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前作から3年空いた理由と、MVがいきなり公開される理由

――それにしても今作『凍狂』はヤバいものになりましたね。個人的には今年一番の作品かもしれないです。

廣井「グラミー賞取れますかね」

――取れますよ(笑)!!

兼重「もうグラミーの時期過ぎたけどね(笑)」

――これまでの八十八ヶ所巡礼らしさはたっぷり残しつつ、今までよりキャッチーな面が増えた気がするんです。そういうことって何か意識しましたか?

廣井「これまでのアルバム6枚は1年で絶対1枚作って、8月8日か18日に出そうって決めてて。マネージャーはよく農業に例えて〈年に1回収穫〉って言ってまして。そうやって6枚作って、7枚目を作ろうとした時に……〈なんかこのまま作っていてもバンドの力が落ちていくだけじゃないか……?〉という不安感にかられたんでしょうね、マネージャーが。だから一旦、そのサイクルをやめてみたんですよ」
※4作目『0088』のみ歌詞作りが嫌で廣井が逃亡したため9月11日に発売延期したらしい

――それで前作のリリースから3年空いたんですね。

廣井「はい。それでしばらくはライヴ活動に専念して、レコーディングはライヴの合間に2曲ずつやることにして。それを4回やれば8曲溜まるじゃないですか。そうやってレコーディングの回数を増やしながら、楽曲に向き合う時間も増やしたんです。いや、増やそうとしたんじゃなくて自然と増えていったのかな。だからそうしていくなかで、楽曲の無駄な部分が削ぎ落とされいったんだと思います。僕が衝動的に入れたかっただけの無駄が(笑)」

――それで楽曲がキャッチーになったと。でも、初期衝動は入れても、衝動的に入れようとした無駄は削るっていうのは一見矛盾してそうですよね

兼重「そうですね。でも要するに2曲入りのシングルを4回作った、みたいなことです。じっくり3年間かけて8曲を研ぎ澄ましたんではなく、短いスパンで集中して作ったので、全曲がどれも鮮度の高いものになったと思いますよ。一番最初に録ったのは2年前とかですけど、鮮度はそのままでね。だから謎なタイミングでMVも出るんですよ(笑)」

――それもすごく気になっていました(笑)。リリースがあるわけでもないのに、2016年からコンスタントに、でも不思議なタイミングでMVを5本も公開していて。あのタイミングって前もって考えてるんですか?

兼重「戦略ないでしょ? きっと(笑)」

廣井「(笑)。MVってちゃんとプロモーションっていう役割があって、その役割通りにしか作っちゃいけないみたいな風潮がありますよね。僕らも一応ライヴ告知のためとかはありますけど」

兼重「でも、なんだか順番としては異質だよね」

――ある日突然MVが上がるからファンはドキッとしますよ(笑)。でも、2曲ずつ録音していたのに不思議と全体を通して聴けるアルバムになってますよね。

兼重「これがすごいところだと思います。あっちゃこっちゃ好奇心が飛びながらも3人が好きな音を初期衝動のまま閉じ込めたら、一本芯が通ったものになってるっていう。無自覚なのがすごいですよ」

文豪・マーガレット廣井先生の歌詞制作

――歌詞はどうやって考えてるんですか?

廣井「書き留めたりはしてなくて、どんなに酔っ払って寝てもどんなことをしても頭のなかに覚えてる言葉だけを残して。すんごい効率は悪いと思いますけどね。どうしても強烈に残ってるものってあるじゃないですか。それを真実だと思っているんです」

兼重「……っていうかさ、いまカッコよく言ったけどただの怠慢です(笑)! レコーディング当日まで1行しか出来てない言い訳ですよ、それは! じゃないと事前にめっちゃ準備してるKenzoooooo君やかっちゃんが報われないよ(笑)」

――あまり語りたくないかもしれませんけど、歌詞に込めたメッセージとかはあります?

廣井「意味はないです(笑)!!」

一同「(爆笑)」

兼重「〈やってる意味のない事が大切〉ってことね
※『凍狂』収録曲“金土日”の歌詞より

――歌詞に深い意味はないと。

廣井「深いとか浅いとかは聴く人の個人差なので。僕もリスナーの一員として、受け取り方の変化が楽しめたらいいなとは思って作ってます。そういう意味では昔よりは〈多様性を持った歌詞を作る〉というところは磨きがかかったかなと思ってはいるんですけど……怠慢ですかね(笑)」

兼重「(笑)。いや、そこは怠慢ではないですよ。練りに練って歌詞を書いてるところを見てるんで」

――今までのアルバムは全部8曲入りだったのが、今回の『凍狂』はボーナストラック(“怪感旅行”)が入って全9曲じゃないですか。これはなぜですか?

廣井「サーヴィスです! 〈3年間お待たせしました!〉っていう」

――歌詞の意味はリスナーそれぞれに委ねるとして、1曲目の“虚夢虚夢”で過去の楽曲の歌詞がたくさん引用されてますよね。これはどうしてですか?

廣井「サーヴィスです(笑)!!」

兼重「この曲はアルバムの全貌が見えてきた割と最後の頃に出来た曲なんです。で、すでに廣井君が書いていた歌詞にいくつか過去の歌詞の引用があったので、もともとそういう着想はあったはずなんです。でも歌詞を見ているとそこをプッシュしてる感じでもなかったので、もっと初期衝動を出してもいいんじゃないかな、とは言いましたね。勢いのある曲だし、リスタートじゃないですけど3年ぶりにアルバムを出すんだから」

廣井「僕は以前から過去を振り返るために、昔の歌詞を引用しまくって1曲作ってみたいな、とは思ってたんですよね」

――ボーナストラックの“怪感旅行”は本編のアンコール的な楽曲ですか?

廣井「そうですね。次の作品に繋がる架け橋になればいいかな、と。まあ、ならなくてもいいんですけど」

――ということは“怪感旅行”が一番新しい曲?

廣井「そうですね。あれを一番最後に録りました。意外と苦労しました」

――1曲目の“虚夢虚夢”で過去の歌詞が出てきて、ラストの“怪感旅行”が次に繋がる楽曲だとすると、ちょうどこのアルバムが過去と未来を繋ぐ作品みたいじゃないですか。

廣井「それだ! そういうことにしておきましょう!!」

――(笑)。で、次こそ〈8〉作目じゃないですか。次回作も今回みたいな制作の仕方をするのか、どう考えてますか?

廣井「“怪感旅行”が次の作品に繋がるとすれば……そのレコーディングの時に、楽器は先に録り終わって、〈ご飯食べてから歌詞考えようかな~〉ってマンガ読んでたら、その時、兼重さんが本当に怒ったんです。いつまで経ってもこの怒られ具合は変わらないなって思って。……だから! 次もいつ出来るか未定です(笑)!!」

兼重「どういう話だよ(笑)!」

廣井「なかなか成長しないんですよ、僕って」

――例えば編集者だったら作家に〆切を設けるけど、そういうのもなく?

廣井「マンガ読み終わったら歌詞出てくるかなって思ってたんですけどね」

兼重「まあ、でも〈マンガ読むな!〉って言っても、本当にそういう意味で言ってるわけでもなくて。言ったらやる時もあるし、やらなくなる時もあるから、アクションを起こすまでボールを投げ続けるのが大事なんですよね。放っておいたら放っておいたで違うことしだすし。〈マンガ読むなよ!!〉って言えば、〈うるせえな〉って逆に書き出す流れになる時もあるから。まあ、文豪の大先生と接してる編集者のようなもんですよ(笑)」

廣井「(笑)。いい例えっすね」

兼重「文豪ならいいのか!」

廣井「文豪ならよし(笑)!」

兼重「でも、そういう編集者的な役割ってメンバー同士がやるのは結構ストレスになるんですよ」

――編集者が外部にいるのが良いんですね。

兼重「そうそう。外注だから文句も言いやすいでしょうし」

 
 

〈やってる意味の無い事が大切 僕なりにがんばってる〉

――アルバムに話を戻すとして、今作のタイトルを『凍狂』にしたことには意味がありますか?

廣井「わかりやすいっていうだけです。今まで記号ばっかりとか、読み方が難しいタイトルばっかりだったので。ジャケに文字も印字しないし、みんなアルバムのことを〈あの変なおっさんの顔のジャケの、アレ〉とか呼んでて。それよりかは『凍狂』ってタイトルの方が覚えやすいですよね」

兼重「前作は『日本』だけどな(笑)!」

廣井「あ、ほんとだ(笑)! なら『愛媛』にすれば良かったっすね!」

兼重「地域の話をしてるんじゃないよ(笑)! しかもそれに気付くまで何枚アルバム出してんだよ(笑)!」

――(笑)。今回のジャケも相変わらずヤバいですね。谷口崇さんへはどういうオーダーをしたんですか?

『凍狂』ジャケット・イラスト
 

廣井ピンク・フロイドの豚が飛んでるジャケ(77年作『Animals』)みたいなイメージを伝えたらこれが上がってきたんです。しかも地面の部分はキング・クリムゾンの『Islands』(71年作)にも似てるからすごいビックリして。まあ、全部偶然ですけどね(笑)」

――今日のMCでも喋ってましたけど、〈東京〉という街に思い入れはありますか?
※この日のライヴで廣井氏は「新宿のこんなライヴに来る貴様らは所詮田舎者だろう!! 東京の人間はこんなところには来ない!! あ、ちょっとはいるかもしれない……」と言って笑いを取っていた

廣井「あると思えばあるんじゃないですかね。でも、ないと言えばない。でも、大人になってから受けた刺激が一番デカい街でもあるし。でも、東京が最高だし一生住みたい、とは思わないし」

――そういう、東京という街へのあってないような思い入れが“凍狂”という曲のテーマでもあり、アルバムのテーマだったりはしますか?

廣井「だと思います。なんとなくそんな気がしてきました!」

兼重「リリースを10日後に控えていま初めて思いましたね、これは」

廣井「(笑)。思ってることはどんどん変わっていきますからね!」

兼重「どんどんブッ飛んでいくね~(笑)!」

一同「(爆笑)」

――では最後にメンバー3人に聞きたいんですけど、〈やってる意味の無いことが大切〉とはいえ、3人がバンドをやってる意味って何なんですか?

Katzuya Shimizu「うーん……それしかできないから……かな」

Kenzoooooo「…………」

兼重「……Kenzoooooo、頭から煙出てるよ(笑)。口ベタなふたりの代わりに言わせて頂きます。いま、日本で音楽をやってる人って音楽が〈目的〉の人と〈手段〉の人がいて。〈音楽で儲けたい〉とか〈音楽でモテたい〉とか〈有名になりたい〉とかは何でもいいんですけど、音楽を〈手段〉だと捉えてる人の方が多いと思うんですよ。でも、彼らは単純に〈音楽をやりたい〉だけだから、そういう階層にはいないんです。もちろん音楽をやった上で得るものがあれば、それに越したことはないと思うんですけどね」

Kenzoooooo「そそそ! そういうことが言いたかったんです!」

――なるほど(笑)……という話を受けて最後はマガレさん。バンドをやってる意味とは?

廣井「〈僕なりにがんばれる〉ことだからです!!!!」

一同「(静寂)」

廣井「……兼重さんが良いこと言った後だからオチが思いつきません!!」

兼重「そういう時は……脱げばいいんだよ!」

一同「(爆笑)」