本誌でもおなじみの坂本龍一氏の父は、編集者だった。すでに故人である。最近、TVで坂本家の出自をたどるという番組が放送された。そして、そのなんとはない関心に火をつけるかのごとくタイミングで父の仕事を辿った『伝説の編集者』という本を見つけた。音楽家の子息を通じ、意外にも文学の制作を垣間みるそんな気持ちで手に取って見た。三島由紀夫、野間宏、高橋和巳、小田実などなどを担当し、日本文学の黄金時代に、言葉の芸術を見守り続け、編集者の仕事、文学の制作の伝説を成した。それは地層のように折り重なる言葉と紙の仕事、時代に彩られたインクの滲んだ手仕事の軌跡であった。