて聴いたときに、魅力的に思ったのはそこですし。CDしか聴いたことがないのに、〈この人とは絶対に友だちになれる〉って思いましたね(笑)」

谷口「いろいろな人のバックで演奏してきて思うんですけど、笹倉さんほどギターと歌だけでその世界のすべてが成り立っている人はいないなって。逆に言えば、歌詞がちょっと違ったら変わってしまうとか、もしかしたら脆い部分も実はあるのかもしれませんけど。それも含めて、キャラクターをこれほど強く持ってるシンガー・ソングライターはいないなって、すごく感じますね」

 


LIVE INFORMATION
OLD DAYS TAILOR 1st Album『OLD DAYS TAILOR』リリース・パーティー
2018年7月11日(水) 東京・吉祥寺 スターパインズカフェ
出演:OLD DAYS TAILOR
ゲスト:湯川トーベン(ベース)
開場/開演:18:30/19:30
前売り/当日:3,300円/3,800円(ドリンク代別)
会場予約:https://ssl.form-mailer.jp/fms/f7f014c8172636
プレイガイドでも発売中:e+/チケットぴあ(Pコード 117-996)/LivePocket