アキ・カウリスマキの映画の主人公は以前から大抵不幸であったり不運であったりするのだが、常に独特のユーモアが登場人物たちを救っていた。そんな希望の光の頂点に位置するのが96年の『浮き雲』であったとするならば、本作はカウリスマキの作品世界の暴力性・禍々しさが頂点に達した一作。フィンランドに流れ着いたシリア難民の男性の物語。カウリスマキ特有の乾いたユーモアで彼を温かく迎える人々を描く一方、彼を排斥する人々とその暴力も容赦なく描く。観客に希望を託したかのようなラスト。後味は厳しく苦い。