INTERVIEW

アナログフィッシュ『Still Life』インタヴュー―〈大人の音楽〉って何だ?

〈“愛している”と言っちゃいけない〉って思ったことが、いま世の中で起きている何かを象徴するような気がして

――4曲目“Dig Me?”。これはアルバム中もっともロック的な曲ですね。あくまでギター・ロック・バンドであるというアイデンティティーを感じます。

「やっぱり90年代のオルタナティヴ・ロックが好きなんです。そういうものを色濃く感じるトロ・イ・モワの『What For?』(2015年)を聴いたときに、改めて〈やっぱりこういう音楽が好きだな〉と感じた思いが結晶した曲かもしれない。

先日、自分の好きなMVをひたすら観るっていうスペシャ(スペースシャワーTV)の番組の収録があったんですけど、選んでみたらほぼ90年代のものだったんです(笑)。スマパン(スマッシング・パンプキンズ)、クラッシュ・テスト・ダミーズ、ブラインド・メロン、ベック……」

トロ・イ・モワの2015年作『What For?』収録曲“Empty Nesters”
 

――5曲目はアルバム・タイトル曲“静物 / Still Life”ですが、これはライなどにも通じるような浮遊感があって、オルタナティヴR&B以降のクールさを感じる。けれどポスト・ロック的生演奏感ある。そこが〈R&Bプロパー〉じゃないロック・バンドならではの個性なのかなと。

「ポスト・ロック的という感想は嬉しいな。無意識に出てきているのかも知れない。僕らはまったくR&Bプロパーじゃないですからね(笑)」

――歌詞には〈“愛している”なんて言っちゃいけないと思っていた〉〈変わらないものなんてないね〉とあって、確固たるものの不在や過ぎ去ってしまうことの儚さといったことを生活のなかで常に感じているのかな、って。

「そうだと思います。みんなが感じているようにきっと自分も感じているってことだと思いますけど」

――以前は直接的に社会問題に切り込む歌詞もあったかと思うのですが、今回ほとんど表には出てきていない感じがします。いろいろと現在進行形で社会的問題が起きているなかで、それらへ直接的にアプローチしなかったというのは、どういった理由からなんでしょう?

「前のアルバム(『Almost A Rainbow』)を作り始める時、〈これまで僕たちの作ったものは何かを動かす意味のあることだったんだろうか〉と思って。それで“No Rain (No Rainbow)”という曲を書いたんですが、ラヴソングの形を取っているけれど自分が抱いている社会的な問題意識も込められて、良い歌詞になったと思えたんです。

今作も制作をしていくうちにその“No Rain (No Rainbow)”で得た意識が更に浸透していった感じですね。この曲に関して言えば〈“愛している”と言っちゃいけない〉って思ったことが、いま世の中で起きている何かを象徴するような気がして」

アナログフィッシュの2015年作『Almost A Rainbow』収録曲“No Rain (No Rainbow)”
 

――〈“愛している”〉というのは、他者と関係性を結ぶ時のすごく力強い言葉だと思うのですが、それをぐっと飲み込んでしまうというのは、本来は悲しむべき状況?

「そうですね」

――こんなに人間どうしが分かりあえない未来っていうのは、僕が小学生の頃には想像出来なかったし、この曲にはディスコミュニケーションの悲しさが滲んでいて……。

「ちょっとしたディストピアと思うこともありますよね」

――でも、立場は違えど、〈この状況って悲しいことだよね〉っていう感覚は他者と共有できますよね。個人的な言葉で表現されているラヴソングだけど、社会的な感覚を呼び起こす気がします。

「そう聴こえれば嬉しいですね」

 

呂布カルマさんと僕らは近い視点を持っているのかもしれませんね

――7曲目“Uiyo”。これはギターのフレーズがミニマルでおもしろい。フィジカルなバンド感とチェンバー的アレンジの折衷というか。弦楽器のフレーズやアレンジはどのように進めていくのでしょうか?

「健太郎さんの曲の場合は、彼がビートルズとかをすごく好きなので、メロディーの美しさを重視して、ある程度固まっているものをみんなで演奏していくという形なんです。でも、僕の場合は簡単なことだけが決まっていて、そこからアレンジしていく形。その作業がとても好きで、自分が腑に落ちるところを探していくイメージです。ときにはコードも決まってなくてもいいくらいで」

――8曲目“Time”。ずばり言って、ストーン・ローゼズの“Fool’s Gold”からの影響が大きいのかなと思ったんですが、違いますかね(笑)?

「どうだろう(笑)? 健太郎さんはあんまりストーン・ローゼズ聴かない気がしますけど。斉藤さんや僕は好きです」

――トライバル・ハウスっぽくもあります。

「それは嬉しいですね。冒頭がミニマルで、だんだん盛り上がっていくっていう」

――確かにマッドチェスター的ガヤガヤ感より、静かに覚醒している感じがありますね。以前から4つ打ち的な楽曲は演奏してきたかと思うんですが、こういうクールに抑制されたものは新境地という気がします。

「これはアレンジでやたら揉めました(笑)。健太郎さんが最初に持ってきたトラックをみんなでああだこうだやっても落とし所が見つからなかったんだけど、健太郎さんが粘って、バンドのアレンジも加わって最終的に変な形になった(笑)」

――そして最後の曲“Pinfu”。前の曲から続いて4つ打ち曲ですが、なんといっても呂布カルマさんのラップが鮮烈です。

「僕たちも呂布さんのラップが入るとこんなにも変わるものかとびっくりしました。やっぱり彼はカッコイイですね」

――このアルバムのなかだと、この呂布さんのラップが唯一社会的な問題意識を直接的に表現していると思いました。最後の最後にガツンとくる。

「〈こういうことをラップしてください〉とはなにも言わずトラックを渡したら、これが返ってきたんです」

――バンドの3人がリフレインする〈この街は平和に見える〉というフレーズも、本当は平和じゃないと思っているからこそ言っているんだろうと思ったのですが、ラップによって余計に際立ちます。

「そういう意味でも、呂布さんと僕らは近い視点を持っているのかもしれませんね」

 

〈大人としての音楽をやる〉っていうのは、非常に意識していますね

――全曲に触れてきましたが、やはりアルバムを通して改めて〈メロウ〉というのが共通するトーンだと感じます。一般的に〈メロウ〉と言えば甘くて心地良いものというイメージかと思うのですが、実際はメランコリックや孤独といったものとも親和性が高いと思うんです。怠さやコミュニケーション不全に倦むからこそ、甘く魅惑的なものにエスケープしてしまいたくもなる。そういうものが自分をメロウなものに引き寄せているかもしれないという意識はありますか?

「それはあまり考えたことがなかったですね。何かから逃避する手段としてメロウな音楽を作るというやり方はできないんだと思います。特に意図せず、自然にやってこうなっているのかもしれない」

――エスケーピズム的感覚を持ちながら意思してそういう世界を作ろうとする人もいると思うんですが、逆に意図していないからこそ、メロウなものが胚胎する憂鬱がかえってリアルに伝わってくるという気もします。

歌詞にしても、いまの社会のなかで疲れてしまっているんだけど、希望を絶やさずもがこうとする大人の像がスッと浮かび上がってくる。だからこれは、最前線の〈大人の音楽〉と言えるのかも……。

「〈大人としての音楽をやる〉っていうのは、非常に意識していますね。やたらといま〈私のお母さんは私と同じものを聴いているんです〉みたいなのが持て囃される感じもあるじゃないですか。お母さん側も〈私は娘と同じ音楽を聴いて楽しんでます〉っていう。

それはそれでステキだと思うけど、大人は大人なりの理解で自分たちの〈いま〉の音楽を聴くっていうのがもっとあっていいと思っていて。でも実際には押し並べてひとつの価値観になってしまいがちなのが現実だと思う」

――それは音楽に限らず?

「そうですね。その固定された価値観に参加して楽しむためには、余分にお金を払うしかなくなってくる。それには付き合えない」

――〈若くあるべし〉という強迫観念が蔓延してしまって、歳を重ねていく価値が無視される雰囲気には付いてけない、と。

「もちろん若い子たちの価値観を否定するつもりは一切なくて、その文化も素晴らしい。だから若い人がというより、上の世代が若い人に愛されたくて仕方ないって感じに違和感があって……。〈堂々としていればいいのに〉と思ったり」

――とてもよく分かります。凝り固まった権威主義とか慣例主義が資本主義的システムのフローを妨げていて、それは害悪だ、みたいな認識がありますよね。もっと根源的な問題としては、実はそういう発想の根幹に新しいもの、機能的なもの、スピードが早いものを良しとする効率主義が根付いてしまっているということだと思います。それによって、おのずと新しいものへ固執することになる。未来を切り拓く可能性としての〈新しさ〉ではなく、〈新しい〉ということそのものに拘泥してしまう。

「例えば、受け継がれてきた知恵や道具というものがあって、それがなくなったときに、〈じゃあ、なくなった分は何を買わされるんですか?〉っていうことも考えてしまいます」

――知恵って元来、経済効率的な観点からは独立したものだったかもしれないのに、それがいつしかマクロな経済に取り込まれていってしまうんですよね。知恵という文化的遺伝子のようなものが、グローバル企業の収益に換金されていってしまうということへの違和感というか……。

「でもやっぱり、スマホを持ってSNSをやって暮らしていると、見えているものごとが本質的なことなのかどうかっていうのは余計にわからなくなるんです……。音楽の話に戻すと、大きな規模で活動している人たちは、いま話してきたような固定されたシステムとルールのなかにいると思うので、僕らのやり方ではついていけないし、自分たちはそうじゃないところで頑張っていかなくてはならないって思います。

僕らはこのアルバムを作り出した3年くらい前から、自分たちで生活できる基盤を作ってバンドを続けていこうと思っていろいろ調整をしたんです。僕はいま、長野で暮らしながら月の半分くらい東京で音楽をやっているんですけど、そういう風に自立した形でやっていかないと、本当にやりたいことを続けていくのは難しい。自分のやり方を探しながら続けていければと思います。

……と言いつつ、あまりそういうことより……(笑)、まずは単純にアルバムを聴いて楽しんでほしいですね」

――一枚の作品として、この〈大人さ〉の魅力を是非味わってほしいですね。成熟するのは悪くないことだなって思わせてくれる、優しいアルバムだと思います。それが本当の〈メロウ〉ってことなのかもしれませんね。

 


Live Information
〈Tour “Still Life”〉

9月9日(日) 愛知・名古屋 CLUB UPSET
9月15日(土) 宮城・仙台 LIVE HOUSE enn 3rd
9月17日(月・祝) 大坂・心斎橋 Music Club JANUS
9月24日(月・休) 東京・渋谷 WWW X
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〈りんご音楽祭2018〉
9月22日(土)、23日(日) 長野・松本 アルプス公園
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