INTERVIEW

butajiが歌う〈わかりあえない〉というポップス。たったひとりで作り上げた『告白』をめぐって

 

大切な人と自分との境がなくなってしまうような感覚があって

――アルバムの話に戻りますが、“someday”以降の後半は雰囲気がガラッと変わりますよね。

「そうですね。なかでも“あかね空の彼方”は完璧な形にできたと思っていて。これを完成させたときは〈永遠〉を閉じ込められたような気がしましたね。今回はこの曲の歌詞にある〈愛情のベース〉というものがどこにあるのかっていうのを探っていくような作品だと思います。

それぞれがすれ違っていくけれど、個々人の愛情の根底に流れるものがもしあるとしたら……いや、あるんじゃないかという感じです。それを期待するというか、祈るしかないんです」

――なるほど。では、〈愛情のベースを流れる 恐らく低い音が〉という歌詞は、〈通奏低音〉ということでしょうか。

「そうですね。“抱きしめて”の〈同じ顔をした 私がいま〉というのは、家族の血脈や血筋から受けた愛や、そこで培われた思想について言っているんです。それと、僕は大切な人と自分との境がなくなってしまうような感覚があって――それは僕だけじゃないのかもしれないけど」

――よくわかります。

「そういった経験で何かを受け取ったし、相手に何かを渡したような気持ちになる。その喩えとして〈同じ顔をした〉という言葉を使ったんです。そこで受け取ったものが自分の奥深くを流れていって、どこかへ向かっていく。それは即効性があるものじゃなくて、どこへ行き着くかはわからない。〈何かがあるんじゃないかな〉という予感にすぎないんです」

――作品を発表するということは、いつ、誰に聴かれるかわからないということなんですよね。それがレコードとして残すということなのかなと思っています。

「僕もそう思います。だから、耐久性について突き詰めて考えていくほかないかなって。普遍性と耐久性というか」

――そういうものを備えている音楽が、butajiさんにとってのポップスですか?

「うーん……それはわからないんです。まだまだわからない。ポップスを構成する要素って、僕が考えている以上にあると思う」

――もちろん、答えがないことではありますよね。

「いろいろな人がポップスを目指して作っていますもんね。だけれども、〈僕にとってこれは違うかな〉っていうものもあったり。それぞれが普遍性や耐久性を考えているんじゃないかな」

 

共通認識というのは〈ポップス〉なんじゃないかなって

――butajiさんはすべての演奏をご自身でやっていらっしゃるとのことですが、ミックスもそうですか?

「今回は自分でやってしまいましたね」

――『告白』は歌が中心にあって、歌と言葉が直接的に飛び込んでくるように聴こえます。それは意識してミックスされたんですか?

「前作はヴォーカルのレイヤーがもっと奥にあったと思うんです。でも、『告白』ではヴォーカルを真ん中にして、(音量を)けっこう上げましたね。やっぱり、このアルバムの魅力はヴォーカルだったから――それは制作の終盤に気付いて、バッと変えました」

――それは『告白』が歌や歌詞にフォーカスしている作品だからですか?

「そうですね。前作を作った後に〈今後、何を作っていくんだろう?〉と考えて、ひとつの結論が〈ソングライティング〉だったんですよ。ギターと歌だけで成立するような、スコアだけで完結するような音楽にチャレンジをするっていう。それは、この先ずっとテーマとして抱えていくと思う。それを目標としたとき、やっぱりヴォーカルが前に出ることが相応しいんじゃないかなと思ったんですね」

――でも、今回butajiさんが歌っていることって、痛みとか苦しみ、悩みといったことですよね。それをこうやって聴かせることへの不安はないんですか?

「制作中にアノーニのアルバム(2016年作『Hopelessness』)が出て聴いていたんですけど、ああいう不安ってみんな共有しているんじゃないかなって思ったんです。そういう共有していること、共通認識というのは〈ポップス〉なんじゃないかなって。

逆に、何が不安なんだろう? 漠然とした不安なムードを共有していて、みんなが悩んで、大変な思いをしているのに。〈未来は絶対に楽しい!〉みたいな歌のほうが不誠実だと思うんです(笑)」

――ハハハ(笑)。わかります。

「そっちのほうが、僕は不安になる。何か答えを出してしまうこと――〈幸せ〉とか〈愛〉とか、未来の方向性を容易に、ひとつ形作ってしまうことのほうが不安なんです。本当はいろいろな形があるって、それぞれで考えていかなきゃいけないのに。だから、悩みや痛み、孤独について歌うことは、なんの不安もなかったですね、思い返してみると」

 

何かを感じたら、それをやらなきゃいけないんだと思う

――“someday”では鉛筆で何かを書く音が入っていますが、ああいった環境音やフィールド・レコーディングを作品に入れるのは、butajiさんという作家の特徴ではないかと思います。それによってストーリーテリングや情景描写的な側面が強くなっています。

「アルバムの流れというか、全体を通して何が最後に浮かび上がってくるのかというのを強く意識しているんですよね。“someday”ではパーソナルな側面、内面的なところを強調したかったので、実際に鉛筆で歌詞を書いている音を入れています。

手紙を書いているイメージでしたね。鉛筆の音を入れるアイデアについて違和感はなくて。例えば、〈楽音〉と〈騒音〉と分けたりしますけど、僕はそういう音を取り入れることにまったく抵抗がないんです」

――そういう音を入れたくなる理由はなんだと思います?

「やっぱり……音楽的ではないのかもしれない。〈物語〉〈ストーリー〉なのかもしれないですね。〈何が音楽なのか?〉って考えたことがあるんですけど、その線引きってとても難しいんですよね。音楽とそうでない音とを切り離せる場所が曖昧だということを認識したうえで、いろいろな音を取り入れることをよしとしているんだと思います。

例えば、8曲目の“予感”の最後には足音を入れています。ひとりで歩いていく、その孤独感を表現するためにあの音を入れることにためらいはなかった。〈良い感じじゃない?〉みたいな(笑)」

――なるほど。

「その〈良いかも、これ〉っていう予感を説明する術はないんですよ――説明すると消えてしまうものだから。何かを感じたら、それをやらなきゃいけないんだと思う。そこに合理性があるかどうかはわからないんですよ」

――直感的にそういう音を入れているんですか?

「“someday”は直感的に入れましたね」

 

〈わからない〉っていうものを作りたかった

「でも、このアルバムには、いろいろな面がありますよね。僕が解き明かすことができないような、深い何かがあるのかもしれない」

――そう思える作品を作ったということは、すごいことだと思うんです。ご自身でもいまだにわからないところが残っているんですか?

「やっぱり“EYES”ですね。この曲はAIを搭載したドローンが人の立ち入れない場所に入っていって、その景色を人間に見せるっていうイメージで。人間がモノそのものをそのまま見るっていうことは、とても難しいんですよね」

――常に何かしらのバイアスやフィルターがかかってしまいますよね。

「そう。だから、それを機械に教えてもらうっていう。アルバムを通して聴くと、“予感”で何か結論が出たのかなと思うんです。でも、その後に“EYES”があることで結論が揺らぐというか……。

僕が僕自身に対して何か明確な答えを持っているわけじゃないんですよ。だから、〈わからない〉っていうものを作りたかった。それはとても大変な作業でしたね(笑)。わからないことを〈わからないです〉って言うことって大変なんです」

――そうでしょうね。

「どうやって進んでいったらいいのか、どうやって暮らしていったらいいのかがわからないし……。その〈わからなさ〉は、他人と共有できるんじゃないかと思ったんですよね」

 


Live Information
〈butaji『告白』リリースパーティー〉

8月29日(水) 東京・渋谷 TSUTAYA O-nest
出演:butaji
バンドメンバー:樺山太地(ギター/Taiko Super Kicks)/山本慶幸(ベース/トリプルファイヤー)/坂口光央(キーボード)/岸田佳也(ドラムス)
ゲスト:七尾旅人
開場/開演:18:30/19:30
前売り/当日:3,000円/3,500円(ドリンク代別)
チケットぴあ Pコード:118-896/ローソンチケット Lコード:76243
e+:http://sort.eplus.jp/sys/T1U14P0010843P006001P002261742P0030001

〈butaji『告白』リリースツアー ~弾き語り編~〉
9月22日(土) 石川・金沢 メロメロポッチ
9月24日(月・祝) 大阪 HOPKEN
9月30日(日) 名古屋・金山 ブラジルコーヒー
10月6日(土)福岡 cafe and bar gigi

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