INTERVIEW

アナログフィッシュ『Still Life』インタヴュー―〈大人の音楽〉って何だ?

アナログフィッシュ『Still Life』インタヴュー―〈大人の音楽〉って何だ?

99年結成。今作『Still Life』が通算10枚目のオリジナル・アルバムとなるアナログフィッシュ。かつて「僕たちの居場所がない」と語っていたバンドは、居場所を探して彷徨いながらも、いまやヴェテランとも言えるキャリアに突入しようとしている。

その彷徨は、ロック・ミュージックを愛する者から常なる信頼感をもって慕われてきたし、彼らより下の世代のアーティストたちには勇気を与えてきた。それは何より、彼らの作り続けてきた音楽への信頼であり、敬愛によるものだっただろう。社会に対し、みずからに対し、赤裸々に語ることを厭わないバンドは、かつて〈社会派〉と評されることもあったが、いま彼らはそうした話法を封印したかに見える。

しかしそれは、ただそう〈見える〉だけであって、その実、相変わらず鋭く社会を眼差すのだ。ここにはトピカルな固有名詞も現れないし、センセーショナルなアジテートもない。しかしそれらに代わるように、今作では大人として社会を眼差すこと、そのこと自体の誠実さと豊かさが横溢している。

前作『Almost A Rainbow』(2015年)でも垣間見せたオルタナティヴR&B〜ソウルといった、昨今の国内外シーンを賑わす音楽要素がより大胆に導入され、バンドが培ってきた彼らならではの制作・演奏スキームと融合することによって、特異とも言えるアナログフィッシュ流メロウネスに浸されることになった今作は、その長いキャリアのなかでも刮目すべき充実度を誇る作品だ。

リリースの度、常に最高作を更新し続けてきたバンドは、ここに至ってより大人として成熟することを通し、またもその記録を更新した。成熟の困難が言われる時代にあってなお果敢にみずからの信じる音楽に取り組むことで、彼らはようやく安息の〈居場所〉を見つけ出そうとしているのかも知れない。その様は、いよいよ我々に勇気を与えて止まない。

アナログフィッシュ Still Life felicity(2018)

確かにメロウさというのは近年出てきたと思います

――20年近いバンド活動を振り返って、あっという間でしたか? それとも長い時間に感じますか?

「いまから考えればあっという間ですね。活動の最中には長く感じるんですが、振り返ると一瞬です。これまで在籍したレーベルのことを考えても、felicityに既に8年近くいて、その前が2年ほどPARCO。さらにその前がエピックに3年。けれど、どうしても最初の3年間のエピック時代が自分のキャリアの6〜7割を占めている気がずっとしてしまうんです。

バイトをやりながらバンド活動していた自分たちが、それまでと異質な環境に置かれて音楽だけに専念することになって、小学生の頃ぶりに人生で初めての経験をたくさんすることになったということが、印象として大きいのかも知れないです」(下岡晃、以下同)

『Still Life』収録曲“Sophisticated Love”
 

――年月を重ねていくと体感的な時間の密度が変わっていく感覚は、ひとりの人間でもバンドでも同じなのかも知れないですね。がむしゃらな青年期があって、じっくりと音楽に接していく成熟期がやってくる、という。その意味で今回のアルバムには、時間の捉え方もよりゆったりとした、大人のテイストを感じました。

「それは嬉しいです」

――そして、前作にも増してしなやかなグルーヴとアンサンブルにソウルやR&Bのフィーリングをより強く感じました。それはご自身が聴く音楽の嗜好の変化によってもたらされたんでしょうか?

「そうですね。単純にいま、シーン自体にそういうものが多いし、良いものを聴こうとすると自然とそういった音が入ってくる。元々ソウルやR&Bが好きだったというのもありますし。

3年ほど前、このアルバムを作り始めようというときに、メンバーといくつかそういったテイストの楽曲をシェアしました。アンノウン・モータル・オーケストラとか、(ヴォーカル/ベースの佐々木)健太郎さんからはスティーヴィー・ワンダーの“Sir Duke”が挙がったり」

アンノウン・モータル・オーケストラの2018年作『Sex & Food』収録曲“Hunnybee”
 

――以前のインタヴューでも、ミーターズやJBズといったタイトなファンクを好んでいた時期があって、それをソリッドなバンド編成に落とし込む意識があったとおっしゃっていましたが、今回はリズムのフォルムもより流線型になって、メロウさが増したと感じました。

「演奏面でそういう意識が強くあったわけではなかったんですが、確かにメロウさというのは近年出てきたと思います」

 

たまたまラジオでデューク・エイセスやダーク・ダックスが流れていて、いいなあと思って

――今作は各曲がそれぞれ際立ったの個性を持っているので、1曲ごとにお話を伺わせてください。まず1曲目“Copy & Paste”はアカペラ・コーラスです。

「ボン・イヴェールの作品のコーラスのように、ホーリーさとR&Bっぽいものが融合したもの、更に全然違うものをそれに合わせてみたらどうなるだろう?と頭に浮かんで。たまたまラジオでデューク・エイセスやダーク・ダックスが流れていて、いいなあと思ってこれをやってみようと(笑)」

――それは意外(笑)! でもそういう言われると、節回しに若干ムード・コーラス感があるかも。

「和音としては割と安定しているんですけど、全体の雰囲気でボン・イヴェールのような感じを出せればと」

ボン・イヴェールの2016年作『22, A Million』収録曲“33 "GOD"”
 

――一方で歌詞はやるせなくて、〈君は今日も誰にもなれなかったね〉という……。こうした憂鬱なトーンの詞がアルバム冒頭に置かれているというのは、アルバムの内容を予見させるものになっていますね。2曲目は昨年7インチでリリースされた“With You (Get It On)”。アルバム全体の作風を象徴するようなメロウなR&Bテイストの強い曲ですね。

「健太郎さんがDTM制作にハマっていて、トラックを作って持ってきたんです。それがとても良かったから、僕も共同でアレンジ作業をしました」

――下岡さんがラップをしているし、トラックにもアブストラクト・ヒップホップのような雰囲気がありますね。この曲は確かに〈せーの〉で合わせてみて、という通常のロック・バンド的制作方法だと出来てこないですよね。

「そうだと思います。トラックありきの曲ですね」

――〈Get It On〉というフレーズからはやはりマーヴィン・ゲイの“Let’s Get It On”を連想してしまいます。歌詞も下岡さんと佐々木さんの共作になっていますが、これも決して明るい内容ではない。“Let’s Get It On”は恋人に性愛と理解をポジティヴに求めていくようなものですが、ここでは恋人同士はすれ違いっている。

「へえ、マーヴィン・ゲイの“Let’s Get It On”ってそういう歌だったのか〜。それは偶然の対比だ(笑)」

マーヴィン・ゲイの73年の楽曲“Let's Get It On”

 

僕らがこの10年ほどやってきた演奏の結晶とでも言うべきものになっているなと

――3曲目“Sophisticated Love”。曲名通りこれも洗練されたソウル感があってAORやシティ・ポップ的な要素も感じる。そういった音楽は好きですか?

「好きです。でも、特にこの曲にそういう狙いはなくて。20代前半の頃、自分のなかでそういう音楽をよく聴いてて、蓄積があるから自然に出てきたのかもしれない。これは僕らがこの10年ほどやってきた演奏の結晶とでも言うべきものになっているなと思っていて、自分としても気に入っています」

――ベースのパターンがすごく面白いですね。たしかに普通のシティ・ポップ的なものとは違う。

「そうだと思います。僕の曲の場合は、なるべくコード数を少なくて、ループ感があって、ギターは最低限の和音を提示して、ベースは少し変わった動きをするといったことを狙ってきたので。

なるべくスカスカにならず、同時に要素を減らしてっていう僕たちならではの音楽を作りたいなといつも思っていて。この曲は、自然と理想とする形になったんです。簡単に聴こえるかもしれないけど、誰がやってもこうなるわけではないと思います」

――曲順は飛びますが、6曲目の“Ring”について。僕はこの曲に対してより一層70〜80年代のシティ・ポップ的要素を感じました。これも特には意識せず?

「そうかもしれません。この曲は今回のアルバムで最初に出来た曲です。こういうコード進行でこういう歌唱というのは、もともと健太郎さんが得意とするものですね。でも、それこそ最初にこの曲が出来たからこそ全体がメロウなテイストになったのかもしれないな」

――下岡さんによる“Sophisticated Love”の歌詞もそうですが、この佐々木さん作の詞も決して明るい世界ではない。都市の洗練された恋愛を描いているようでいながら、どこかに哀感が潜んでいて……。

逆に、かつての日本のシティ・ポップの歌詞は、海沿いをドライブしたり、ナイト・ライフを謳歌したり、現実にそんなことあるのかよっていう夢物語のようにも思えたり(笑)。

「まあ、いまではああいう世界はなかなかないでしょうね(笑)」

――実際、六本木の道端にはネズミがいたりしますしね。80年代当時のトレンディーな人たちはいったいどういう心境だったのか、ネズミを見て見ぬふりをしていたのか、いまとなっては想像するのも難しいんですが……。

「やっぱり、みんな豊かさに血が沸き立っていたというしか言いようがないのかな。だからこそ、その時代に魅力を感じることもあるわけですが。でも僕らはキャリア通じて本当にそういう歌詞、書いてないですからね。いまは40歳だし、なおさら書きづらいですよね(笑)」

――だからこそ、とても2018年的リアルが剥き出しになっているなあ、と。経済の斜陽や、オリンピックが無理やり最終カンフル剤になっているような空気とかにリンクする寂寥感……。

「そうですね。でも、そもそも自分たちが〈これがシティ・ポップ的なものだ〉と思っていないから、バンドの個性と相まって自然と歌詞もそうなっているのかも知れないです」

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