ノウワーでも活躍するハイパー・マルチスペック・アーティストが、ブレインフィーダーと電撃契約! 時代を超えて響く希代の超絶ポップを今度は一人で聴かせてくれるぞ!

 サンダーキャットと旧知のドリアン・コンセプトや新進ハウサーのロス・フロム・フレンズ、さらにはLAの宇宙才女ジョージア・アン・マルドロウ、契約が発表されたばかりのブランドン・コールマン……と、設立から10年を迎えたブレインフィーダーのラインナップはここにきてどんどんカラフルになっている。LAビートのドープな巣窟というイメージも今は昔、近年はサンダーキャットらの活躍もあってジャズ・エレメントも最重要になっているが、このたびブレインフィーダーのファミリーに加わったルイス・コールの新作『Time』を聴けば、彼らがそれだけに固執しているわけでないことはよくわかる。

LOUIS COLE 『Time』 Brainfeeder/BEAT(2018)

 もちろんルイスもジャズを学び、トニー・ウィリアムスやジャック・ディジョネットに憧れてドラマーとしても腕を磨いてきた人であるし、ソロ作『Album 2』(2013年)も主にジャズ・オリエンテッドな目線で高く評価されてきたのは確かだろう。が、資料に〈ハイパー・マルチスペック・アーティスト〉とあるように、多彩な楽器を演奏してエクレクティックなサウンドを作り上げる彼のヴィジョンは、今回の『Time』でさらに多方向に広がった。あるいは今年も来日したジェネヴィーヴ・アルターディとのユニット=ノウワーでのニューウェイヴ~エレクトロ・ポップ的な作風が、ソロ名義での楽曲にも影響を及ぼしてきたのかもしれない。

 「今作の制作を始めたのは2年半前。自分が歌うソロの音楽をまた作りたいなと思って曲作りを始めたんだ。コンセプトなんかはなかったけど、ただ新しい音楽を作りたかった。新しいアイデアをただ試したかったのと、その時自分が作りたいと思っていたものをただ作りたかっただけ。すごくシンプルなきっかけだったんだ。自分でもわからないんだけど、この曲はソロに適してるな、この曲はノウワーに適しているな、というのがフィーリングでわかるんだよね。特にジェネヴィーヴは僕の何倍も歌うのが上手いから、難しいヴォーカルのメロディーがある曲なんかはノウワー向きだと思う。あと、ノウワーのほうがよりエレクトロっぽいかな」。

 2年半前というと、日本でCD化されたノウワーの2016年作『Life』を仕上げた前後なのだろうか。YouTubeでMV(謎のルー・リード感がヤバい……)がチェックできるルイスのソロ曲“Weird Part Of The Night”は2016年8月にアップされたもののようだが、実際にアルバム『Time』のオープニングを飾るのもその小気味良くファンキーなカクテル・ポップ・チューンだ。そんな成り立ちを思えば恐らくはレーベル契約前にある程度の楽曲をプライヴェートなノリで作っていたに相違ない。そんな肩の力の抜けたノリの良さが伝わるのも、ファルセットを駆使した彼自身のヴォーカルが緻密なプロダクションと並んで本作を強く印象づけているからだろう。60年代のソフト・ロックや70年代のスウィート・ソウル、近年のファレルあたりに至るまでの歌唱の系統は、そのまま楽曲ごとのヴァリエーションにも結び付いているようにも思える。

 「何でか自分でもわからないんだけど、車で歌う時の自分の声って高くなるんだよね(笑)。謎なんだけど、高い声で歌うほうがなぜか心地がいい。低い声で歌うほうが大変なんだよ(笑)。トラディショナルなものが曲に出てきているとすれば、それは自分がこれまでに聴いてきた古い音楽が僕の頭脳の中にあって、それが自然と出てきているからだと思う」。

 一方で、MVも楽しいEW&F風味のリード・トラック“When You’re Ugly”にはジェネヴィーヴをフィーチャー。ブラッド・メルドーやイーストマン音楽学校のロチェスター・ストリングスも援護するなか、レーベルメイトになったサンダーキャットも“Tunnels In The Air”にヴォーカルで参加している。ルイスがサンダーキャットの『Drunk』に共同プロデュースで参加していたお返しともいえるが、両者にはミュージシャン/クリエイターとして相通じる部分があるようだ。

 「僕らの音楽には両方とも自由、エナジー、クレイジーさがあると思う。あとはエモーション。僕らは2人とも限界を設けない。サンダーキャットのそこが好きなんだよね。彼は領域を限定しないし、他人の意見を気にしない。ただただ自分が作りたい音楽を作ってるところが素晴らしいと思うし、それは僕自身がやりたいことでもあるんだ」。

 それはフライング・ロータスにも通じるブレインフィーダーの社風なのかどうなのか、いずれにせよサンダーキャットにも比肩するルイスの才能がこの傑作『Time』によってさらに知られることになるのは間違いないだろう。