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アンダーワールド×イギー・ポップ『Teatime Dub Encounters』 映画「トレインスポッティング」で結ばれた2組の縁と絆

アンダーワールド×イギー・ポップ『Teatime Dub Encounters』 映画「トレインスポッティング」で結ばれた2組の縁と絆

人生に何を望む?――「トレインスポッティング」で結ばれた2組が20年の時を経て合体! いまなお全力で走り続け、大人になりきれない男たちが選んだ未来とは?

 96年2月、本国UKでダニー・ボイル監督の「トレインスポッティング」が公開された。不況下のスコットランドで生活する若者たちの姿を描いたこの映画では、プライマル・スクリームやブラー、パルプにエラスティカなどの楽曲をふんだんに使用。世界中で爆発的なブームを巻き起こした、90年代のユース・カルチャーを象徴する一本だ。

 なかでも象徴的な劇中曲と言えば、やはりオープニングを飾るイギー・ポップの“Lust For Life”と、本編のハイライトで流れるアンダーワールドの“Born Slippy Nuxx”だろう。とりわけ140BPMで刻まれるヘヴィーなキックを特徴とした後者のテクノ・トラックは、特大のクロスオーヴァー・ヒットを記録。カール・ハイドの〈Shouting, Lager Lager Lager Lager〉という叫びが、いまなお頭から離れない……なんて方も多いかと思う。

UNDERWORLD,IGGY POP Teatime Dub Encounters Thousand Mile/Smith Hyde/BEAT(2018)

 そんなアンダーワールドとイギー・ポップがこのたびコラボEPを完成。『Teatime Dub Encounters』と名付けられたそれは、「トレインスポッティング」の続編として昨年に公開された「T2 トレインスポッティング」と深く関わっている。何でも、〈T2〉で音楽を監修したアンダーワールドのリック・スミスが、映画のためのコラボレーションについて意見を交わす目的で、イギー・ポップと話をしたいと考えたそうだ。そのミーティングはマリリン・モンローやキャサリン・ヘップバーンも滞在したロンドンの老舗ホテル、ザ・サヴォイの一室で2016年に実現。リックはイギー・ポップというロック界のレジェンドを丁重に迎えるため、会談場所をスタジオ化した。その時の様子を当人は次のように語っている。

 「ザ・サヴォイに宿泊していたイギーが、〈会って話をすることくらいできるよ〉と言ってくれた。俺らは2人とも、『トレインスポッティング』とダニー・ボイル監督に強いコネクションを感じていたんだ。だから、イギーにコラボレーションを持ちかけるならいましかないと思ったよ。そこでホテルの一室を借り、自分のスタジオ機材の半分を運び込んだ。準備をして、ただ部屋の中に座って彼を待っていたんだよ」。

 この出迎えにイギーも気持ちが高ぶったようで、「ホテルの一室が完璧なスタジオになっていて、最近アカデミー賞を受賞した監督(ダニー・ボイルのこと)ともSkypeで繋がっていた。目の前にはマイクが設置してあって、凄く洗練された完成済みのトラックが30曲も用意されていたんだ。そこまでするヤツの前で〈いや、ちょっと俺は……〉なんて情けないことは言えないだろ。だから心臓がバクバクだったよ」とコメント。

 こうした道程を経て作られた『Teatime Dub Encounters』は、驚くほどエネルギッシュかつ爽快感溢れる作品に仕上がっている。共に長きに渡って音楽シーンで活躍してきたヴェテランでありながら、2人の創造性は衰えを知らない。その様子をもっともダイレクトに確認できるのが、“Bells & Circles”だ。性急なブレイクビーツで幕を開ける同曲は、イギーのワイルドなヴォーカルを前面に出し、EPのオープニングを飾るに相応しい勢いとユーフォリックなサウンドで聴き手を圧倒する。

 続く“Trapped”もおもしろい。ジョー・ジャクソンの“Steppin' Out”やデペッシュ・モードの“Photographic”を想起させるチージーなベースラインが執拗に反復され、そこにフリーキーな歌声と獰猛なノイズが交わるという彼ら流のポップソングに。それはさながら初期のスーサイドのようでもある。

 正直なところ、実際に音源を聴く前はファン向けのノヴェルティー盤なのではないかと高を括っていたが、いまではそのことを平謝りしたい気持ちでいっぱいだ。豪華なホテルの一室から生まれたこの音楽には、過去の作品に対するトリビュート的な要素はなく、表現者としての進化を求めるふたつの崇高な好奇心と、それによって生まれた幸福なケミストリーで満ちているのだから。

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